上川隆也演じる好感度抜群の金田一耕助が活躍！横溝ミステリーの王道「迷路荘の惨劇」は必見

2025.4.20(日)

「金田一耕助ファイル 迷路荘の惨劇」は、2002年にテレビ東京系で放送された作品で、横溝正史生誕百年記念として制作された。金田一耕助を演じたのは上川隆也。原作は1978年にも古谷一行主演でTBS系でドラマ化されており、本作は2度目のドラマ化となる。

原作小説では舞台が富士山麓だが、本作では京都に変更されている。ただしストーリーはほぼ原作に忠実だ。昭和25年夏。金田一耕助(上川隆也)が、実業家・篠崎慎吾(六平直政)の依頼を受けて祇園祭で賑わう京都にやってくる場面から物語が始まる。篠崎の別荘「名琅荘」は初代当主・古館種人伯爵が建てた"からくり屋敷"のような家で、その複雑な造りから「迷路荘」の通称がある。屋敷には20年前に起きた凄惨な事件が語り継がれていた。先代の死後に家を継いだ二代目当主・一人が妻の加奈子と使用人・尾形静馬が密通していると妄想。加奈子を斬り殺して静馬の左腕を切り落としたが、静馬は反撃して一人を殺して逃亡し、行方不明になっていたのだ。

篠崎慎吾は三代目当主・古館辰人(宇梶剛士)から別荘を譲り受け、別荘をホテルに改装。さらに辰人の妻だった倭文子(羽田美智子)まで妻に迎えていた。そのお披露目のため、名琅荘には辰人とその叔父・天坊邦武(長門裕之)、加奈子の弟・柳町善衛(近江谷太朗)らが集まっていた。そんな夜、辰人が無残な死体となって発見される...。

辰人の殺害と前後して、迷路荘へ向かう道すがら金田一が片腕の男を目撃し、20年前に行方不明になった尾形静馬ではないかと示唆される。事件の直前、迷路荘では「真野信也」と名乗る客が忽然と姿を消す事件が起こっていた。以前から迷路荘を管理する使用人の糸女(野際陽子)は、「真野」に左腕がなかったことから、彼が尾形静馬だと信じて疑わず、恐怖に怯えていた。こうして不思議な事件に巻き込まれた金田一は、等々力警部(中村梅雀)を強引に誘い、京都府警の井川刑事(火野正平)らの捜査に協力して事件の謎に挑んでいく。からくり屋敷という設定、20年前の凄惨な事件と隻腕の男の謎。そして発生する第二、第三の殺人...。かつて尾形静馬が逃げ込んだと思われる洞窟まで登場し、まさに横溝ワールド全開だ。

不気味な静馬の影がちらつく中で、柳町や天坊など周囲の人間にも辰人を恨む動機があるなど、犯人捜しは混迷を極めていく。最後まで目が離せない展開が視聴者をくぎ付けにするが、本作の魅力は、まず金田一を演じる上川の個性だろう。金田一耕助役といえば、片岡千恵蔵、高倉健、石坂浩二、古谷一行、西田敏行といった名優たちが演じてきた。近年でも稲垣吾郎や、吉岡秀隆、池松壮亮、加藤シゲアキといった人気俳優たちが続々と挑戦している。そんな中でも、上川の金田一は、爽やかさが滲み出るような好人物で、従来のクセのある金田一像とは一線を画していた。
　
石坂浩二のような探偵としては有能でインテリ風だが、変人ぶりが際立っていたり、古谷一行が演じた男臭い色気のある金田一、西田敏行の強烈な人間臭さもそれぞれ個性的でよかったが、上川の醸す爽やかさには新鮮な魅力がある。歴代の名優たちは、自身の個性を生かしながら、パブリックイメージ的な金田一像とミックスさせて演じていた感があるが、上川は旧来の金田一を踏襲するのではなく、素直に演じていた。だからこそ、歴代の金田一の中でも好感度が際立っている。

本作では、倭文子を演じる羽田美智子の儚げな美しさや、等々力警部を演じる中村梅雀の軽やかさ、非常に味わい深く、不思議な魅力を放つ井川刑事役の火野正平ら共演者も印象深い。妙に怪しげな長門裕之、よくわからない人物だが、強烈な存在感の六平直政も好演している。だが、そんな個性派ぞろいの共演陣の中でも頭ひとつ抜けているのは、やはり糸女を演じる野際陽子だろう。当時の野際は、「TRICK」(テレビ朝日系)での仲間由紀恵の母親役での怪演ぶりが話題になっていたが、「京都迷宮案内」(テレビ朝日系)でのキャップ役も印象的で、京都のイメージにも合致。本作でも過去に秘密を抱える謎めいた存在感を存分に発揮し、凛とした立ち姿と際立ったセリフ回しで視聴者を魅了している。

過去の惨劇、消えた片腕の男、からくり屋敷、謎の洞窟、死体のトリック、呪われた血縁...。そんな横溝ワールドのモチーフがてんこ盛りの本作「迷路荘の惨劇」。ついでに言えば、「静馬」と「古館」は名作「犬神家の一族」にも登場する横溝ファンにはおなじみの名称でもある。決して知名度の高い原作ではないものの、見どころが満載で最後まで飽きさせない秀作だ。上川の金田一の新鮮な魅力も相まって、横溝ミステリーの王道的なドラマに仕上がっている。上川の金田一は本作のほかに「獄門島」の計2作しか作られなかった。その点が非常に惜しまれるのだが、だからこそ本作の価値を高めていると言えるかもしれない。

文＝渡辺敏樹

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