祝93歳!ハリウッドの伝説...その生き様こそが孤高のアウトサイダー!独自のキャリアを築いたクリント・イーストウッドの「悪路」とは?
2023.4.27(木)

クリント・イーストウッド(1930年5月31日生まれ)はまもなく93歳になる。同い年であるフランスの鬼才監督、ジャン=リュック・ゴダールが昨年9月に91歳で逝去した今、映画監督として、映画俳優として、彼こそが唯一無二の頂点に立ち続ける現役の映画神――「シネマの象徴」と言えるだろう。
2021年には主演も兼ねた監督第40作『クライ・マッチョ』を発表。『許されざる者』(1992年)では第65回アカデミー賞で作品賞・監督賞ほか計4冠を獲得し、『ミリオンダラー・ベイビー』(2004年)もまた第77回アカデミー賞で作品賞・監督賞ほか計4冠に輝いたイーストウッド。だが、そのキャリアは決して順風満帆な道のりだったわけではない。むしろハリウッドの異端児――映画の中でよく演じる役柄同様、孤高のアウトサイダーとして独自のキャリアを切り拓いてきた。自身の製作会社「マルパソ・プロダクション」(マルパソはスペイン語で「悪路」の意)を運営し、マイペースで放たれる監督作には、業界のシステムから距離を置いた個人映画の手触りや肌触りがある。
■マカロニ・ウエスタンでの成功を経て40代にしてスターの地位を獲得した遅咲き
では、ざっくりその栄光の「悪路」を振り返ってみよう。まずは1954年からユニバーサルの新人俳優として下積みを始め、1959年から放送されたテレビシリーズの西部劇「ローハイド」の副隊長ロディ・イェーツが当たり役となる。だが、まだ映画界の第一線には遠いポジションだった。
イーストウッドがスターダムにのし上がったのは、ハリウッドではなく、当時の新興ジャンルであったイタリアの西部劇――マカロニ・ウエスタンである。無名の新人だったセルジオ・レオーネ監督からオファーを受け、欧州にはるばる遠征する形で『荒野の用心棒』(1964年)に主演。「まがい物」とも見做されたB級ジャンルだが、伝説のテーマ曲「さすらいの口笛」などエンニオ・モリコーネの斬新な音楽の魅力もあり、大衆からの人気が爆発。スペインなどの土地を米西部に見立て、雑多な国や出自の役者を起用し、劇的な誇張で無法者を描くマカロニ・ウエスタンの暴力的な世界は、建国神話を背景とした本家ハリウッド西部劇のカウンターやアンチテーゼだったと言っていい。

(C) 1965 P.E.A. Films, Inc. All Rights Reserved.
この特殊でオルタナティヴな西部劇の顔となったイーストウッドは、初期の代表作『夕陽のガンマン』(1965年)や『続・夕陽のガンマン/地獄の決斗』(1966年)の成功を得て、ハリウッドに凱旋。ドン・シーゲル監督と組んだ『ダーティハリー』(1971年)の大ヒットで、本格的にアクションスターとしての地位を手に入れるが、すでに年齢は40代に突入していたのだから完全に遅咲きの部類である。

(C) 1966 P.E.A. Films, Inc. All Rights Reserved.
アメリカに戻ったイーストウッドは、『恐怖のメロディ』(1971年)から監督業もスタートさせる。俳優として組んだ2人の師匠――セルジオ・レオーネとドン・シーゲルからの影響をたっぷり受けた彼の映画術は、しかし監督第2作『荒野のストレンジャー』(1973年)で早くも独自の抽象性を帯びている。
イーストウッドが自ら演じる、亡霊のような流れ者のガンマン。その異色の主人公像と世界像をさらに発展させたのが、1985年の傑作『ペイルライダー』だ。まるで白日夢のように陽炎がゆらめくカリフォルニアの荒野にふらりと現われたイーストウッド扮する流れ者は、やはり亡霊――つまり「死んだ男」だ。彼はかつて自分を殺した保安官たちへの復讐を果たし、黄泉の国に帰っていくかのように町を去る。それはアメリカ的なヒロイズムの裏で、血塗られた暴力の歴史を繰り返してきた西部劇というジャンルへのレクイエムのような批評性を孕んでいた。

