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雪組新トップスター朝美絢がその演技力でファンタジー世界を表現した雪組公演「ほんものの魔法使」

2025.2.28(金)

雪組公演「ほんものの魔法使」は、アメリカの作家ポール・ギャリコによるファンタジー小説をミュージカル化した作品だ。 脚本・演出は木村信司である。

物語の舞台は魔術師が住まう都市マジェイア。偉大な魔術師の娘なのに出来が悪いと言われてきた少女ジェイン(野々花ひまり)の前に、不思議な青年アダム(朝美絢)が現れる。言葉を話す犬モプシー(縣千)と共に旅をしてきたという彼は、肩書きのない「ただのアダム」と名乗り、魔術師名人組合への加入を希望した。だが、アダムが見せる種も仕掛けもない「ほんものの魔法」はマジェイアを騒動に巻き込んでいく...。

主人公のアダムを演じる朝美絢は、トップスター、トップ娘役を多数輩出している95期(2009年入団)のひとりだ。星組の礼真琴、花組の柚香光、月組の月城かなとに続き、待望の雪組新トップスターに就任を果たした。現実離れした美しいビジュアルと地に足のついたお芝居とのギャップが魅力だが、アダムはそんな朝美にぴったりのハマり役だ。

ジェインを演じる野々花ひまりも健気でしっかり者のヒロインがぴったりだ。浮き足立つ魔術師の中でただ一人、物事の本質をしっかり見つめていく役割を担っていた。

アダムの良き相棒モプシーは歯に衣着せず喋り、その言葉はアダムにだけ届く。タカラジェンヌが犬を演じる機会もなかなかないと思うが、原作そのままの愛らしくも痛快なキャラクターを縣千が体現してみせる。
 
大抜擢が話題になったのが、当時まだ入団2年目でニニアン役を演じた華世京だ。抜群の舞台度胸で臆病な魔術師をユーモラスに演じてみせ、その後の飛躍のきっかけを作った。

原作の世界観が大切にされている脚本、演出、そしてキャストの演技によって、タカラヅカは「ほんもののファンタジー」を舞台化できる劇団だと再確認することができた作品でもある。アダムが次々と繰り広げる魔法を舞台上で華やかに展開できるのも、さすがタカラヅカだ。
 
したがってこの作品、原作と舞台の両方を味わうのもおすすめだ。原作を読んで舞台を観て、「舞台だから見せられる魔法」を思い出しつつ原作の世界観を反芻する。これぞ本と舞台の相乗効果。原作を読んでから、公演をじっくり味わってみるのもいいかもしれない。

この作品は脚本・演出を担当した木村信司の「ファンタジー作品をつくりたい」との強い思いから生まれたと聞いている。たかがファンタジー、されどファンタジー。「夢」をうたうタカラヅカの基本に立ち返ったような本作に、ホッとさせられる。
 
「この世は魔法に満ちている」、この作品のメッセージはこの一言に尽きるのではないだろうか。日常に忙殺されて周りが見えなくなりそうなときや、謙虚さを忘れそうになったとき、ふと見返したくなる作品だ。

文=中本千晶

放送情報【スカパー!】

ほんものの魔法使(’21年雪組・バウ)
放送日時:3月28日(金) 19:30~
放送チャンネル:TAKARAZUKA SKY STAGE
※放送スケジュールは変更になる場合があります