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国広富之&松崎しげるのゴールデンコンビがバディもの人気を定着させた記念碑的ドラマ「噂の刑事トミーとマツ」

2025.3.6(木)

1979年にTBS系で放送開始された「噂の刑事トミーとマツ」は、国広富之&松崎しげるというゴールデンコンビが主演し、いわゆるバディものの刑事ドラマとして人気を博した。大映テレビ制作のTBS水曜夜8時の「水8」枠を代表する作品で、同枠の評価を決定的にした一作としても確かな足跡を残している。

絶妙なバディ感が心地よいトミー(国広富之)とマツ(松崎しげる)
絶妙なバディ感が心地よいトミー(国広富之)とマツ(松崎しげる)

今でこそ「相棒」シリーズをはじめとして、刑事ドラマの定番としておなじみのバディ形式だが、当時は「太陽にほえろ」や「特捜最前線」といった群像劇が主流。海外では「刑事スタスキー&ハッチ」や、「白バイ野郎ジョン&パンチ」などの名作があるものの日本ではこれといったヒット作がなかった。松田優作&中村雅俊の「俺たちの勲章」(1975年・日本テレビ系)や草刈正雄&田中邦衛の「華麗なる刑事」(1977年・フジテレビ系)といった良作こそあれ、バディものの刑事ドラマはまだ定着していなかったと言える。松崎しげる自身も「スタスキー&ハッチ」のファンで、当初は「噂の刑事」という仮タイトルで進行していたところに「トミーとマツ」を入れ、日本の「スタスキー&ハッチ」を目指そうとスタートしたという。

正義感は強いが人一倍臆病者の岡野富夫刑事(トミー)を国広が演じ、松崎演じる松山進刑事(マツ)は、江戸っ子気質の猪突猛進型。ドジばかりしているコンビが、衝突しながらも協力し合って事件解決に至るのが毎回の本筋だ。クライマックスとなる格闘シーンでは、臆病なトミーにマツがしびれを切らし、「お前なんか男じゃない、このオトコオンナのトミコォ!」と罵倒。するとトミーがその言葉に反応して突然強くなり、一瞬にして悪党をなぎ倒す展開が番組の名物だった。共演には"鉄血課長"の異名をとる御崎捜査課長に林隆三。刑事たちのお目付け役である相模管理官に石立鉄男。先輩の高村部長刑事に井川比佐志、片桐刑事を清水章吾が演じ、トミーの姉・幸子には志穂美悦子を起用。シリーズ後半からは森村万里子婦警(石井めぐみ)が加わってさらに厚みを増した。男臭くて渋い魅力を発揮した林、部下には厳しく接するも本庁上層部との防波堤となってマツたちを守ってくれる相模を好演した石立の存在感が抜群で、コミカルな展開の中でベテラン2人が画面を引き締めていた印象だ。

第1シリーズの視聴率は平均17%を記録したが、大河ドラマ「草燃える」で源義経役を好演するなど人気絶頂だった国広と、本業の歌手としても精力的に活動していた松崎のスケジュール調整が困難になり、1981年3月の第65話をもって番組は終了。しかし絶大な人気を受けて第2シリーズが1982年1月にスタート。第2シリーズはジャジャ馬娘のマリッペこと、森村婦警の存在感がより高まっている。交通課勤務なのにトミー恋しさのあまり捜査課の事件にまで首をつっこんだり、マツを含めた恋の三角関係も見どころとなっていた。
 
トミーとマツのバディ感が絶妙で、ナイーブさを漂わせた二枚目俳優の国広を思い切ったコミカル設定にしたところや、役者としての勘の良さを発揮した松崎の魅力も大いにハマった。2人は本作で共演する前には面識がなく、撮影開始時にはぎこちなさもあったらしいが、すぐに打ち解けて本作の終了後にもたびたび共演するなど、後年に至るまで名コンビぶりを発揮した。コミカルな作風ではあるものの、事件や犯行動機などを丁寧に描いた脚本も見ごたえがあり、メインライターを務めた長野洋、大映テレビ作品や特撮ドラマで活躍した江連卓、「Gメン75」などで実績を残した茶田才といった腕自慢の脚本家を揃えて競作させていたことも人気を支えたと言えるだろう。

「太陽にほえろ」が開拓した、レギュラーの人気刑事が殉職によって番組を卒業するというのが当時の刑事ドラマの流行だったが、本作はまったく追随しなかった。明るい作風を重視して暗くなる殉職エピソードを避けたのだろうが、そんな製作サイドの矜持を感じさせる点にも好感が持てる。ゲスト出演者も非常にバラエティ豊かで、山田隆夫、ポール牧、ケーシー高峰、由利徹、伊東四朗、左とん平といった当時の喜劇スターたちが番組を彩った。さらに大場久美子や浅野ゆう子、荒木由美子、堀川まゆみといった時代を代表する人気女優たちを印象的に起用したことも印象深い。第2シリーズ16話に登場した和田アキ子もトミーと対比させる「逆オトコオンナ」という役柄で、強烈な印象を残している(和田は第1シリーズ54話にも別の役でゲスト出演)。

日本の刑事ドラマの歴史において、バディもの人気を定着させた点でも本作の意義は大きい。刑事ドラマに限らず、昭和のドラマの輝きを存分に感じさせてくれる「噂の刑事トミーとマツ」。その力強さと面白さはもちろん、当時の世相を含めて、国広富之&松崎しげるのゴールデンコンビをあらためて現代のドラマファンたちにも大いに味わってもらいたい。

文=渡辺敏樹

放送情報【スカパー!】

噂の刑事トミーとマツ
放送日時:3月7日(金)04:00スタート

放送チャンネル:TBSチャンネル2 名作ドラマ・スポーツ・アニメ
※放送スケジュールは変更になる場合があります