池松壮亮の俳優としての力量が作品のメッセージに説得力をもたらす!時代劇「せかいのおきく」
2024.10.30(水)
2026年の大河ドラマ「豊臣兄弟!」で主人公・豊臣秀長(仲野太賀)の3歳年上の兄・豊臣秀吉を演じる池松壮亮。今年の夏に出演した目黒蓮主演のドラマ「海のはじまり」での好演が記憶に新しい。また、今年11月には主演映画「本心」の公開も控えているなど、ドラマや映画のオファーが絶えない。味と色気のある実力派俳優として活躍中だ。
そんな池松が、江戸時代末期を背景に下肥買いで生計を立てている青年・矢亮を演じたのが、黒木華主演の「せかいのおきく」だ。監督は2000年に公開された映画「顔」で日本アカデミー賞最優秀監督賞を受賞した阪本順治。「せかいのおきく」は「亡国のイージス」、「テルマエ・ロマエ」などで映画美術監督を手掛けた原田満生が発起人となり、古くからの付き合いだという阪本監督と組んだ「YOIHI PROJECT」製作による第1弾となる作品。国内で数々の賞に輝き、韓国でも公開された。低予算、モノクロ、そして偉人は出てこないオリジナル脚本の時代劇ながら高い評価を得た本作は、江戸時代のサステナブルな循環型社会をユーモラスに描いている。
主演の黒木が演じているのは武家育ちで侍だった父・源兵衛(佐藤浩市)と共に貧乏長屋で暮らしている22歳の主人公・おきく。明るい青年・矢亮を池松が、おきくに想いを寄せる矢亮の弟分・中次を佐藤浩一の息子で俳優の寛一郎が演じている。バイプレーヤーとしても心に残る存在感を発揮する池松は、江戸時代の社会の底辺で這いつくばりながらも笑いを忘れない若者を、生き生きと演じている。
■池松演じる矢亮のセリフには"時代を超えた説得力"がある
下肥買いとして農村の肥料となる糞尿を運ぶハードな日々を送っている矢亮は、紙屑屋だった中次に懐かれ、やがて2人は相棒のような関係になっていく。身体に染み付いた臭いにみんなから鼻をつままれる仕事だが、大雨が降った長屋の道から溢れる屎尿に住民たちが閉口する中、矢亮たちは疎まれながらも江戸の庶民の助っ人として活躍する。中次に"あにい"と呼ばれている矢亮の口癖は「笑うとこだぜ」で、ジョークは主に糞にまつわることが中心。「どいつもこいつも上からもの入れて下から出す。誰だってそれだけのもんさ」など、いわゆる格差社会を鼻で笑って吹き飛ばすセリフには妙な説得力がある。声を失ったおきくと中次の淡いラブストーリーが描かれる中、池松の存在が本作のメッセージを伝える刺激的なスパイスとなっている。
■糞まみれになってもかっこいいと思わせる俳優としての力量
本作が歴史に詳しくなくとも青春群像劇として楽しめる理由の1つは、矢亮と中次の凸凹コンビによる軽妙なセリフのやりとりにある。江戸育ちでイケメン、仕事は半人前だが、おきくにも好かれている中次。一方で身寄りもなく、毎日を必死で生きている矢亮。肥料を運ぶ荷車が道の途中で壊れてしまい、走って運ぶことになったりと珍道中の中、時には言い合いに発展する2人のやり取りはまるでお笑いコンビのようでもある。
世の中への不満や嫉妬、寂しさを抱えて、それでも野望は捨てていない矢亮を演じた池松は、糞まみれであってもかっこいい。そして本作の魅力の1つは物語と同時に、自然の美しさが際立つ作り。真っ白な雪が降り積もるおきくと中次のシーンはもちろん、雨の音や川の柳が風に揺れる音も心を癒す。
人間と自然の共存をさりげなく描き、逆境の中で生きていく3人の若者の強さとやわらかな心を感じさせる本作。池松の存在が頼もしくもある作品だ。
文=山本弘子
放送情報【スカパー!】
せかいのおきく
放送日時:2024年11月8日(金)22:00~
チャンネル:映画・チャンネルNECO
※放送スケジュールは変更になる場合がございます
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