松坂桃李主演で日本アカデミー賞最優秀作品賞に輝いた「新聞記者」など、日韓の傑作社会派映画を宇垣美里が語る<宇垣美里のときめくシネマ>
2025.12.29(日)

映画・マンガなどさまざまなサブカルチャーをこよなく愛する宇垣美里さんが、映画について語るこの連載。今回は、第43回日本アカデミー賞で主要3部門(作品賞、主演男優賞、主演女優賞)で最優秀賞を受賞した「新聞記者」(1月2日(木)9:50~日本映画専門チャンネル)と、第75回カンヌ国際映画祭でソン・ガンホが最優秀男優賞とエキュメニカル審査員賞を獲得した是枝裕和監督の「ベイビー・ブローカー」(1月2日(木)7:30~日本映画専門チャンネル)の社会派作品の2本を解説!
■現実とリンクした権力の闇に対峙する衝撃のサスペンス
2024年から2025年にかけての年末年始は曜日の具合が良いらしく、人によっては9連休、なんてこともあるんだとか!カレンダーと休みが連動しない仕事についているものとしては、羨ましいかぎり...。当然、皆さんそんなに休みがあったら積読している本、リストに入れっぱなしの映画を消化することに時間を割かれることでしょう。2時間越えの超大作や、海外ドラマシリーズの一気見を気兼ねなく楽しめるのは連休ならでは。
でも、そんな心も体も余裕が残っている年末年始だからこそ、あえてずっしりと重い社会派映画をお勧めしたい。鑑賞後にず~んとその世界にひたり、この社会の問題にしっかり目を向ける時間こそ、そういったタイプの映画鑑賞には必要不可欠なのだから。
たとえば2019年に公開された『新聞記者』。公開当時、口コミでどんどんと話題が広がっていった。

忖度せずに質問を繰り返す姿勢から記者クラブでは厄介者扱いされている東都新聞の記者・吉岡。彼女のもとにとある極秘情報が匿名のFAXで届き、真相を突き止めるべく調査に乗り出すことに。一方内閣情報調査室の官僚・杉原は現政権に不都合なニュースをコントロールする自分の仕事に葛藤を抱えていた。杉原は尊敬するかつての上司・神崎と久々に再会するが、その数日後に神崎が投身自殺し、思わぬ政権の暗部に触れることになる。
いわゆる"モリカケ問題"や女性ジャーナリストの性暴力事件の不起訴など、あきらかに現実にリンクした要素が感じられる本作。今見てもいち傍観者であった自分を指さされているかのようで、特に終盤に杉原が見せる表情といったら。結末の解釈を観客にゆだねる形だからこそ、その圧迫感と緊張感には身につまされ、観ていてあまりの情けなさに胃がキリキリしてきた。

5年前の作品なのに、未だにその中で議論されていた問題の真相は闇の中であり、その後また違った形の問題がどんどんと明るみになって、それでいてその疑惑の者たちはなんらとがめを受けていない現状にほとほと愛想がつきそうになる。
とはいえ隣国たる韓国ではよく見られる、このような自国の近現代の歴史を追い、批判する作品が日本でも公開され、あまつさえその翌年の日本アカデミー賞で最優秀作品賞をとった、という事実には一片の救いすら感じる。もちろん、そこで終わりにしてはならないのだけれど。

■役者陣のリアル、ソン・ガンホの表情と天才子役の赤ちゃんに圧倒される
次に取り上げるのは、是枝裕和監督が韓国の名優たちと組んだ「ベイビー・ブローカー」。
借金に追われながらもクリーニング店を経営しているサンヒョンと赤ちゃんポストがある施設で働く児童養護施設出身のドンスは、預けられた赤ん坊をこっそり連れ出しては新しい親に繋げて謝礼を受け取る"ベイビー・ブローカー"として違法な商売に手を染めている。ある日赤ん坊を預けた母親・ソヨンに赤ん坊の連れ出しを気づかれた2人は、成り行きから共に養父母探しの旅に出ることになる。そんな3人を人身売買の罪で検挙するべく刑事が静かに追っていた。

寄せ集めの偽物家族によるロードムービーでありながら、その中で見られる絆をどうして家族と呼べないんだろう?と疑問を抱いてしまうほどに役者陣の距離感の変化や表情の和らぐ様子がリアル。台本通りの順番で撮られたと聞いて納得。母親だけが非難される現状に対する確かな怒りのようなものも感じさせ、難しく答えのない問題にそれでも取り組み続ける先には希望があるはずだという祈りが見えた。ソン・ガンホの表情に宿る父性、なにより赤ちゃんの天才子役ぶりに圧倒された。
どちらも見た後にしっかり受け止めじっくりと考える時間を必要とする作品だ。そこから何を得たのか、その先に何を見るのか、鑑賞時の自分の年齢や立場によっても変わるものだから、時間をおいて何度見ても面白い。ぜひたっぷりと時間をとって対峙してもらいたい。映画は見ている時間はもちろんだけど、その後の心の変化こそが醍醐味なのだから。
文=宇垣美里
放送情報【スカパー!】
新聞記者
放送日時:2025年1月2日(木)9:50~ ほか
ベイビー・ブローカー
放送日時:2025年1月2日(木)7:30~ ほか
チャンネル:日本映画専門チャンネル
※放送スケジュールは変更になる場合があります
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