坂上二郎の俳優としての力量に感心させられる名作「夜明けの刑事」
2024.7.22(月)
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1970年代はまさに刑事ドラマの黄金時代で、「太陽にほえろ!」(日本テレビ系)をはじめ、「Gメン75」(TBS系)、「特捜最前線」(テレビ朝日系)といった作品が大ヒットし、それぞれロングランシリーズとして長年親しまれた。そんな刑事ドラマ全盛期に、やや毛色の異なる作品として、ファンの間に強烈な印象を残したのが、「夜明けの刑事」(TBS系)である。
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同作は1974年10月から1977年3月まで全111話が放送された。主演を務めたのは、コント55号の坂上二郎。相方の萩本欽一と共に当時トップクラスのお笑い芸人だった彼だが、俳優としても活躍していた。しかし、コント55号としての出演作を除けば主演は珍しく、しかもシリアスな刑事ドラマということで、かなり思い切ったキャスティングであることが窺い知れる。
坂上が演じるだけに主人公の鈴木勇刑事は、ユーモラスで庶民的な人情派の刑事という設定。スマートさとは程遠いが、人間味あふれるキャラクターで見る者を和ませてくれる。レギュラーメンバーは、警視庁日の出署の刑事課長・相馬一郎(石立鉄男)をはじめ、熱血漢の池原雄介(石橋正次)、ムードメーカーの小林敦(鈴木ヒロミツ)、クールな黒田俊夫(藤木敬士)といった面々。鈴木刑事は「スッポン刑事」の異名で、容疑者を執拗にマークする執念深い捜査が信条。涙もろく、心優しい性格が仇となってミスを犯すこともあるが、視聴者が共感しやすいキャラクターだ。
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レギュラー俳優陣のキャラが立っていることも魅力で、特にコミカルな役を得意とした石立が本作では一転し、厳格ながら部下思いのカッコいい上司を重厚な演技で表現している。青春ドラマ等で人気絶頂だった石橋も情熱的でエネルギッシュな池原刑事を熱演。エンディグテーマ「夜明けの街」の歌唱も担当し、ハートフルで魅力的な歌声を聴かせてくれる。残念ながら石橋は42話で降板してしまうが、その後に水谷豊が山浦刑事役でレギュラー入り。純粋で強い正義感を持つが、若さゆえにミスが多く、先輩刑事にいつも叱責されてしまうという役柄だ。その後は「熱中時代・刑事編」(日本テレビ系)や「相棒」シリーズの杉下右京役を演じ、名刑事ぶりが板についている水谷だが、本作が刑事ドラマでのデビュー作であり、未熟な新米刑事ポジションなのが興味深い。
独特な作風で知られる大映テレビの制作だけに、本作も他の刑事ドラマとは一線を画した設定が多々見られ、まずはゲスト出演者の顔ぶれが異色。矢沢永吉率いる人気バンド・キャロルや当時人気絶頂のアイドルだった山口百恵、女子プロレスの大スター・ビューティ・ペア、「岸壁の母」を大ヒットさせた歌手・二葉百合子などが登場した。特に当時の矢沢をドラマ出演させた功績は大きいだろう。世相を反映させたストーリーも特徴で、放送当時の大ヒット曲「およげ!たいやきくん」をフィーチャーしたストーリーや、70年代当時に精力的に活動していた女性解放運動団体の「中ピ連」を登場させるなど、思い切った脚本で楽しませてくれた。
もう一点、本作の価値を高めているのが音楽だ。オープニングテーマのカッコよさ、英国の大物ロック歌手のポール・ロジャースの歌う挿入歌「Yoake no Keiji」はまさに絶品だ。あまりに名曲なので、現在でも多くの人がカバーしている。石橋降板後にエンディングを担当した、鈴木ヒロミツが歌う「でも、何かが違う」も心にしみるバラードだ。
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ド派手なアクションや華のある役者の躍動こそないが、愚直な捜査に徹して犯人を追い詰める「夜明けの刑事」は、まぎれもない昭和ドラマの傑作だと言える。人情味あふれるリアルな刑事ドラマとして、今見ても見ごたえ十分の一作だ。コント55号では常に萩本欽一にどつかれる役回りだったが、じつは芸人としての力量は抜群で、何でもできてしまう万能タイプだった坂上二郎。芸達者すぎる彼に突っ込むため、萩本は徹底したアドリブで勝負したそうだ。それを瞬時に受け止めて笑いを生み出したのは、ひとえに類まれな坂上の才能だろう。そんな彼だけに、演技でも相当な実力の持ち主だったことは、本作を観れば一目瞭然である。改めてその実力をじっくり噛みしめてほしい。
文=渡辺敏樹
放送情報【スカパー!】
夜明けの刑事
放送日時:8月6日(火)04:00~ 毎週(月)-(日) 2話ずつ放送
放送チャンネル:TBSチャンネル2 名作ドラマ・スポーツ・アニメ
※放送スケジュールは変更になる場合があります
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