深川麻衣×若葉竜也、映画『嗤う蟲』は視点ひとつで印象が変わる「いろんな見方ができる」
2025.1.23(木)
深川麻衣が主演、城定秀夫が監督を務める映画「嗤う蟲」が1月24日(金)に全国公開される。
田舎暮らしに憧れるイラストレーターの杏奈(深川)が、脱サラした夫・輝道(若葉竜也)と共に麻宮村に移住するところから始まる本作。二人は、自治会長の田久保(田口トモロヲ)をはじめ、村民たちの度を越したおせっかいに辟易するなか、その不気味さに徐々に違和感を覚える。やがて、村に隠された掟を知ってしまった輝道は、村八分にされないため、掟に身を捧げて...。
今回、夫妻を演じた深川と若葉にインタビューを実施。「ヴィレッジ"狂宴"スリラー」と銘打たれ、恐怖心を煽るポスタービジュアルや予告も話題となっている本作だが、二人の話を聞いていると、それだけではない「嗤う蟲」の魅力が垣間見えた。
――本作に出演が決まったときの思いから聞かせてください
若葉「今はメジャーな作品も撮られていますが、アンダーグラウンドなイメージがあった城定監督が深川麻衣という女優をどう撮るのか。すごく興味がありました」
深川「城定さんとご一緒できるのが嬉しくて、脚本を読んで"やってみたい"と思いましたし、今まで体験したことのないジャンルだったので、新しいものにも挑戦できそうだなと思いました」
――実際に「城定監督が撮る深川さん」を現場でご覧になっていかがでしたか?
若葉「面白かったですね。(城定監督は)細かく演出する方ではないのですが、深川さんが持っている素質や、パブリックイメージにはないけれど、人間誰しもが持っている毒をしっかりキャッチして露わにしていこう、という姿勢を感じました」
――若葉さん自身は監督とやってみていかがでしたか?
若葉「ほとんどワンシーン・ワンカットなんですが、それって『どんな芝居が来ても絶対にとらえられる自信がある』ということなんだろうし、保険のカットも撮らない。演出も丁寧で、しっかり現場を見ている方なんですけど、ものすごいスピード感で、撮影も大体3時間巻きとかで終わるんですよ。人によっては不安に感じるかもしれませんが、僕は城定さんの『自信』を感じましたね」
――深川さんは監督と撮影を共にしてどんなことを思われましたか?
深川「とても判断力が早く演出が的確でした。今回ワンカットのシーンが多かったので、撮影中は、"繋がったらどういうテンポ感の映像になるんだろう"と思っていたんです。いざ完成作を見たら、不穏な間や繋ぎ合わせてできる緊張感も含め、エンタメとして楽しめる映画になっていて、すごいなと思いましたね。監督自身、人見知りとはおっしゃっていたんですけど、演出のときも絶対に目を合わせてくれないんです(笑)。城定組常連の松浦祐也さんが現場にいるときはにこやかな笑顔も見せていて、シャイな方だなと思いましたね」
――それぞれが演じたキャラクターについてどんな印象を持たれましたか?
若葉「僕は輝道という人があまり好きではなく、いろんなことをヘラヘラごまかしてきた人なんだろうなという印象でした。ちょっと調べれば分かるようなことも調べようとしないし、知らないままじゃないですか。少し形骸的なものを感じていましたね」
深川「杏奈は意志がはっきりしていて、自分の感情と行動が素直に繋がっているタイプ。後半になってからは子供が生まれるのですが、母親として変化していく部分が大きいので、自分が子供を産んだことがない分、想像で補うしかありませんでした。ただ、その心境の変化はかなり大事な部分でしたので、監督に相談したり、お子さんを産んでるお友達に話を聞かせてもらいながら探っていきました」
――村人たちと夫妻のやりとりをご覧になってどんなことを感じましたか?
