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木村佳乃と舘ひろしがW主演し、クセのある刑事を演じた力作「PS-羅生門-警視庁東都署」

2024.10.11(金)

東映チャンネルで放送される「PS-羅生門-警視庁東都署」は、2006年にテレビ朝日系で放送された全11話の刑事ドラマだ。木村佳乃と舘ひろしのW主演で、PSとは「Police Station」を指す。「羅生門」との異名をもつ警視庁東都署を舞台に、ひとクセある刑事たちの活躍を描く物語だ。原作はビックコミックオリジナルに連載された矢島正雄原作・中山昌亮作画の漫画で、ドラマ化においても矢島自身が脚本を手掛けている。

(C)東映

本作はテレビ朝日系の水曜21時枠で放送されたのだが、同枠は「相棒」シリーズをはじめ、伝統的に同局が誇る刑事ドラマの名作が放送されてきた。本作の松本基弘チーフプロデューサーは「相棒」の生みの親とも言われる人だし、大川武宏プロデューサーも後に「特捜9」を手掛けているので、テレ朝"水9"枠の顔とも言えるスタッフが集結していた。

"羅生門"とは、人間と獣の境界に立つ門という意味合いで、東部署はいわゆる警察の掃きだめ的な存在。「ここに飛ばされたら最後」と揶揄される東部署に、シングルマザー刑事の紅谷留美(木村佳乃)が赴任してくる場面から物語は始まる。なぜか署の前におでん屋の屋台があり、主人に声をかけられるのだが、その男はじつは課長の吉見武士(伊東四朗)だった。署内はまるでカオスで、警察署とは思えない信じがたい喧騒に包まれている。留美の仲間となる刑事たちは、元チーマーで一見半グレ風の安全豊(遠藤章造)、ガラが悪そうな土橋順一郎(佐野史郎)、気弱でおとなしそうな野原常久(池田努)など、一癖ありそうな連中ばかり。それでも、いざ現場に向かえば皆優秀であることがわかった。特に、土橋は初動捜査でわずかな証拠から瞬く間に犯人の目星をつけてしまうなど、天才ぶりを発揮。唯一まっとうな人間に見える弓坂文雄にしても、ITを駆使して極めて有能な刑事ぶりで捜査の核となっていた。そんな曲者たちのまとめ役となっていたのが、黒田勘太(舘ひろし)。

(C)東映

ニヒルな中年男で、いつもタバコをくゆらせて留美にも極めてクールに接する。捜査は仲間に任せ、自分だけサウナに行ってしまうなど、ふざけた態度こそ見せるものの、じつは洞察力に優れて犯人の心理を読むことに関しては天才的。彼もまた超有能な刑事なのだ。コミック作品の映像化ということで、多少コミカルな演出も見られるが、本作の魅力は、犯罪者の心理を丁寧に描いた骨太なストーリーにある。

例えば、コンビニ強盗にバイト店員だった妹を殺された男が登場するエピソード(第5話)があるが、殺された妹の容姿をからかうような世間の冷たい声にいびつな怒りを沸騰させ、自らがコンビニを襲って籠城事件を起こす。偶然コンビニに居合わせた留美が必死に犯人を説得するが、視聴者が犯人側に同情してしまうような筋立てなのだ。単純に悪を悪として描かないあたりは、同局の名作ドラマ「特捜最前線」を思わせる。脚本を書いた矢島正雄も同作に参加していたし、人間の本性を奥深く描くのが得意な矢島の作風は本作でも存分に発揮されている。ちなみに第5話に籠城犯役でゲスト出演していたのが、ネプチューンの名倉潤。暗い目をして人生に絶望しきった男を巧みに演じて好演ぶりが印象的だ。ほかにも、デビュー間もない頃の吉高由里子が女子高生役で出演(第2話)するなど、毎回登場するゲストの顔ぶれにも見どころが多い。

ただ、本作の魅力はやはり主演の2人。特に木村佳乃の好演に尽きると言ってもいい。木村演じる留美には刑事だった夫が海で人命救助をした際に溺死してしまうという悲しい過去があった。第1話では、その時に夫が命がけで助けた男の後日談が描かれる。彼に対して、留美が亡き夫の思いを感情的にぶつける場面での木村の演技はまさに圧巻であり、胸を打つ。曲者ぞろいの仲間に対して、前半では狂言回し的な役割もしているが、抑揚の付け方が抜群で、序盤の抑えた演技があるからこそ、後半の強い芝居が生きるのだ。木村の女優としての力量に改めて気づかされる作品になっている。

舘ひろしもまさに彼にしかできないような役柄で、ハマり過ぎて思わず笑ってしまう場面もありつつ、ツボを押さえた演技で画面を引き締めてくれている。主役2人を中心に、ゲストを含めて芸達者な俳優陣の演技合戦が見られる「PS-羅生門-警視庁東都署」。派手さこそないものの、ヒューマンドラマとしての完成度が高く、見ごたえ十分な大人のドラマとして、おすすめしたい。

文=渡辺敏樹

放送情報【スカパー!】

PS-羅生門-警視庁東都署
放送日時:10月23日(水)15:00~
放送チャンネル:東映チャンネル
※放送スケジュールは変更になる場合があります