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松田優作出演の『蘇える金狼』『野獣死すべし』は、アクションスターとしての輝きと、ハリウッドへ舵を切る瞬間を記録した記念碑的作品

2024.10.20(日)

『蘇える金狼』
『蘇える金狼』

強烈な個性と圧倒的なカリスマ性で、1970~80年代の昭和映画界を駆け抜けた不世出のスター、松田優作。がん闘病中に出演し、遺作となったハリウッド進出作『ブラック・レイン』(1989年)の鬼気迫る演技は今や語り草だ。ほかにも数々の伝説を残し、時代が平成から令和へと移った今もその人気は衰えない。今年の11月6日には没後35年を迎えるが、これを記念してハードボイルドアクションの代表作『蘇える金狼』(1979年)と『野獣死すべし』(1980年)の2本が、WOWOWプラスで放送される。

■ハードボイルド映画の名手・村川透監督とのコンビの集大成『蘇える金狼』

大ヒット刑事ドラマ「太陽にほえろ!」(1972~86年)のジーパン刑事役で1973年に俳優デビューした松田は、185㎝の長身と野性味あふれるたたずまいを武器に、アクションスターとして頭角を現す。やがて、ハードボイルド映画の名手・村川透監督とのコンビで『最も危険な遊戯』『殺人遊戯』(共に1978年)を成功させた松田は、その集大成ともいえる『蘇える金狼』に挑むことに。原作は大藪春彦の同名小説。昼は黒縁メガネとスーツで地味なサラリーマンとして働く一方、夜はボクシングで鍛えた肉体と強盗で手に入れた1億円を武器に、会社を食い物にする悪徳経営陣に戦いを挑む男・朝倉哲也の活躍を描いたピカレスクロマンだ。

本作で松田は、それまで培ってきた持ち味を存分に発揮。海外で1週間の射撃訓練を行ったガンアクションをはじめ、アクションシーンは見応え十分。そこに、長身を生かしたスタイリッシュな佇まいと時折見せるユーモアが加わった唯一無二のキャラクターが観客を魅了し、松田は大ブレイクを果たすこととなった。

それまでのハードボイルド路線を継承した本作の中で、特筆すべきは壮絶なラストシーンだ。役が憑依したかのような入魂の演技は、名門・文学座出身の松田の実力をまざまざと見せつけ、まさに独壇場だ。

■凄まじい役作りで圧倒的な存在感を発揮した『野獣死すべし』

『野獣死すべし』
『野獣死すべし』

(C)KADOKAWA 1980

『蘇える金狼』の成功を受け、続けて村川とのコンビで大藪春彦の『野獣死すべし』の映画化が決定する。同時期に主演したテレビドラマ「探偵物語」(1979年)も好評だったことから、誰もが『蘇える金狼』のような屈強でスタイリッシュ、ユーモアのある松田を期待していた。

ところが、イメージの固定化を嫌った松田は、主人公・伊達邦彦のキャラクターを原作から大幅に改変。これまで演じてきた屈強なダークヒーローではなく、体重を8キロ落とし、歯を4本抜くすさまじい役作りで、青白い顔と猫背で歩く幽霊のような人物として作り上げてしまった。

その特異なキャラクターを前面に押し出した分、ストーリーはいたってシンプルで、元戦場カメラマンの伊達が、狂犬のような男・真田(鹿賀丈史)を仲間に加え、入念に計画した銀行強盗を実行する...というもの。せりふは少なく、松田がまともにせりふをしゃべるのは、開始から20分以上経ったあと。と思えば、苦悩の末に恋人を射殺した真田に語り掛ける場面をはじめ、ここぞというところで陶酔したように長せりふを繰り出すなど、迫真の演技で圧倒的な存在感を示した。

だが、改めて振り返ってみると、『野獣死すべし』の強烈な演技は、『蘇える金狼』ラストシーンの延長線上にあることがよくわかる。そしてこれが松田にとって大きな転換点となり、以後「最も波長の合う監督」とまで語っていた村川とのコンビを解消。やがてハードボイルド路線にも別れを告げ、文芸作品へと軸足を移し、演技派俳優に転向していく。最終的には、ここまで磨き上げたアクションのスキルと、その後の演技派路線が一体となり9年後、『ブラック・レイン』でのハリウッド進出に結実。すなわちこの2本は、アクションスターとしての輝きとハリウッドに向けて舵を切る瞬間を記録した松田優作の記念碑なのだ。

文=井上健一

放送情報【スカパー!】

蘇える金狼(1979)
放送日時: 11月6日(水)18:30~
野獣死すべし(1980)
放送日時: 11月6日(水)21:00~
チャンネル: WOWOWプラス
※放送スケジュールは変更になる場合がございます