阿部寛が悪党役にまぶしたひとつまみの"愛らしさ"から、俳優としての唯一無二の魅力を発見できる作品「悪党図鑑1」
2024.3.25(月)

今や癖のある役を演じさせたら右に出る者はいないと言っても過言ではないほどに、さまざまな"クセ強キャラ"を圧倒的な存在感で表現する俳優・阿部寛。彼が演じてきた数々の役はどれも印象的で、観る者に圧倒的なインパクトを残す演技が彼の持ち味だが、そんな印象深い役の中でも、ドラマ「新参者」(2010、2011、2014年、TBS系)シリーズの加賀恭一郎や、ドラマ「VIVANT」(2023年、TBS系) の野崎守などは特にパンチの効いた役がアウトロー感のある役ではないだろうか。
それは、阿部が不遇の時代から一筋の光を掴んだからに他ならない。元々、阿部は男性ファッション誌「メンズノンノ」のカリスマモデルとして人気を博し、映画「はいからさんが通る」(1987年)で俳優デビューする。だが、(今でこそ当たり前だが)ファッションモデル出身という肩書きと顔立ち、背が高過ぎるために女性とのツーショットが撮りにくいなどの理由で、演技の仕事が激減し、不遇の時代を迎える。
そんな中、映画「凶銃ルガーP08」(1994年)で人格が劇的に変貌する主人公を演じ、日本映画プロフェッショナル大賞特別賞を受賞。これをきっかけに転換期を迎える。アウトロー感をにじませる役に活路を見出し、顔立ちや背の高さといった俳優としてのデメリットを克服した阿部は、その後さまざまな役を演じて再ブレイクを果たすのだが、そんな転換期の阿部が混じりっけなしのアウトロー感満載の主人公を演じた作品がVシネマ「悪党図鑑」(1994年)だ。

⒞シネマパラダイス
同作品は、闇に潜む悪党たちがしのぎを削り、騙し、潰し、殺し合う、悪党の頂点を目指す者たちのハード・バイオレンス。チンピラの昇(阿部)は順子(真弓倫子)と出会ったことで、2人で素人相手に美人局を始める。そんなある日、ヤクザと知らずに客にした竹内(伊藤洋三郎)に順子が強姦されてしまう。仕返ししようと竹内を呼び出した昇は、待ち合わせ場所で誰かに殺された竹内の遺体を発見。竹内の死を巡り、昇は悪党たちの戦いに巻き込まれていく。
タイトルの通り、登場人物には悪党しか出てこないのだが、そんな中でも阿部は昇という腕っぷしが強く悪知恵の働くチンピラを熱演。粗野で暴力的でありながらも、ある種"気持ちのいい悪者"として昇を描き出している。というのも、物語では男女問わずさまざまな悪党がしのぎを削るため、ねちっこい者、クールな者、ひと癖ある者、上手な者など、いろいろなタイプの悪党が登場するのだが、阿部は観ていてねじ曲がったような不快感を感じさせない悪党を表現。例えば、竹内に仕返しをするために正面切って呼び出したり、行動原理も悪は悪だが嫌悪感を抱かせるようなものではない。それは、あくまで阿部が、昇を嫌われるようなキャラクターにならないよう、ひとつまみの"愛らしさ"みたいなものを、演技でまぶしているからだ。
このひとつまみの"愛らしさ"こそ、阿部の俳優としての特徴だといえる。どんな癖の強いキャラクターでも"愛らしさ"をまぶすことで、観る者に感情移入を促し、役を憎めない存在へと昇華させているのだ。
アウトロー感あふれる役を演じる中で垣間見える、阿部の観る者を味方に引き込むひとつまみの"愛らしさ"を感じ取り、阿部が演じてきたさまざまな"クセ強キャラ"に共通する憎めないキャラづくりに思いを馳せてみてほしい。
文=原田健
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