(C) Warner Bros. Entertainment Inc.
■自身のキャリアを支えてきた西部劇への集大成として作り上げた『許されざる者』

(C) Warner Bros. Entertainment Inc.
そういった「ラストカウボーイ」としての厳しい自覚を引き受けたイーストウッドの、西部劇人生の集大成でありピークとなったのが、1992年の『許されざる者』である。舞台は1880年代のワイオミング。イーストウッドが演じるのは、かつて列車強盗や冷酷な殺人で、悪名を世間に轟かせた老ガンマンのウィリアム・マニー。今では人里離れた村で、2人の子どもと一緒に農場を営みながら静かに暮らしていたが、しかし生活苦は否めず、再び銃を手にして賞金稼ぎの旅に出る――。
汚れた過去に苛まれる男の贖罪の物語。当時、イーストウッド自身が「最後の西部劇」とも口にしていた本作は、自らのキャリアと共にあったジャンル体系に対する彼なりの落とし前であり、本作発表を前に続けて亡くなったセルジオ・レオーネ(1989年逝去)、ドン・シーゲル(1991年逝去)の両名に捧げられた作品でもある。

(C) Warner Bros. Entertainment Inc.
ちなみに映画監督としてのイーストウッドの評価は、長い間アメリカでは不当に低く、むしろ日本や、フランスをはじめとするヨーロッパのほうが先行した。伝説のジャズマン、チャーリー・パーカーの生涯を描いた『バード』(1988年)は、主演のフォレスト・ウィテカーが第41回カンヌ国際映画祭で主演男優賞を受賞。そして『許されざる者』は仏カイエ・デュ・シネマ誌の1992年度ベストテンで第1位に選出された。

(C) Warner Bros. Entertainment Inc.
周知のとおり、この「最後の西部劇」のあとも、イーストウッドは多数の監督作を放ち続け、特に主演を兼ねた『スペース カウボーイ』(2000年)や『グラン・トリノ』(2008年)などは格別の味わいがある。逆に自身の監督作ではないもの――俳優だけに徹した作品群はフィルモグラフィの中でも見過ごされがちだが、『ダーティハリー2』(1973年)の脚本を手掛け、これがデビュー作となったマイケル・チミノ監督の『サンダーボルト』(1974年)や、脱獄ものの名作であるドン・シーゲル監督の『アルカトラズからの脱出』(1979年)、さらにキャリア後期の人気作『ザ・シークレット・サービス』(1993年)など、どれも必見の面白さだ。

(c) 1974 Malpaso Productions. All Rights Reserved.
実際にこれらの作品にアクセスすることで、やはりイーストウッドこそが「シネマの象徴」である、と問答無用に確信することができるだろう。彼が画面に映るだけで、スクリーンは映画の愉楽に満ちあふれるのだから。
文=森直人
森直人●1971年生まれ。映画評論家、ライター。著書に「シネマ・ガレージ~廃墟のなかの子供たち~」(フィルムアート社)、編著に「21世紀/シネマX」「シネ・アーティスト伝説」「日本発 映画ゼロ世代」(フィルムアート社)、「ゼロ年代+の映画」(河出書房新社)など。YouTubeチャンネル「活弁シネマ倶楽部」でMC担当中。映画の好みは雑食性ですが、日本映画は特に青春映画が面白いと思っています。
放送情報
サンダーボルト(1974)
放送日時:2023年5月5日(金・祝)12:30~、17日(水)7:45~
チャンネル:スターチャンネル2
ペイルライダー
放送日時:2023年5月15日(月)18:30~、31日(水)11:15~
(吹)ペイルライダー
放送日時:2023年5月16日(火)9:15~
許されざる者(1992年)
放送日時:2023年5月12日(金)13:30~、15日(月)21:00~
スペース カウボーイ
放送日時:2023年5月31日(水)13:30~
(吹)スペース カウボーイ
放送日時:2023年5月2日(火)12:00~
チャンネル:ムービープラス
夕陽のガンマン
放送日時:2023年5月2日(火)6:00~、31日(水)12:30~
(吹)夕陽のガンマン 【日曜洋画劇場 補完版】
放送日時:2023年5月28日(日)10:00~
続・夕陽のガンマン/地獄の決斗
放送日時:2023年5月2日(火)8:45~、31日(水)15:15~
(吹)続・夕陽のガンマン/地獄の決斗 【日曜洋画劇場 補完版】
放送日時:2023年5月28日(日)12:30~
奴らを高く吊るせ!
放送日時:2023年5月3日(水・祝)6:00~、12日(金)3:45~
(吹)奴らを高く吊るせ! 【日曜洋画劇場版】
放送日時:2023年5月11日(木)12:30~
アルカトラズからの脱出
放送日時:2023年5月25日(木)15:00~、31日(水)19:00~
(吹)アルカトラズからの脱出 【日曜洋画劇場版】
放送日時:2023年5月28日(日)16:15~
ザ・シークレット・サービス
放送日時:2023年5月18日(木)21:00~、31日(水)21:00~
(吹)ザ・シークレット・サービス
放送日時:2023年5月28日(日)18:30~
チャンネル:ザ・シネマ
※放送スケジュールは変更になる場合があります
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