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水川かたまり×田中征爾監督、映画「死に損なった男」撮影初日のシーンは「冷蔵庫に叩きつけられて...」

2025.2.20(木)

映画「死に損なった男」主演の水川かたまり(空気階段)と田中征爾監督
映画「死に損なった男」主演の水川かたまり(空気階段)と田中征爾監督

水川かたまり(空気階段)が主演を務める映画「死に損なった男」が2月21日(金)に公開される。

夢が叶った反面、殺伐とした社会と報われない日々に疲弊していた構成作家の関谷一平(水川)は、駅のホームから飛び降りようとする。その矢先、隣の駅で人身事故が発生した。タイミング悪く死に損なった一平のもとに現れたのは、幽霊の森口友宏(正名僕蔵)。彼は言う。「娘に付きまとっている男を殺してくれないか?」ーー。

今回は、主演のかたまりと田中征爾監督のインタビューが実現。生粋のコント師が挑戦した映画への思いや、田中監督が語る俳優・水川かたまりの魅力など、たっぷりと語ってもらった。

――無事に撮影が終わり、こうしてインタビューを受けていただいているわけですが、初主演映画が公開される今、どんなお気持ちなのでしょうか?

水川「今が一番現実味がないかもしれないです。撮影中『映画を撮っているんだ』ということは理解していたんですけど、『この撮影したものが映画館で上映されるんだ』という現実を受け入れられてないですね」

田中「クランクアップのとき、ご挨拶をしてくださったんですけど、『(すべてがドッキリで)今に花束が爆発するんじゃないかと思っています』とおっしゃっていましたもんね(笑)」

――今作の設定について、どこから着想を得たのでしょうか?

田中「じつは実体験なんですよ。僕に自殺願望があったわけではないんですが、13、14年前、駅で電車を待っているときに、人身事故で電車が止まったってアナウンスがあったんです。そのとき『もし、今この場で自分が死のうと思っていたとしたら、すごく気まずい瞬間だな』と思ってメモに書き留めたのが始まりです」

――かたまりさんはこの設定を聞いたとき、どんなことを思われましたか?

水川「本当にめっちゃいい設定ですし、もし、僕が同じ設定を思いついたとしたら、すぐにコントにしていたと思います。それに、いい設定を思いついた日って『今日は成功だな』みたいな感覚になるんですけど、まさにそう思っていたと思いますね」

――コント師さんならではの目線ですね。

水川「いい設定のコントをよく『強い設定』と呼ぶんですが、田中監督のデビュー作『メランコリック』も、今回の映画も『めっちゃ強い設定じゃん』って感じました」

映画「死に損なった男」主演の空気階段・水川かたまりと田中征爾監督
映画「死に損なった男」主演の空気階段・水川かたまりと田中征爾監督

――コンビでもネタを書いて演じる側のかたまりさん。今回、映画の世界で脚本も演出も任せ「演じること」に集中されましたが、やはりコントとは気持ちは違うものですか?

水川「そうですね。たとえば、他の人とのユニットコントだったら、僕も経験があるんですけど、映画は本当に経験がない。そんななかで『あっちに向かって漕いでいきなさい』と指針を示してくださったので、めちゃくちゃ助かりましたし、勉強にもなりました。映画を撮る前と後で、コントのやり方も変わりましたね」

田中「本当ですか!」

水川「コントをやるときって、基本的にお客さんを笑わせることを目的としているんで、狙いが明確じゃないですか。でも、映画って、『ここのシーンは泣かせたい』とか『ここは怖がらせたい』とか、一本の作品にいろんな方向の狙いがあるなと思ったんです。いざ映画が終わったあとコントをしたときに、『ここのフリの段階ではちょっとほっこりさせたい』とか、『ここはしんみりさせたい』とか思うようになって、芝居部分が丁寧になったなと思います」

――かたまりさんはご自身が演じられた一平について、どんな印象を持たれていますか?