若葉「僕はこの夫妻に加害性を感じています。被害者みたいな顔をしているけど、村のルールも何も調べずに人の場所に土足で入り、めちゃくちゃにしているのはあの2人だと思うんですよ。この無自覚の加害性の方がちょっと恐ろしくて...。もちろん村人たちにも気味の悪さは感じるんですけど、少し被害者でもあるというか。この夫妻が入ってきたことで、壊れてしまったものもたくさんあるんだろうな、と思いました」
――秩序が壊れたと
若葉「そうなんですよね。めちゃくちゃにされたのは、この夫妻のせいなんじゃないかと思いました。どちらかというと、『無自覚の恐ろしさ』と対峙している村人たちがかわいそうに見えてきちゃいましたね」
――名優たちが演じる村人の演技にも鬼気迫るものがありました。皆さんの演技についてはどんなことを思われましたか?
深川「撮影をしていても、映画を見ても、皆さんインパクトがすごくて...。特にトモロヲさんは、私の引き出しにはまったくない言い回しだったり、アプローチだったりが(演技に)詰めこまれていました。トモロヲさん自身はすごく穏やかで誠実なお人柄なんですけど、田久保さんになったときに、気迫みたいなものを感じましたね」
若葉「トモロヲさんはパンクロッカーだからね」
深川「公民館のシーンでの休憩中、畳の真ん中に撮影で使う赤ちゃんの人形がポンと置いてあったんです。みんなでワイワイしているなか、さびしげに置かれている人形を見たトモロヲさんが『この世の無情ですね』とおっしゃっていて」
若葉「(笑)」
深川「その光景を見て、その言葉が出てくるワードセンスにシビれました。面白いし、言葉がユニークだなって」
若葉「人形は精巧に作られていて、手も自由に動くんですけど、気がついたら人形が中指を立てていました」
――(笑)
若葉「誰か人形で遊んでいるなと思ったらトモロヲさんでした(笑)」
――この作品をご覧になってみて、一番心に響いた点を教えてください
若葉「恐怖とか村とかそういうことは関係なく、エンターテインメント性の高い作品の中に、現代の居心地の悪さだったり、気味の悪さだったり、同調圧力だったり...。そういったものが、しっかりメッセージ性として組み込まれているのが面白いなと思いました。作品を見て『あ、これがやりたかったのか』と、いろいろ納得しましたし、腑に落ちました」
深川「城定さんが撮影前から考えていた『どちらかを100悪人にしたくない』という思いがラストに繋がっていましたし、結末は母親としての強さを感じ取れるものになっていて素敵だなと思いました。スカッとしたラストではなく、言葉にできない複雑な気持ちが残る感覚が、新しくて好きだなと思いました」
――主軸となる夫妻の関係性について、お二人にはどう見えましたか?
若葉「逆にどう見えたのか気になります」
――今後も含めてうまくいくのかな、と心配になりました...
若葉「僕もそうです。輝道があの状況になるまで動かなかったことが問題で、この映画の元凶という感じがするんですよね」
深川「(輝道が)自分のことを信じてくれないとか、『なんで話を聞いてくれないんだろう』という不満とか、杏奈の気持ちもすごく分かるんです。でも、全体で見たら輝道も複雑な思いを抱えていたし、思考が整理できていないうちに、"そうするしかない"ことがあって...。すごくかわいそうだなと思いました」
若葉「杏奈も村人たちも、誰かのために、村のためにとアイデンティティを持って行動しているのに、(輝道は)この作品で唯一アイデンティティがない気がするんですよ。だからこそ気味悪く見えましたね」
――ここでもいろんな意見が飛び交うということは、ご覧になる方にもさまざまな思いが交錯しそうですね
若葉「そうですね」
深川「(村人とのシーンは)今でも鮮明に覚えているシーンがありますし、(気味が悪く感じる登場人物も)本当はあのとき"こうしたかったんじゃないか"と思うシーンもあって...決めつけることができないんですよ。若葉くんも言ったように、あの夫妻も最初は村が発展していく救世主に見えたかもしれないけれど、逆に"2人が来なかったらこうはならなかったかも"とも思えて...。本当にいろんな見方ができるし、切なさも感じる作品なんですよね」
写真・文=浜瀬将樹
映画情報
映画「嗤う蟲」
2025年1月24日(金) 全国ロードショー
監督:城定秀夫
脚本:内藤瑛亮
出演者:深川麻衣、若葉竜也、松浦祐也、片岡礼子、中山功太、杉田かおる、田口トモロヲほか
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