板谷由夏がコロナ禍に沈んでいく女性役で魅せた、ルックスを超越した鬼気迫る演技で作品に与えた「リアルさ」
2024.5.27(月)
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映画、ドラマ、舞台、CMなど数々の作品に出演し、2023年には連続ドラマ初主演を務めるなど、俳優として一層脂がのってきた板谷由夏。クールで美しいルックスから、きれいで強い女性を演じることが多い彼女だが、最近では鬼気迫る体当たり演技を披露しており、芝居に対する圧倒的な熱量を発散し始めた印象がある。
前述した連ドラ初主演作では、娘を殺された母親役で「なにがなんでも復讐を果たす」という思いに捕らわれた女性を熱演。「板谷がここまで泥臭い演技をしてくれるのか」と驚いた視聴者も少なくなかっただろう。モデル出身の彼女は、立ち姿がどうしても凛々しく品があるため、キリッとした強くカッコいい女性役は適任なのだが、汚れてやつれた惨めな役にとっては、そのルックスが"足かせ"になるになることも。しかしながら、ルックスの"足かせ"を圧倒する演技を見せてくれている、彼女の熱のこもった演技をより堪能できる作品が、2022年に公開された映画「夜明けまでバス停で」だろう。連ドラとはまた違った、よりディープな世界へ連れて行ってくれる。
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(C)2022「夜明けまでバス停で」製作委員会
同作品は、2020年に起こった東京・渋谷ホームレス殺人事件に着想を得たもので、孤独な中年女性がコロナ困窮と社会的孤立に飲み込まれていく姿を描いた問題作。自作アクセサリーを販売し、夜は居酒屋で住み込みのパートとして働いている北林三知子(板谷)は、突然訪れたコロナ禍により、仕事も住む家も失ってしまう。新しい仕事は見つからず、行き場をなくした彼女が辿り着いたのはバス停だった。ある夜、三知子がバス停で眠り込んでいると、そこを通りかかった男が、拾った石の塊を三知子の頭めがけて振り下ろそうとする。
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(C)2022「夜明けまでバス停で」製作委員会
板谷が演じる三知子は、別れた夫が作った借金を「自分名義の借金だから」と返し続けており、居酒屋の仕事では同僚がセクハラを受けていると相手に厳しく注意したり、店のマネージャーの知人に対する過度なサービスに嫌悪感を示すなど、正義感の強い女性。一方で、家族との仲は芳しくなく、故郷にもしばらく帰っていない。経済的にギリギリだが、パート仲間たちとなんとか暮らしている中で、突然のコロナ禍に見舞われてしまう。緊急事態宣言により居酒屋は休業。その煽りを受けて失職。新たな職が見つかったと思いきや、急に白紙に戻されて行き場を失ってしまう。
高橋伴明監督が描く、誰にも気づかれないままじんわりとゆっくり暗い海の底に沈んでいくような現代社会が有する"怖さ"もさることながら、どうすることもできないまま沈んでいく中年女性を演じた板谷の演技が、観る者になんともいえない感情をわき立たせる。
住むところがなくなり、着替えもままならず、女性ならではのトラブルに見舞われながら、少しずつ人間としての尊厳を失っていく姿を、板谷はしっかりと説得力をもたせながら演じており、劇的な展開はないにもかかわらず息をするのも忘れて見入ってしまう。それは、映像作品においては避けられない"どんなに汚しても、見られないほどには汚れない"という女優ならではのルックスを超越した鬼気迫る演技によるもので、まさに"物語の中に生きている女性"を表現。同作品の特徴によるものもあるのだろうが、板谷の演技はフィクションとノンフィクションの垣根を越えた"リアルさ"を付与しており、それが説得力をもたらしている。
さらに、その説得力をひも解くと、板谷が常に三知子の"人間らしさ"を演技の芯に持っていることが分かる。三知子は正義感溢れる性格ながら、自尊心ゆえに他人に助けを求められないところがあり、田舎の兄やかつての職場の仲間や上司など、一声掛ければ手を差し伸べてくれる人たちにも弱音を吐けず、相談すらもできない。そんな気質が、社会的孤立に拍車を掛けていくのだが、どこまで落ちようとも、なかなか人間性の芯に巣食うものは切り離せない。そういう"他人からすれば大したことのないこだわり"こそが人間らしさであり、人物を表現する上で欠かせないものなのだと感じさせてくれる。
胸を突く、ハッとさせられる内容の問題作。作品のメッセージと共に、リアルさで説得力を与えている板谷のルックスを超越した鬼気迫る演技も受け取ってほしい。
文=原田健
放送情報【スカパー!】
夜明けまでバス停で
放送日時:2024年6月5日(水)18:25~
チャンネル:WOWOWプライム
※放送スケジュールは変更になる場合がございます
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