水川「最初に脚本を読んだ時点で、純粋さゆえに、ものすごく生きづらい人なんだろうなと思いました。作家になりたくて実際になり、それでごはんが食べられるって、他人から見たら羨ましいと思われる環境だと思うんですよ。でも、胸のなかには、自分がやりたかったことがあって、それができていない...。その『やりたい』という感覚を大切にしているからこそ、それが崩れたときに疲弊して、ホームから飛び降りようと考える人なんで、すごくナイーブであり、すごくストレートな人なんだろうなって思いました」

――監督は、かたまりさん演じる一平の魅力をどう描こうと思われましたか?

田中「一平と幽霊の友宏の口喧嘩が、この映画の面白さの大きな要素のひとつとしてあると思ったので、その口喧嘩が最も面白く映るような人物像にしていくことが正解なんだろうな、と思っていました」

――主人公の職業である構成作家は、かたまりさんも普段からご一緒することが多いと思います。やりやすさはあったのでしょうか?

水川「よく日常から接しますし、作家の人はどういう仕事をして、どういう所作をするのか、そういったものは知識としてあったので、やりやすい部分はあったのかもしれないです」

――主人公の職業を構成作家にしようと思ったのには、何か理由があるんですか?

田中「2つ理由があります。1つは『主人公が担わされるミッションに対して、一番向いていない人を当てる方が面白くなる』という僕のなかの映画作りのセオリーがあったので、暴力を振るうことから距離が遠そうな人を主人公にしたいと思いました。そしてもう1つが、ウディ・アレン監督の映画で『ブロードウェイのダニー・ローズ』という作品があるのですが、その主人公が、売れない芸人専門のエージェントみたいな仕事をしているんです。じつは『死に損なった男』も、その映画から引用したシーンもあるのですが、今回はその2点からキャラクターづくりをしました」

――かたまりさんは、名優の正名さんと初共演。いざ、対峙してみていかがでしたか?

水川「撮影初日が、一平の自宅にやって来た幽霊の友宏が、一平を冷蔵庫に叩きつけて首を絞めるシーンだったんですけど、じつは正名さんとは衣装合わせのときにお会いできず、そこで初対面だったんです。そんなに喋ることもなく、割と会って何分後かに冷蔵庫に叩きつけられたんで(笑)。僕はここで1個『映画やるぞ』というメッセージを受け取ったというか。正名さんから『友宏はこれくらい頭がおかしいぞ』、『いくときはいくぞ』みたいなメッセージを受け取りました」

田中「なるほど(笑)」

水川「でもお昼休憩では、正名さんが『かたまりさん、一緒にごはんを食べましょう』と誘ってくださって...。めっちゃ優しいし、すげえ話しかけてくださるし、すごく助かったんです。初日ということもあって、正名さんがいなかったら(プレッシャーもあって)途中で帰っていたかもしれないですね(笑)」

――田中監督は俳優としてのかたまりさんをご覧になってみて、どんなところに魅力を感じられましたか?

田中「衣装合わせのときに初めてお会いしたんですけど、そのときに、キャストさんに集まってもらってワンシーンだけやってもらったんです。その一発目を見た瞬間、プロデューサーと『最高じゃん』みたいな話をしました。自分たちの想像をはるかに超えていましたね」

――どのあたりでそう思われたんですか?

田中「台本でやろうとしていることを100%でやってくれる方だなと思いました。最初から、この台本での笑いの取り方、この台本での芯の作り方がバチっとハマっていたんです」

――最後に安心する一言をいただきましたね。

水川「はい。でもまだこの段階でもドッキリの可能性があるんで」

田中「(笑)」

文・写真=浜瀬将樹

映画情報

映画「死に損なった男」
公開日:2月21日(金)
脚本・監督:田中征爾
出演者:水川かたまり、正名僕蔵、唐田えりか、喜矢武豊、堀未央奈ほか