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広瀬すず×木戸大聖×岡田将生が挑んだ感情へのアプローチ 『ゆきてかへらぬ』で描かれた歪な三角関係を語る

2025.2.21(金)

映画『ゆきてかへらぬ』出演の木戸大聖、広瀬すず、岡田将生
映画『ゆきてかへらぬ』出演の木戸大聖、広瀬すず、岡田将生

映画『ゆきてかへらぬ』が2月21日(金)より、TOHOシネマズ 日比谷ほかにて全国公開される。同作は大正時代から昭和初期の京都と東京を舞台に、実在した女優・長谷川泰子と詩人・中原中也、文芸評論家・小林秀雄という男女3人の愛と青春を描いている。

主要キャストとして泰子役の広瀬すず、中也役の木戸大聖、小林役を岡田将生が出演。泰子を中心とした複雑で歪な三角関係をどう演じたのか。それぞれの役へのアプローチについても聞いた。

――それぞれ演じられた人物の印象について聞かせてください

木戸「やっぱり今も支持されている天才詩人ではあるのですが、調べていくうちに、目上の人に対してガツガツと相手の陣地に踏み込んでいく一方で、孤独で、相手にされないこともあるような傍若無人な部分が見えてきました。でも、この2人との出会いは、中也にとって理解してくれる人が現れたんだと。強く見せかけているけど、実際はとても繊細で孤独な人物だと感じました。それでいてすごくストレートな人。そこは今までにない役柄で新鮮でしたね」

広瀬「子供の頃から周りにあまり人がいない環境で育って、自分も一度は女優という夢を見たものの、2人の才能には勝てず、もがいているうちに2人の天才に囲まれていることで自分が削られていくような、何か欠けていく感覚がありました。その中で、依存や執着がどんどん強くなっていって、マインドコントロールが不器用で上手くできないという感じもあって。でも、そうしたところが魅力でもあり、危うさを感じさせる部分だなと思うんです。そこに、少し色っぽい瞬間があったりして、非常に不思議なバランス感を持っている人物だなと思いました」

岡田「根岸監督からたくさん資料をいただいて読んだのですが、とにかく破天荒だったという点が非常に印象的でした。破天荒という言葉だけでは足りないほど、たくさんの逸話があるのですが、なかなか一言ではつかみきれない人物です。だからこそ、今回の役作りでは特になかはら中也の目線を外さないようにすることが重要だと感じて、それが役作りに繋がったのかなと思っています」

映画『ゆきてかへらぬ』に出演した3人(左から木戸大聖、広瀬すず、岡田将生)
映画『ゆきてかへらぬ』に出演した3人(左から木戸大聖、広瀬すず、岡田将生)

――中也と小林という立場で泰子の魅力についてはどう思われましたか?

木戸「中也としてとなると、これは小林さんに対しても同様かもしれないんですけど、やっぱり自分の詩を支持してくれたという点と、自分の詩が生まれる根源となり、エネルギーとなった、欠かせない存在だったんだと思います。それは一緒にいる時もそうですし、小林のもとに行って喪失感に襲われている時も。そもそもその隣にいる泰子という存在自体が、いろんな詩を生むための引き出しを作ってくれたのかなと思います」

映画『ゆきてかへらぬ』で詩人・中原中也を演じた木戸大聖
映画『ゆきてかへらぬ』で詩人・中原中也を演じた木戸大聖

岡田「これが正しいかどうかはわからないのですが、泰子さんの芸としての才能は認めていて、その存在を理解しているという前提がまずあって、その中で中也の才能を誰よりも小林さんが理解していると思うので、2人の関係を崩すことによって、中也も泰子の才能も、もしかしたらまた違った形で開花するのではないか、というふうに少し思っていたのかもしれません。人間性としても泰子さんはおそらく目が離せないほど魅力的だったので、もちろん非常にセンシティブで扱いにくい部分があったにせよ、どうしても一緒の空間にいると、そのフォーカスが中也に向かってしまうという部分はあったのかなと思います」

映画『ゆきてかへらぬ』で文芸評論家・小林秀雄を演じた岡田将生
映画『ゆきてかへらぬ』で文芸評論家・小林秀雄を演じた岡田将生

――広瀬さんは2人の男性の心を掴むほどの泰子の魅力についてどう思われますか?

