ニュース王国

乃木坂46・久保史緒里×平祐奈が語る、阪元監督の現場で生まれたアドリブ表現 初共演となったお互いの印象も

2025.3.25(火)

映画『ネムルバカ』でW主演を務めた久保史緒里と平祐奈
映画『ネムルバカ』でW主演を務めた久保史緒里と平祐奈

乃木坂46の久保史緒里と平祐奈がW主演を務める映画『ネムルバカ』が3月20日に公開された。同作は2008年に発売された、『それでも町は廻っている』『天国大魔境』で知られる石黒正数の同名コミックを実写化する映画で、心地良さと焦りが同居する〈大学生〉という不思議な時間の中で、自分らしさを見つけようともがく若者たちを描いた傑作青春ストーリー。

今回はW主演の久保と平にインタビューを実施。初共演となったお互いの印象から役作りに至るまで話を聞いた。

――映画を拝見して、心地よさとともに切なさを感じる作品だと感じました。まずは出演が決まったときの心境を教えてください

久保「最初に阪元監督の作品に参加できると聞いたときは、本当に嬉しかったです。もともと監督の作品が大好きで、ずっと憧れていたので、ご一緒できることがすごく光栄でした。それに加えて、原作を読んだらこの作品を阪元監督が映画化することに興奮したんです。もうその時点で『これは絶対に出たい!』という気持ちが強くなっていましたし、もし自分がキャストじゃなかったとしても、間違いなく映画館に観に行っていたと思います(笑)。それくらい、すごく魅力的な作品だと感じました」

「最初にこの役のお話をいただいたとき、私も本当に同じ気持ちでした。今までにやったことのない役柄だったのですが、自分の中でずっとやりたいと思っていたことが詰まっているキャラクターだったので、『絶対にやりたい!』と強く思いました。もともと阪元監督の作品に出たいという気持ちもあったし、ルカというキャラクターも、自分がまさにやりたいと思っていたようなキャラだったんです。ギターも歌も、そして金髪も、挑戦することが本当に多くてすごく新しい経験になるなと思いました」

――阪元監督の作品は以前からご覧になっていたのでしょうか?

久保「『ベイビーわるきゅーれ』って、本当にすごい作品なんです。殺陣やアクションがめちゃくちゃ魅力的なのはもちろんなのですが、私が特に惹かれたのは、その合間にある二人の何気ない生活や会話のシーン。殺し屋なのにまるで普通の女の子二人がそこにいるような自然なやりとりがあって。洗濯機を前に喋るシーンとか、ご飯を食べながら何気なく会話してるシーンとか、そういう瞬間がすごく好きでした。長年一緒に過ごしてきたんじゃないかって思うぐらい二人の空気感がしっかり作り込まれていて、この二人だからこそ成り立つ特別な関係が感じられるのが魅力的でしたね」

「もともと『ベイビーわるきゅーれ』が好きだったこともありますし、ずっと日常映画に挑戦したいという思いがあったんです。それに、阪元監督の作品はセリフがすごく自然で、日常の会話のように聞こえるのが特徴的じゃないですか。特にちさととまひろの演技や、普段の喋り方がそのままに見えるくらいリアルで。私はどちらかというと普段からハキハキと喋るタイプなのですが、そういうセリフっぽくない言葉の言い回しをやってみたかったんです。だからこそ、阪元監督の持つ独特な空気感を、自分も演じながら味わいたいと思っていました」

映画『ネムルバカ』久保史緒里と平祐奈
映画『ネムルバカ』久保史緒里と平祐奈

(C)石黒正数・徳間書店/映画『ネムルバカ』製作委員会

――お二人は初共演ということですが、第一印象と撮影を経て変化した部分はありますか?

「どうなんですか?(笑)」

久保「本読みの日が、初めてお会いするタイミングだったんです。役の関係性もあってか、最初は先輩というイメージがすごく強くて...。実は、その日に着ていた服のことを『これどこの?』って聞かれたんですよ。私は『え、もうそんなに距離が近いんだ!』ってびっくりして(笑)。そのとき、『私、この人と仲良くなれるのかな』と一瞬思ったのですが、この役をやる上では絶対に大事なことだし、仲良くなりたいという気持ちもありました。撮影が終わってプライベートでも会うようになって気づいたのは、本当はすごく親しみやすい方だったんだなっていうこと。作品の中では先輩というイメージが強かったから、ずっとそういう人なのかなって思っていたけど、クランクアップした後はどんどんたいちゃんらしさが見えてきて。今では何でも話せるし、最初とはまるで違う関係になっています。こんなに仲良くなれるとは思っていなかったですね」

「でも、作品外で会ってたら私もそんな行ってないと思うよ(笑)」

――もう先輩としてそこは行こうと思ってたんですか?

