吉永小百合と杉村春子。2人の大女優が共演する日曜劇場「二代目」
2025.3.30(日)

女優・吉永小百合は、11歳の時にラジオドラマ「赤胴鈴之助」でデビュー。1959年に松竹映画「朝を呼ぶ口笛」で映画初出演を果たし、1962年の日活映画「キューポラのある街」のヒットを機にスター女優となった。以降は日活の看板女優として、特に浜田光夫との黄金コンビで映画界に旋風を巻き起こしている。1990年代以降は映画に専念しているが、一時はテレビドラマにも精力的に出演した。特に映画界が衰退期に入った1970年代はそれまで演じてきた清純派のイメージからの脱皮を図り、TBS系の東芝日曜劇場をはじめ、「樅の木は残った」(1970年)、「風と雲と虹と」(1976年)などNHK大河ドラマにも出演して印象的な演技を披露している。

そんな時期に吉永を積極的に起用したのが、前述したTBS系「東芝日曜劇場」で、名プロデューサー・石井ふく子のもとで、17作品に出演。その一作である1970年放送の「二代目」は、大女優の杉村春子と母娘役で共演を果たし、話題を呼んだ。本作は、「渡る世間は鬼ばかり」などで知られる橋田壽賀子が脚本を手掛け、東京・木場の材木問屋を舞台に世代間の喜怒哀楽と母娘の愛情を描いた作品だ。ちなみに橋田は、石井プロデューサーの盟友ともいうべき存在で、そもそも彼女の名声は高めたのは、東芝日曜劇場での実績によるものだった。
「二代目」のストーリーを紹介しよう。東京・木場にある材木問屋・山徳は、十年前に主人が亡くなって以来、未亡人のきの(杉村春子)が女主人として仕切っていた。娘の杉子(吉永小百合)は24歳になっているが、自身の結婚よりも店のやりくりの方が気になって仕方がない様子。時代の流れに押されて、店は火の車になっていたからだ。それでも変わらず昔ながらのやり方にこだわる母・きのに対し、杉子は「新しい商売の仕方をしなければ、今の世の中ではやっていけない」などと、何かと意見しては対立していた。山徳が全盛だった頃を思い出しては、寂し気な顔をするきのを見て、杉子はある決心をする...。

吉永演じる杉子は、母の経営方針が時代に合わないと感じ、経営の勉強も積極的にして、現実的な立場で母に進言する。義理や人情を重んじるきのは、現代っ子らしい娘の考え方がドライで冷たいと感じ、すれ違ってしまう。そんな母と子の断層をテーマにしているが、決して重苦しい作品ではなく、どこにでもいそうな親子の姿を極めてリアルに表現している2人の女優の演技が本当に素晴らしい。杉村春子と吉永小百合、世代こそ違うが新旧の大女優同士による小気味良い会話のリズムの心地よさ。吉永は、かねてから杉村を尊敬し、「美しい所作を杉村の演技から学んだ」と語っていた。本作で2人が演じた親子役のはまり具合に好感触を得たのか、石井プロデューサーは、この直後に同じ東芝日曜劇場で吉永&杉村が母娘を演じる「下町の女」というシリーズ作品を生み出し、5年間も続くロングランとなっている。1997年に91歳で没した杉村春子の偉大さは、現代の若者にはピンとこないかもしれないが、彼女は1906年の明治後期に広島で生まれ、築地小劇場よりから文学座に至る日本の演劇界の屋台骨を支え続けた名女優で、演劇史に大きな足跡を残した偉人だ。日本を代表する大女優というより、現代劇の草分けともいうべき存在である。吉永も杉村との共演で多くを学んだことを公言している。"決して舞台に出ない女優"として知られる吉永だが、その理由として杉村や坂東玉三郎らの舞台をあまりにも見過ぎたことで、「これから勉強して舞台に立つのは無理だと感じた」ためだと言われている。
杉村がある舞台で着付けをする場面で、あまりの所作の美しさに観客から拍手が起こったという伝説もあるほど。セリフのうまさにも定評があり、リズム感溢れる独特なセリフ術と卓越したリアリズム。情感を巧みに表現する独特の芸風は、まさに唯一無二のものだったと言われる。
そんな偉大な大女優・杉村春子と若手女優として抜群の実績を残し、若くして芸能界に君臨していたスター・吉永小百合。2人の上質な演技合戦が堪能できる「二代目」。なかなか放送される機会が少ない貴重な作品なので、画面から2人の芝居の凄みを感じ取ってほしい。吉永は80歳になった今も現役バリバリで、新作映画「てっぺんの向こうにあなたがいる」の公開も2025年秋に控えている。「女優に定年はない」として、91歳で逝去する直前まで、病床で台本を読み込んでいたという杉村のように、吉永もまた生涯現役を貫くのだろう。
文=渡辺敏樹
放送情報【スカパー!】
日曜劇場「二代目」
放送日時:4月5日(土) 07:00~
放送チャンネル:TBSチャンネル2 名作ドラマ・スポーツ・アニメ
※放送スケジュールは変更になる場合があります
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