鈴木亮平の新たな代表作!ストイックなカメレオン俳優が強さと脆さを表現した「エゴイスト」
2024.1.29(月)
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昨年4月に劇場版「TOKYO MER~走る緊急救命室~」、10月期日曜劇場「下剋上球児」と、映画やドラマと立て続けに主演を務めた鈴木亮平。人間味に溢れ、リーダーシップを発揮する救命救急医と高校野球部の監督をそれぞれに好演した。熱きリーダーがハマり役であることを改めて証明したが、作品ごとにまったく印象を変えてしまうのがカメレオン俳優たる所以。深い洞察と肉体改造も厭わないストイックさで、どんな役も自分のものにしてしまう。
そんな役の振り幅の広さを感じさせたのが、前述の2作と同年に公開した主演映画「エゴイスト」だ。本作は数々の名コラムを世に送り出してきた高山真の自伝的小説を映画化したヒューマンドラマ。「トイレのピエタ」(2015年)や「ハナレイ・ベイ」(2018年)などで知られる松永大司が監督を務め、ドキュメンタリータッチの映像で登場人物たちの心の機微を映し出した。

(C)2023 高山真・小学館/「エゴイスト」製作委員会
14歳で母を失い、田舎町でゲイである自分を隠して鬱屈とした思春期を送った浩輔。上京した今は東京の出版社でファッション誌の編集者として働き、仕事が終われば気の置けない友人たちと気ままな時間を過ごしている。ある日、友人の紹介で、シングルマザーである母を支えながら暮らすパーソナルトレーナーの龍太と出会う。惹かれ合った2人は、時に龍太の母も交えながら満ち足りた時間を重ねていく。しかし彼らの前に突然、思いもよらない運命が押し寄せる...。
鈴木が演じた主人公・浩輔は、品良く凛々しい顔立ちで機知に富み、恵まれた体格と鍛え上げられた肉体を持ち合わせた出来過ぎなほどの男前だ。しかし、亡き⺟への想いや、性的マイノリティである自分とそれを取り巻く環境への判然としない感情を抱えていた。ファッション誌編集者の肩書きを盾に、自分を守る鎧のようにハイブランドの服を着て、気ままながらもどこか虚勢を張って生きているようにも見える。
罪悪感を胸の奥底に秘めた瞳が切なく痛々しい。⺟に寄り添う龍太をサポートし、龍太の母に亡き母を重ね、純粋な愛を注ぐが、愛ゆえに生まれる葛藤に思い悩む。この愛はエゴなのか...その内面に同居している強さと脆さを、鈴木は自然体で体現し、役に命を吹き込んでいた。
様々な環境で多様な人々と交わすやりとりからも、浩輔自身が多面的に形作られていく。歩き方や口調はもちろん些細な仕草も生々しい。恋人の龍太やその母・妙子役へ向ける眼差しや微笑み、目線一つに息遣いすらもその心の内から自然と溢れ出ている。作品の中で鈴木が浩輔という一人の人間として生きていた。
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(C)2023 高山真・小学館/「エゴイスト」製作委員会
また、浩輔の恋人となる龍太を演じた宮沢氷魚にも注目。龍太はシングルマザーの母を健気に支えながらも、自分の美しさには無頓着で純粋な青年だ。透明感の中に儚さを感じさせる宮沢が、リアルではありえないようなキャラクターを成立させた。鈴木の素晴らしい演技に呼応するように、瑞々しい感性で龍太を生き生きと演じる。繊細な演技を見せた2人によって、作品のクオリティが一層高まっていた。
公開に先立って行なわれた東京国際映画祭でも高い評価を得た本作。真摯な役作りのもと主人公の人間性にアプローチした鈴木は、第22回ニューヨーク・アジアン映画祭2023ライジングスター・アジア賞、第78回毎日映画コンクール男優主演賞ほか多数の賞に輝いた。葛藤と苦難の末に生み出された本作は、鈴木の代表作の一つとなるだろう。愛とはエゴか、果たしてエゴとは悪なのか。痛々しいほどの想いが、その本質を問いかけている。
文=中川菜都美
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