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円熟期を迎えた望海風斗が豊かな表現力を遺憾なく発揮した雪組公演「ONCE UPON A TIME IN AMERICA」

2025.2.28(金)

雪組公演「ONCE UPON A TIME IN AMERICA」は、1984年に公開されたセルジオ・レオーネ監督によるギャング映画を舞台化した作品だ。脚本・演出は小池修一郎。20世紀前半、激動のアメリカ社会を背景に、貧民街で生まれたユダヤ移民の少年ヌードルスらがギャングとして成り上がり、悲劇的な顛末を迎えるさまが描かれる。

原作映画は4時間近い長編(完全版)で残酷なシーンも多いが、タカラヅカ版は映画の世界観を大事にしつつ、映画よりわかりやすく、美しくまとめられている。この翻案のさじ加減が本作の注目ポイントである。
 
一番印象的なのは1幕ラストだろう。映画では見るのも辛い暴力的なシーンだったが、タカラヅカでは薔薇に囲まれたヌードルス(望海風斗)が愛するデボラ(真彩希帆)を思ってひとり佇むという、本作一番の見どころともいえる場面になっている。

「ポーの一族」(2018年花組)が明日海りおの存在あっての作品と言われたが、「ONCE UPON A TIME IN AMERICA」もまたトップスターとして円熟期を迎えた望海風斗あってこその作品だった。また、決して後味が良いとはいえない映画をタカラヅカらしくドラマチックに舞台化するにあたっては、望海・真彩の雪組トップコンビが響かせる歌声の豊かな表現力も必要不可欠だったと思う。

ヌードルスの人生に大きな影響を与える存在がマックス(彩風咲奈)だ。かつては一番の親友であった二人の関係が変化していくさまをトップスター・望海と二番手・彩風ががっぷり四つに組んで見せる。映画の謎めいたラストと少々異なり、二人の生き様が感じられる結末にも注目だ。

映画よりクローズアップされているのが労働運動家であるジミー(彩凪翔)だ。映画にはないシーンがいくつかあり、マックスとの関係がわかりやすくなっている。数多のギャングは登場すれども一番のワルは実はこの人かも知れないと思わせる。
 
一番大きく変わったのはマックスの恋人キャロル(朝美絢)だろう。設定はタカラヅカらしく変わったけれど、容貌は映画の女優を彷彿とさせる華やかさだ。映画にはヌードルスの恋人としてイブという女性が登場するが、エヴァ(彩みちる)はここから取った名前だろうか。映画のイブは悲惨な最期だが、エヴァは対照的なキャラクターで救われる。

本作のようなギャングものを演じさせたら雪組の男役はやはり上手い。どこまでも逞しく裏社会を生き抜く、人間味溢れる男たちを見せてくれる。ヌードルスの仲間であるコックアイ(真那春人)やパッツィー(縣千)の再現度の高さも印象的だった。
 
いっぽう、音楽家を目指すニック(綾凰華)やハリウッドのプロデューサー・サム(煌羽 レオ)と恋人のベティ(星南のぞみ)など映画には登場しない人物も多数登場し、物語をうまく膨らませている。

舞台セットもよく見ると映画に忠実だ。ファット・モーの店にあるサンドバッグ、少年たちに横取りされるケーキ、禁酒法撤廃での大騒ぎで登場する棺桶など、スタッフのこだわりを感じさせる。映画と見比べてみると、色々な発見がありそうだ。

マフィア、移民、禁酒法、フォリーズのレビュー、ハリウッド、労働争議などのキーワードを浮かび上がらせつつ、「狂騒の20年代」から世界恐慌、そして戦後の50年代に至るまでのアメリカの激動が凝縮されている。「それでも必死に頑張って生きてきたじゃないか、それでいい」というタカラヅカ版ヌードルスの台詞が心に響く。

文=中本千晶

放送情報【スカパー!】

ONCE UPON A TIME IN AMERICA('20年雪組・宝塚・千秋楽)
放送日時:3月26日(水) 14:00~
放送チャンネル:TAKARAZUKA SKY STAGE
※放送スケジュールは変更になる場合があります