「先輩後輩の関係性もあって、最初はどう接したらいいのかすごく考えていました。顔合わせする前に、『どうやって行こうかな...』ってめっちゃ悩んでて(笑)。で、いざ会ったとき、私はもう完全に先輩モードで行こうと思っていたので、ガッツリ絡みにいっちゃったんですよね。多分普段の私だったらそんなこと絶対しないです(笑)。でも、役のことを考えると、それくらいの距離感で行くのが大事だなと思ったし、そうすることで自然に関係性を築けるんじゃないかって思いました」

久保「すごく話しかけてくれてたんですよ。どこ出身なのとか」

「一緒に廊下歩いてて、私が『どこ出身なんですか?』って聞いて、しーちゃんが『宮城です』って答えて会話が終了。どうしようって思ったよね(笑)」

久保「問題は私にあったんですけど、話しかけてくださいました(笑)。でも現場入ってからはずっと喋ってたよね」

「そうだね。現場入ったらずっとなんかカメラ回ってないところでも先輩と後輩の関係性で喋ってました」

(C)石黒正数・徳間書店/映画『ネムルバカ』製作委員会

――平さんは第一印象から変わったことはありますか?

「最初はもう"ザ・人見知り"って感じだったので、私もどうしよって思ってました(笑)。会話が生まれなかったら仲良くなれないし、どうやって距離を縮めたらいいんだろうって、すごく考えていましたね。クランクイン前も本読みで2回しか会う機会がなかったので、コミュニケーションを取るチャンスも限られていましたし。でも、『もうなるようになるか!』って思うことにして、結果的にそれが良かったなって思います。第一印象とはだいぶ違いました。すごく話好きな方だったし、現場ではめちゃくちゃ喋ってくれて、話も面白いんですよ。イメージ自体は変わらないんですけど、心を開いてくれてるようになったので、雰囲気は変わりましたね」

――お互いの役の魅力についてはいかがですか?

久保「撮影現場で一目見た瞬間に、『先輩だ!』って思いました。そこからはずっとたいちゃんというより、本当に先輩として撮影期間を通して見ていた感覚です。入巣って、どちらかというと人生に迷っているようなキャラクターなんですけど、ルカは自分の中に大きな夢があって、それに向かって努力し続けている人なんですよね。撮影中も、部屋で『この後、歌の練習しなきゃいけないんだよね』って話しているのを聞いて、先輩が夢に向かって努力している姿を見つめる入巣の気持ちとすごく重なっていました。ルカは入巣にはないものを全部持ってるし、私自身が持っていないものも全部持っていたので、すごく魅力的な存在だなと思っていました」

〈後輩〉入巣柚実を演じる久保史緒里
〈後輩〉入巣柚実を演じる久保史緒里

(C)石黒正数・徳間書店/映画『ネムルバカ』製作委員会

「それは私も同じことを思っていました。現場に入って、二人のクランクインが寮のシーンだったんですけど、その時に『うわ、入巣だ...!』ってなったんです。私も撮影に入る前から二人は共同生活をしているし、仲良くしなきゃって意識していたんですけど、そんなことを考える間もなく、しーちゃん(久保)が想像以上に入巣を作り上げてきてくれていたので、現場に入った瞬間に自然と先輩と後輩の関係性になっていました。そこからは、現場の空気感とともに距離も自然と縮まっていった感じですね。ルカと入巣って、性格は正反対だけど、自分に自信がないという部分は共通していて。入巣はやりたいことが見つからなくてもがいているけど、それでも必死に『どうしたらいいんだろう』と模索している。でも、すごく母性があって、ルカも入巣のことを信頼しているし、安心できる存在なんですよね。まるで心の拠り所のような存在で、どこかお母さんみたいに包み込んでくれる安心感があるんです。その母性こそが入巣の魅力だと思うし、しーちゃん自身もそういう温かさを持っているからこそ、それが入巣にも反映されているんだろうなと思いました」