広瀬「魅力なのか、こちらの執着を押し付けてるのかわからないですけど、なんかあるんでしょうね(笑)」

木戸「言葉にできないものだよね」

広瀬「そうだね。泰子はなかなか出会わないタイプの人で、品がないようで、実はいい品を出しているんですよ。多分、醸し出している何かが、色っぽさや危うさに繋がったり、一瞬で雰囲気が変わるような何かを持っているように感じています。自分自身でも、どれが本当なのかいまいちわかってないと思うんです。いろんなエネルギーが交じり合っているような感じで、すごく不思議な人ですよね」

映画『ゆきてかへらぬ』で女優・長谷川泰子を演じた広瀬すず
映画『ゆきてかへらぬ』で女優・長谷川泰子を演じた広瀬すず

――泰子も女優として活動していますが、女優として憧れる部分はありましたか?

広瀬「女優役ではあったものの、女優としてどうこうというよりも、天才2人に対して『自分も何かで勝ってやる』みたいな、天才になりたかった自分への憧れが強かった気がします。時にはよくないこともあるかもしれないんですけど、それゆえの強気な部分がたまに出てる。でも、あれくらいの気持ちがないとできないことなのかなって。そこはすごく清々しいですよね」

左から木戸大聖、広瀬すず、岡田将生
左から木戸大聖、広瀬すず、岡田将生

――今回は木戸さんと広瀬さんは感情的にお芝居するシーンも多かったですが、その辺りはどのような意識で演じられたのでしょうか?

木戸「泰子との関係と小林との関係では、表現されるものが全然違うのですが、泰子と中也の関係は、僕にとっても特別で、演じ終わった後に感じる疲れや、あのフィジカルな部分から出てくる感情が身体を通して表現されている感覚がありました。やり終わって『はあ』と息をつくことも多々あって、すごく大変だった思い出があります。一方で、小林さんに対しては、自分が認めている部分もあれば、「この人には認められた」という気持ちもありました。その男同士の関係って、純愛とも言えない微妙な感情が入り混じっていて、泰子がそれを嫉妬するほどに、相手を自分の方に引き寄せたいという思いが強く感じたので、そうしたやり取りを意識して演じました」

詩人・中原中也を演じた木戸大聖
詩人・中原中也を演じた木戸大聖

広瀬「あまり深く考えずに感情とセリフを紡いでいって、音やリズムで違いをつけようと思っていました。2人とも受け取り方が違うので、その違いを受け入れてから次に自分がどう発信するかを、その場で考えました。でも、泰子は向き合っているように見えて向き合ってないんですよ。中也とのシーンは、素直にお互いの温度感を感じながら、少しずつ寄り添い合って強く結ばれる瞬間と、それが一気に離れる瞬間がありました。でも、小林さんとのシーンでは、駆け引きが多くて、自分から感情やセンシティブな部分を問いかけるような場面が多くて。向き合っているというよりも、常に両方に一方的に投げかけていた感じです。だから、受ける方が大変だっただろうなって(笑)」

――泰子の感情を受け取る側だった岡田さんはいかがですか?

岡田「体の中で起きていることを素直に表情に出すべきか、それとも異なる感情で表現した方が小林さんとの関係に繋がるのか、現場ではよく考えていました。でも、泰子のパワーがあまりにも強かったので、そのエネルギーがどのように第三者から見えるか、そちらをメインに考えていたことが多かったです」

