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上川隆也の演技の力量を再確認できる、個性派ドラマ「ステップファザー・ステップ」

2023.12.9(土)

宮部みゆきの小説「ステップファザー・ステップ」は、1993年に講談社より単行本が発売され、累計100万部を売り上げているベストセラーにしてロングセラーだ。雑誌の読者投票で「ファンが選ぶ最も好きな宮部みゆき作品ランキング」で1位を獲得したこともあるほど、数多ある宮部ミステリーの中でも屈指の人気作品である。

「怪盗キング」こと
「怪盗キング」こと"俺"を演じる上川隆也

孤高の怪盗が双子の父親代わりになるという、斬新な設定のホームコメディ的な要素を持ったミステリー作品なのだが、2012年1月から3月かけてドラマ化されTBS系で放送された。主演の「怪盗キング」こと"俺"を演じたのは上川隆也。宮部ミステリーのファンだという彼だが、原作を読んでの印象を「謎にも人間関係にも温かみがあり、犯人を憎み切れない肌触りの優しいミステリー」だと表現した。「緻密に計算された作品が多い宮部ミステリーの中では異色の作品だ」とも語っており、さすがに宮部の作品をよく読みこんでいると伺える鋭い分析と言える。

主人公の"俺"(上川)は世間を騒がせる義賊・怪盗キング。ある仕事でミスをしたが、双子の兄弟・宗野直(渋谷龍生)と宗野哲(渋谷樹生)に助けられる。兄弟の両親は失踪しており、「パパになって」と脅迫まがいに請われた"俺"は、弁護士・柳瀬(伊東四朗)によって無理やり双子とステップファザー(継父)契約を結ばされ、「もう泥棒はしない」という約束をする羽目に。当初は嫌がっていた彼だが、次第に双子に愛着を持っていく。ただ、一癖ある双子のせいで様々な事件やトラブルに巻き込まれるという物語だ。

共演者には双子の担任の先生・灘尾礼子を小西真奈美が演じるほか、柳瀬の法律事務所の事務員・秋山ナオ役に平山あや、怪盗キングを執念深く追う刑事・脇坂を渡辺いっけい、その妻・芳江を須藤理彩が演じ、個性的な俳優陣が脇を固めている。

実の家族ではない"俺"と双子の奇妙な家族関係を軸としながら、宮部作品ならではの本格ミステリー要素が絡む独自の展開は、笑いあり、涙あり、そして謎解きありという盛りだくさんの内容。疑似家族が織りなすホームコメディにミステリーを絡めるという趣向だけでも惹かれるものがあるが、本作のキモはやはり主人公を演じる上川隆也の巧みな演技力にある。個性的な人物であり、笑いを取る芝居も要求されるので、ハードルの高い役柄であることは容易に想像されるのだが、上川は「天邪鬼な一面」があることを自身と"俺"との共通項だと語り、「素直ではないが愛すべき人物である」という分析のもと、極めてナチュラルな演技で表現している。誰にも迷惑をかけぬよう一人で仕事し、住む家も持たず、柳瀬の事務所の物置でひっそりと寝泊まりする"俺"だが、幼少期に親との縁に恵まれなかった不幸な生い立ちが、彼のバックボーンになっている。そんな孤高の男が、双子という未知の存在と出会い、これまでの人生では得られなかったものに気づき、少しずつ変化していく。

そんな繊細な芝居をユーモアを交えて演じきった上川の力量には感嘆させられるし、魅力のある俳優だと改めて感じてドラマの世界観に引き込まれてしまう。双子を演じる渋谷兄弟の演技も微笑ましいし、伊東四朗は相変わらずの存在感を発揮してドラマを引き締めており、実に味わい深い。ちなみに、原作でも主人公には名前がなく、上川の役名も"俺"としかわからない。「名前のない役を演じたのは初めて」だと語っていたが、おそらくこの後もなかったのではないだろうか。撮影現場では、スタッフや共演者から「俺さん」と呼ばれていたそうだ。

そんな意味でも極めてユニークな作品であり、短編小説が原作の連続ドラマという点でも珍しい。日本のドラマ史上でも希少な作品だと言えそうな「ステップファザー・ステップ」が今回TBSチャンネル2で放送される。上川ファンや宮部みゆきファンはもちろん、ミステリーやホームドラマが好きな人にとっても、他に類を見ない作品である本作をぜひ見てほしい。

文=渡辺敏樹

放送情報【スカパー!】

ステップファザー・ステップ
放送日時:12月18日(月)~21日(木)12:00~
放送チャンネル:TBSチャンネル2 名作ドラマ・スポーツ・アニメ
※放送スケジュールは変更になる場合があります