妻夫木聡が映画「Red」での魅惑的なキャラクターを構築した高度な芝居に刮目せよ
2025.12.29(日)
1997年の大型オーディションでグランプリを獲得して芸能界入りを果たし、10代からさまざまな作品に出演してきた俳優・妻夫木聡。年を重ねながら多くの役柄を通して新たな一面を見せ続けている。
10代、20代では若くフレッシュな役どころを瑞々しく演じて"純粋な好青年"のアイコンのような存在となったかと思えば、映画「ジョゼと虎と魚たち」(2003年)ではウェットな役どころを演じ、演技の幅の広さを証明。さらに、映画「悪人」(2010年)では暗い性格で話下手の主人公を熱演して第34回日本アカデミー賞最優秀主演男優賞を受賞し、映画「怒り」(2016年)では初共演の綾野剛とゲイカップル役を演じて第40回日本アカデミー賞最優秀助演男優賞を受賞した。また、映画「ある男」(2022年)では本名不詳の男性を調査する弁護士役を好演して第46回日本アカデミー賞最優秀主演男優賞を受賞するなど、作品ごとにチャレンジを続け、結果を残し続けている稀有な役者の1人だ。
そんな妻夫木が、高度な芝居で魅惑的なキャラクターを演じた作品が2020年の映画「Red」だ。同作品は、島本理生の同名小説を夏帆主演で映画化したもので、元恋人との快楽に溺れ堕ちていく30代主婦の性愛と苦悩を描いたラブストーリー。
■"いけないと分かっていても惹かれてしまう..."そんな魅力的な男を体現した妻夫木の演技
誰もがうらやむ夫とかわいい娘を持ち、恵まれた日々を送っているはずの村主塔子(夏帆)だったが、どこか行き場のない思いも抱えていた。そんなある日、塔子は10年ぶりにかつて愛した男・鞍田秋彦(妻夫木)と再会。塔子の気持ちを少しずつほどいていく鞍田だったが、彼にはある秘密があった...。
主演の夏帆の演技の素晴らしさは言わずもがな。一見誰もが羨む幸せを手にしている立場でありながら、その立場ならではの苦悩や葛藤、わだかまりなどが、深夜に降り積もる雪のごとく、自分でも気付かぬうちに静かに積もっていってしまっているさまを表現。そして、鞍田との再会を機に積もっていたものが弾けてしまうところ、社会復帰できたことで日々の息苦しさから少し解放された様子、充実感を取り戻すと同時に増していく家庭内での不自由さなどを、情感たっぷりに演じており、瞬間瞬間の塔子の心情を細やかに紡いでいる。
そんな中で、鞍田を演じる妻夫木が、夏帆のそれとはまた違った性質の素晴らしい演技を披露。鞍田は10年前に塔子が勤めていた会社の上司で、当時は鞍田が既婚者で2人は不倫関係にあったのだが、現在の鞍田は独身。塔子とは偶然の再会を機に、家族の有無が逆転した不倫関係が再開してしまうという役どころで、口数が少なく、何を考えているのか掴みづらいキャラクターなのだが、ふとした瞬間に見せる物悲しい表情や時折浮かべる優しい表情、垣間見せる深い愛情など、陰があるが魅力溢れる男性だ。
そんな表現するのが難しいキャラクターを、妻夫木は魅惑的に力演。"ふとした瞬間"や"時折"、"垣間見せる"など、「出している」のではなく「出てしまった」というニュアンスで魅力を見せていくという、高度な芝居で鞍田というキャラクターを作り上げている。
夏帆が作る塔子が素晴らしいだけに、そんな塔子が「不倫はいけないこと」と分かっていながらも惹かれてハマってしまう男性像を構築していないと、塔子の心の動きの説得力が損なわれてしまい観客の熱も一気に冷めてしまうため、要求される鞍田像のハードルは高い。しかしながら、妻夫木は見事に味わい深い魅力溢れる男性として鞍田を演じ上げている。劇中で塔子が「一緒にいても一人で生きている感じがする」と鞍田を評する場面があるのだが、このセリフは鞍田のキャラクター像を一言で言い表しており、この表現を念頭に鞍田を見ると、妻夫木の演技の奥深さを堪能できるだろう。また、鞍田の抱える秘密に関する演技も必見。詳しくは本編にて楽しんでいただきたいため明言は避けるが、秘密が明かされた後の鞍田のじんわりとした"変化"にも注目だ。
原作小説とは異なるクライマックスで描かれる塔子の決断と共に、役者として進化し続ける妻夫木の高度な芝居で構築した魅惑的なキャラクターにも刮目していただきたい。
文=原田健
放送情報【スカパー!】
映画「Red」
放送日時:2025年1月23日(木)21:00~
チャンネル:フジテレビTWO
※放送スケジュールは変更になる場合がございます
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