――そうしたお二人の空気感が作中の関係性にも表れているんでしょうね

「多分、その空気感があったからこそ、アドリブみたいなものもたくさん組み込まれちゃったんですよ。現場で起こったハプニングが、そのまま映像として使われていたりするので、本当にリアルなやり取りになっていると思います。それくらい、お互いの距離感や関係性が自然に作られていったからこそ、演技というより、実際のやり取りみたいなシーンが多くなったんじゃないかなって感じました」

久保「そのアドリブにも焦りがなかったんです。今までだったら、そういう経験がなかったので、『これどうするんだろう?』ってすぐに頭がいっぱいになってしまったと思うんですけど、今回は違っていました。ハプニングが起こった瞬間に、自然と入巣として『先輩何やってんだよ!』っていうセリフが出たんです。でも、まさかそれが映像として使われるとは思っていなかったですね(笑)」

「でもちゃんと入巣とルカでいれてたんだよね」

久保「あれすごいよね」

(C)石黒正数・徳間書店/映画『ネムルバカ』製作委員会

――阪元監督とはどういう会話があったのでしょうか?

久保「作り上げていくというよりも、その場で生まれるセリフがすごく多かったですね。居酒屋のシーンとかは特にそうで、会話をしていてポロッと出た言葉に『それ、いいですね!』ってなって、そのまま採用されたりしました。監督が一番楽しんでいたような雰囲気だったので、あらかじめ『こういうビジョンにしたい』という形で進めるというより、その場で生まれたものをどんどん取り入れていく感じでした。そういうやり取りをしながら、シーンが作られていくのがすごく新鮮で、めちゃくちゃ楽しかったです」

――監督ならではの演出もあったのでしょうか?

久保「いや、ほんとに楽しそうにされる方です(笑)」

「まず監督自身が楽しんでるよね」

久保「カットがかかるときの監督の声が、笑いながらの『カット!』みたいな感じだったんですよね。それを聞いて、『あ、今すごく監督のツボにはまったんだな』って思いました(笑)。そういう感覚のやりとりがすごく楽しくて、ある意味、自由度がすごく高い現場だったなと感じています。途中からはもう『どれだけ監督を楽しませられるか』みたいな気持ちで演じていましたね」

「冒頭の天丼を食べるシーンなんかは、何十回も繰り返しやって、セリフの言い方を変えたり、監督が言いやすいように調整してくださったりしたんですよ。ピートモスのメンバーといるシーンも、実際に本読みのときに監督が『最近面白いことありました?』とか『バイト時代のエピソードあります?』って聞いて、お兄さんたちが話していた実体験がそのまま活かされているんです。だから、あのシーンはほぼアドリブみたいなもので、ただ本当に自分たちの経験を語っているだけなんですよね。だからこそ、すごくリアルに感じられるし、ナチュラルな会話になっているんだと思います。あと、スタッフさん含め、みんなで一緒にいいものを作ろうという意識がすごく強かった現場だったので、本当にものづくりをしている感覚があって、とても充実していました」

――アドリブだからこそあの臨場感が生まれているんですね

「酔っ払ってるシーンとかそうだよね」

――あのシーンも長回しでずっと撮ってたんですか?

久保「そうですね。しかも、カットがかかることなく、そのまま撮影が続いていくことも多くて、先の展開が止まらずに回り続けることもありました。その流れのまま演じたことで、より自然な空気感が生まれたように思います」

「そうだね。酔っ払いシーンはほぼ監督からの指示はなかったかもしれない。やることは段取りぐらい(笑)。一番のハプニングといえば、二人でルカが載っている雑誌を見ている場面で、私がシェイクを飲んでたんですけど、うっかり倒してしまって。もう完全なハプニングだったんですけど、それがそのまま使われたんです。あれはまさにその場の流れから生まれたリアルなやりとりだったと思います」

〈先輩〉鯨井ルカを演じる平祐奈
〈先輩〉鯨井ルカを演じる平祐奈

(C)石黒正数・徳間書店/映画『ネムルバカ』製作委員会

――本作にはインディーズバンド・ピートモスのヴォーカルとしてルカが登場しますが、彼女の存在が入巣をはじめ多くのファンの心を動かしたように、お二人がこれまでの人生の中で心を動かされた音楽を教えてください

