花組・柚香光、水美舞斗、星風まどからが描く哀感なストーリーに引き込まれる作品「フィレンツェに燃える」('22年花組・全国)
2025.2.3(月)
「フィレンツェに燃える」は2022年、47年ぶりに花組で再演された作品だ。作・演出は故・柴田侑宏。タカラヅカの様式美の中で恋する男女の心情を深く繊細に描き上げる作風で、多くのファンに愛されてきた作家である。
1975年に雪組で初演された「フィレンツェに燃える」は、その柴田氏の転機となった作品でもあった。1975年といえば「ベルばらブーム」が加速した年だが、同年「フィレンツェに燃える」が、文化庁・芸術選奨の文部大臣新人賞(大衆芸能部門)を受賞したのである。
物語の舞台は1850年頃のフィレンツェ。バルタザール侯爵家にはノーブルで品行方正な兄のアントニオ(柚香光)と、野生的で奔放な弟のレオナルド(水美舞斗)の2人の息子がいた。
美しき未亡人パメラ(星風まどか)は歌姫から這い上がってきた過去を持ち、貴族たちには白い目で見られていた。だが、パメラの瞳の奥に真実の姿を感じたアントニオは結婚を申し込む。兄が悪女に騙されたと思い込んだレオナルドはパメラに偽りの恋を仕掛けて兄を救おうとし、パメラもまた、自分はアントニオに相応しい女ではないと考えてレオナルドのものとなる。傷心のアントニオの心を癒そうとするのは、幼馴染のアンジェラ(星空美咲)であった。
いっぽう、かつてパメラと男女の仲であったオテロ(永久輝せあ)も執拗にパメラを追ってきた。いつしかパメラのことを深く愛するようになっていたレオナルドはオテロを刺すが、パメラもまた、オテロに撃たれて命を落とす。
兄弟は再び和解した。そしてレオナルドはイタリア独立運動の義勇軍に参加するべく、旅立っていく。
アントニオを演じたのは前花組トップスターの柚香光。現代的でスタイリッシュな雰囲気が身上の男役だが、本作ではその雰囲気を敢えて封印し、髭をつけて難役に挑む。幕開き、アントニオが登場した瞬間に物語世界にグッと引き込まれた。そこに立っていたのは、貴族社会が滅びようとしているとき、落日の輝きを背に受けて立っている男の姿だった。
魔性の女パメラはアントニオに対してわざと冷たい態度をとる。それがアントニオに示す愛の形なのだ。アンジェラと共にいるアントニオの表情の微妙な変化の中に、彼の優しさ、哀しみ、諦観など、さまざまな表情が読み取れる。
パメラを追い続けるオテロ。彼は何故パメラを撃ったのか。そして、今際の際にパメラの脳裏をよぎった男は誰だったのか。想像は尽きない。オテロの死体はそのままに、カーニバルの熱狂が続く。人が一人死んでも世の中は何一つ変わらないという、残酷な真実を突きつける絵柄だ。
そして、義勇軍として旅立つレオナルドの胸にあった思いはどんなものだったのか。なんともやるせない幕切れである。
今回、演出を担当した大野拓史は、初演の脚本に手を加えず、できる限り忠実な形で再現しようと意図したそうだ。そこには、この後に生み出された名作の数々を彷彿とさせる、柴田ワールドの原点があるように思える。
この作品は「余白を埋める楽しみ」を思い出させてくれる。沈黙の瞬間、ちょっとした表情の変化や仕草、セリフの間などから様々なことが感じ取れる作品である。むろん解釈の余地も多い。だが、あれこれ自由に想像し、考えることもまた、この作品の楽しみ方なのだろう。
文=中本千晶
放送情報【スカパー!】
フィレンツェに燃える(’22年花組・全国)
放送日時:2月27日(木)13:30~
放送チャンネル:TAKARAZUKA SKY STAGE
※放送スケジュールは変更になる場合があります
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