文芸評論家・小林秀雄を演じた岡田将生
文芸評論家・小林秀雄を演じた岡田将生

――中也と泰子、そして小林とすごく複雑な関係性ですよね

岡田「自分の荷物を持って小林さんの家に向かうシーンでは、私が一人でタバコを吸っているところに中也が来るんです。このシーンを今でも覚えていて、最初のドライな演技が滑稽に映ったんですよ。中也は何も知らずに自分の話をしているのですが、小林さんの中ではすごく複雑な思いが渦巻いていて。その中で、根岸監督が少し笑っているのが印象的で、これでいいんだと思えたというか。小林は表には出さないけれども、中也のことを考えていたのか、いろんな解釈の仕方があるんだなと思いました。その感情が動いている様子は、確かに画面に出ていて、自分もそれを楽しんでいましたし、誰よりも監督が一番楽しんでいたのが印象的でした」

――本作では泰子を中心とした男女の三角関係について、広瀬さんと木戸さんはどう見ていましたか?

木戸「難しいんですけど、例えばトランプを積み重ねる遊びあるじゃないですか。3人の関係性ってあれにすごく似ている気がして。軸自体は一つひとつすごく不安定だけど、うまくバランスが取れているから、三角形として立っている感じがするんです。でも、ちょっとつついたら、ガタっと崩れてしまう。でも、1人だけでは何かが足りないということをお互いにわかっていて、補い合っている関係性なのかなって。中也にとってそうした空いているスペースを埋めてくれるのが2人であり、2人のおかげで自分が形成されている感覚があったのかなと思います」

広瀬「今思うと、かなりカオスな状況ですよね(笑)。ただ、泰子はその状況に執着していて、人の感情で心が満たされたいというか、それに依存している部分があるんだろうなと感じました。女優の仕事も似たような部分があって、人の感情を受け止めて発信したり演じたりするという点で、ちょっと似た感覚を覚えましたね。お母さんとの過去があって、人の温もりを求めているわけではないけど、売れていることで『生きている証』を示すような意思表示があって、最初はそれに巻き込まれているように見えたんです。でも、実際には2人ともかなりぶっ飛んでいて、みんなで埋め合って執着しているような感じで。それがきっと面白い部分なんだと思います」

女優・長谷川泰子を演じた広瀬すず
女優・長谷川泰子を演じた広瀬すず

――最後にはそんな泰子の自立も描かれていますよね

広瀬「実際には中也のお葬式で泰子さんがめちゃくちゃ泣かれたというお話が残っていて、それが本当のところだと思うんですけど、映画の最後のシーンで喪服を着た彼女が強気でいるのもまた、意思表示の一つに見えたんです。今は3人じゃなくなったからこそ、顔にかかるレースというフィルターを挟んで、別の世界を見ているような感じ。その中で中也の姿を見て、泣くまで素直にいていいのかなといろいろ考えていたんですけど、現場に入ってみたらこのシーンで泣くという方向性にはならないかもと思って、強くてたくましい泰子の姿が浮かんできました。実際とは少し違う描き方になったかもしれないんですけど、個人的には未来に希望を感じる形にしたいと思って、ああいう結末になりました」

取材・文=川崎龍也
写真=内田大介
スタイリスト=丸山晃(広瀬すず)、佐々木悠介(木戸大聖)、大石裕介(岡田将生)
ヘアメイク=奥平正芳(広瀬すず)、石邑麻由(木戸大聖)、細野裕之(岡田将生)

広瀬すずさん 衣裳
ワンピース(\36,300) /JOSE MOON(080-1908-2401)
ネックレス(\16,500)、ピアス(\38,000)、イヤーカフ(\17,900)、リング(\29,800)/全てAFFECT(055-235-9286)
靴/スタイリスト私物

木戸大聖さん 衣裳
ジャケット(\72,600)、ベスト(\47,300)、シャツ(\35,200)、タートルネック(\24,200)、パンツ(\49,500)/全てスズキ タカユキ(03-6821-6701)
その他/スタイリスト私物

映画情報

映画『ゆきてかへらぬ』
2025年2月21日(金)公開
監督:根岸吉太郎 脚本:田中陽造
出演:広瀬すず、木戸大聖、岡田将生ほか
(C)2025「ゆきてかへらぬ」製作委員会 配給:キノフィルムズ