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渡哲也が表現する無頼な主人公の心理の屈折から見る役者の本質

2024.10.29(火)

役者として一時代を築き、石原裕次郎亡き後、石原プロの2代目社長として「石原軍団」を率いた渡哲也。渡といえば、ドラマ「西部警察」シリーズ(1979~2004年、テレビ朝日系)の大門刑事や、ドラマ「太陽にほえろ!」(1972~1986年、日本テレビ系)の橘警部、ドラマ「大都会」シリーズ(1976~1979年、日本テレビ系)の黒岩刑事といった寡黙で存在感のある役のイメージが強いのではないだろうか。だが、石原プロに移籍する前の日活時代では、舛田利雄監督による映画「無頼」シリーズ(1968、1969年)などの"無頼"な男性のイメージが強かった。そんな"無頼"な渡が楽しめる作品の1つが、映画「やくざの墓場 くちなしの花」(1976年)だ。

(C)東映

同作品は、主演・渡×監督・深作欣二によるハードアクション巨編で、ヤクザと警察上層部との黒い癒着の狭間ではみ出していく無頼派刑事のすさまじい生き様を描いたもの。渡は、同作品で主人公の黒岩竜を演じ、「第19回ブルーリボン賞主演男優賞」を受賞。抗争事件を追い続け、10年のキャリアを誇る敏腕刑事・黒岩(渡)は、警察と暴力団の黒い癒着を知り、正義と狂気入り混じる異常なまでの暴力と愛に自ら身を落としていく。

渡はこの黒岩役で圧倒的な"無頼"を体現。言葉は多くないが、荒々しい気性と言動、あふれるパッションなど、前年の病気による長期入院を経て同作で映画本格復帰となったことを感じさせない白熱した演技を披露。大門刑事のような渋くて威圧感のあるキャラクターとはまた違った、荒々しく猛々しいキャラクターを作り上げている。

(C)東映

深作監督の力強い演出やカメラワークによるところもあるのだが、黒岩の"思うように正義を貫けず息苦しさを感じる中で、だだ洩れてくる情熱"が心を打つ。ヤクザと警察上層部の癒着を知り、心が荒んでいくさまや反権力の組織の中に身を落としていく心理の屈折が、そこはかとない切なさを感じさせ、何とも言えない哀愁があふれているからだ。この"荒々しさ"と"切なさ"が同居する瞬間こそが、"無頼"につながっており、誰にも頼らず一人で戦う強い漢でありながら、哀愁が漂い弱くも見える。視聴者はそこで目が離せなくなるのだ。

(C)東映

そんな中で、飲み屋のシーンで意に沿わないことを言われている時の黒岩の"首を折って下を向いて聞いている姿"は必見。動きはなく、せりふもないのだが、黒岩自身の心の中が演技によって雄弁に語られているのだ。動きでもせりふでもなく、体から醸し出るオーラで役の心情を表現する渡に、役者の本質を垣間見ることができる。

大門刑事のイメージが強い方々には特に"無頼"な渡に新鮮味を感じていただきながら、彼が持ち前の表現力で表した役の心理の屈折に心震わせつつ、役者の本質についても考えを巡らせてみてほしい。

文=原田健

放送情報【スカパー!】

やくざの墓場 くちなしの花
放送日時:11月6日(水)20:00~ 
放送チャンネル:東映チャンネル
※放送スケジュールは変更になる場合があります