サヨナラ公演中の芹香斗亜が、寡黙な演技を見せる宝塚歌劇宙組公演「NEVER SAY GOODBYE」
2025.3.27(木)

「NEVER SAY GOODBYE」は、第二次世界大戦前夜、スペイン内戦に巻き込まれていくバルセロナを舞台とした物語である。初演は2006年。宙組のトップコンビ和央ようか・花總まりのサヨナラ公演として上演されたものだ。脚本・演出は小池修一郎、音楽には、「THE SCARLET PIMPERNEL」などで知られるフランク・ワイルドホーンが起用された。
時は1936年、バルセロナでは、ナチスのベルリンオリンピックに対抗して、オリンピアーダ・ポピュラール(人民オリンピック)が開かれようとしていた。だが、フランコ将軍のクーデター勃発により中止を余儀なくされる(以上の話は史実に基づいている)。
ポーランド生まれの写真家ジョルジュとアメリカの劇作家キャサリンは、バルセロナの激動を目の当たりにしつつ、互いに惹かれあっていく。やがて祖国のため、平和を守るために戦う人々の生き方に「人生の真実」を見出したジョルジュは、内戦を撮ったフィルムをキャサリンに託し、戦地に向かう...。
ファシズムへの抵抗が、いつしか社会主義者たちの勢力争いに絡め取られていくバルセロナ。だが、自らを「デラシネ(根無草)」と称するジョルジュ(真風涼帆)はそう簡単に戦いにのめり込んだりはしない。いっぽうのキャサリン(潤花)は、ハリウッドの人々に対し「ニセモノだらけ」と勢い良く啖呵を切る。その真っ直ぐさが「デラシネ」であるジョルジュには持ち得ないものでもあるからこそ、眩しく感じられたのだろう。
お互い表現者として高みを目指すジョルジュとキャサリンが魂を共鳴させていく過程が、この物語の縦糸だとすれば、ファシズムに立ち向かい、スペイン内戦に巻き込まれていく人々の生き様が横糸である。
各地から集まった闘牛士たち、人民オリンピックの外国人選手たち、ファシズムに立ち向かうといっても、拠って立つところは人それぞれだ。誰もが葛藤し、時にすれ違ったりぶつかり合ったりする。
闘牛士たちの中心となるヴィセントを演じているのが、本年4月に退団予定の宙組トップスター・芹香斗亜だ。お堅い役からユーモラスな役まで、あるいは、明るい役から暗い役まで、印象に残る役柄は幅広く、どんな役にも誠実に向き合い丁寧に掘り下げてきた。退団公演「Razzle Dazzle」では莫大な財産を相続したお坊ちゃんの役を軽やかに演じているが、本作ではヴィセントの揺るぎない生き方を寡黙な芝居で伝えてみせる。
芹香のヴィセントは、浅黒い肌と黒髪が男の色気を感じさせる。様々な思惑が渦巻く中、彼だけはシンプルに故郷の大事な人たちを守るために戦っている。
ジョルジュと反目しキャサリンに邪な感情を抱く、PSCU(統一社会党)の幹部アギラールを演じるのが、芹香の後を受けて宙組トップスターに就任予定の桜木みなとだ。この作品の中では敵役の位置付けだが、等身大の人間らしさが滲み出ており憎めないところが桜木らしい。
1幕後半、フランコ軍に立ち向かっていくバルセロナの市民たちが圧倒的な迫力である。民衆たちを引っ張るラ・パッショナリア(留依蒔世)の歌声が圧巻だ。いっぽう全員でフランコ軍に立ち向かう1幕と、市民達が敵味方に分かれる2幕ではエネルギーの放出のされ方が全然違う点も見逃せない。
市民たち一人ひとりの生き様と、宙組メンバー一人ひとりの熱い思いが重なって見える群集シーンもまた、本作の見どころである。
文=中本千晶
放送情報【スカパー!】
NEVER SAY GOODBYE-ある愛の軌跡-(’22年宙組・宝塚・千秋楽)
放送日時:4月23日(水)18:00~
放送チャンネル:TAKARAZUKA SKY STAGE
※放送スケジュールは変更になる場合があります