久保「wacciさんの『大丈夫』です。曲に出会ったのは、中学時代の部活をしていた頃でした。当時は、学生らしい悩みやしんどい時期があって......。それまで私は『大丈夫?』って聞かれるのがすごく苦手で、『大丈夫』という言葉自体があまり好きではなかったんです。でも、この曲を聴いたことで、その言葉の温かさに気づくことができました。それから10年経った今でも、落ち込んだ時には必ず聴く大切な曲ですし、仕事で辛いことがあった時も、『大丈夫』を聴いて思いっきり泣いて、気持ちを整理してからまた前を向く。そんなふうに、私にとってはまるで"心の薬"のような存在ですね」

「私はですね、さだまさしさんの『いのちの理由』です。さだまさしさんの歌声や雰囲気って、もうどの曲を聴いても心に沁みるんですけど、特にこの『命の理由』は、私にとってすごく大切な曲なんです。初めて舞台『奇跡の人』でヘレン・ケラー役をやらせていただいたとき、三重苦というとても難しい役をいただいて、毎日が無我夢中で、本当にどうしたらいいんだろうって悩みながら過ごしていました。そんな日々の中で、準備をしながらずっと流していたのがこの曲でした。"みんな生まれてきただけで意味がある"とか、"今のあなたでいいんだよ"というメッセージが、本当に心に響いて。これは私自身にも、そしてヘレン・ケラーにも届く言葉なんじゃないかって思ったんです。この映画にも通じるものがありますけど、"そのままの自分で大丈夫"って思わせてくれる勇気をもらえる曲ですね。さだまさしさんの曲は、何かあるたびに聴いて自分を励ましています」

――入巣とルカのようにお二人が一緒に暮らすとしたらどんな生活になりそうですか?

「いっぱい想像したよね」

久保「何回も想像した」

「絶対に私たち、うまくいくんですよ」

久保「結論から言うと、うまくいくんです(笑)。うちによく遊びに来てくれるんですけど、なんかもうモデルルーム見学してるのかなってぐらい、私の家の家具をひとつひとつチェックして、『これどこの?』って聞いてくるんですよ(笑)」

「好みが一緒なんですよ。私がめちゃくちゃ欲しいと思ってた絨毯があって、お気に入りでずっと携帯の中に保存してたんですよ。でもネット販売だから、お店まで見に行くのもめんどくさいなって思ってたんです。そしたら、しーちゃん家に行ったらあったんですよ。だからもう、その場ですぐポチっとして、おそろいにしました(笑)」

久保「そしたら今度はゴミ箱もお揃いにしたいって言い出して」

「テーブルもおそろだよね。なんか好きな木の種類とかが似てるんです」

――絨毯が被るってなかなかないですよね

久保「いや、びっくりした」

「あれはすごいよね」

――役割的にはどんな感じになりそうですか?

「絶対決めないよね。決めないでうまく過ごせそう」

久保「そう思う。お互い家事はできる方だと思うので、私たちはいいバランスになりそうです(笑)。料理も同じぐらい多分やるし、掃除もやるし」

――一緒に暮らしてるお二人を見てみたいなと思いました(笑)

久保「どうなるんだろうね。でも、ほんとに入巣とルカみたいになりそう。お互い各々のことやって、興味あったら集ってみたいな」

――いいですよね。入巣とルカの関係性って

「確かに! 憧れでもありますよね」

大学の女子寮で同じ部屋に住む2人を演じる久保史緒里と平祐奈
大学の女子寮で同じ部屋に住む2人を演じる久保史緒里と平祐奈

(C)石黒正数・徳間書店/映画『ネムルバカ』製作委員会

――最後に映画を楽しみにしているみなさんにメッセージをお願いします

久保「年代を問わずさまざまな人物が登場するんですけど、全員がどこかしらで通ったことのある道を描いている作品だと思うんです。例えば、入巣を通ってルカへ行く人もいれば、ルカを通って入巣へ行く人もいる。だからこそ、本当に年代を問わず、いろんな方に観ていただきたい作品ですし、大学生という限られた時間の中での青春でもありますが、音楽的な要素もすごく詰まっていて、ライブシーンなんかは本当に素敵なので、ぜひ劇場で体感してほしいです」

「阪元監督はこの映画をコメディとおっしゃっているんですが、実際にクスッと笑えるシーンが意外と多くて。なので、仕事帰りに疲れたなって思いながらふらっと劇場に立ち寄って、何も考えずにボーっと観ていただきたいです。でも、最後にはそれぞれの受け取り方がきっと違うと思うので、みなさんにとっての答えを見つけに来てもらえたら嬉しいなと思います」

取材・文=川崎龍也

映画情報

映画『ネムルバカ』
新宿ピカデリーほか全国公開中