松本幸四郎×市川染五郎の父子共演が相乗効果を生み出した、劇場版「鬼平犯科帳 血闘」の魅力
2024.12.20(金)
池波正太郎の生誕100年記念プロジェクトとして、時代劇専門チャンネルが制作した「鬼平犯科帳」は、新たに十代目松本幸四郎を主演に迎えて映像化したシリーズ。鬼平役と言えば、八代目松本幸四郎(後の初代松本白鸚)、丹波哲郎、萬屋錦之介といった名優が演じてきたが、やはり二代目中村吉右衛門のイメージが強い。現・松本幸四郎にとっては、実の祖父と叔父の当たり役を引き継ぐことになり、相当な重圧のもとでオファーを受けたと明かしている。2024年1月に放送されたテレビスペシャル「本所・桜屋敷」に続いて、第二作となる劇場版「血闘」は同年5月に公開された。
「本所・桜屋敷」と同様に、若き日の鬼平・長谷川銕三郎を幸四郎の長男である八代目市川染五郎が演じるほか、平蔵の妻・久栄を仙道敦子、密偵・おまさを中村ゆり、同じく密偵・相模の彦十を火野正平が演じ、劇場版ゲストとして志田未来、北村有起哉、松本穂香、中井貴一、柄本明といった多彩な俳優陣が顔をそろえている。
物語は、ある日長谷川平蔵のもとに、若かりし頃に世話になった居酒屋の娘・おまさがやって来る場面で幕を開ける。おまさは「平蔵の力になりたい」と、自ら密偵となることを願い出るのだが、平蔵はおまさの願い出を退ける。どうしても諦めきれないおまさは、平蔵が関心を寄せている老盗賊・鷺原の九平(柄本明)の探索に乗り出す。九平を探すうちに兇賊・網切の甚五郎(北村有起哉)の企みを知り、首尾よく網切一味に入り込むおまさだったが、絶体絶命の危機に陥ってしまう。
正統派時代劇の傑作であり、ファンが多い「鬼平犯科帳」の復活を待ち望んだ人は数多いが、幸四郎は、「鬼平といえば叔父そのものであり、自分が演じるという次元ではなかったが、演じる上での迷いは一切なく、高揚感と感動があった」と、意気込みを語っている。準備期間には乗馬や殺陣の稽古をしっかり積み、江戸弁の練習にも力を入れて撮影に入ったという。
一方、父子共演となった染五郎は、「自分が鬼平に出られるとは思ってなかったし、父と同一人物を演じることに驚いた。怖さもあったが、曽祖父から大叔父へ、さらに父へと受け継がれた長谷川平蔵役なので、その血筋を信じて自分なりにやろうと心がけて撮影に臨んだ」という。劇中で平蔵が使う煙管と煙草入れは吉右衛門が劇中で使っていたもの。当時のスタッフが今回も大勢参加しているのでそれも心強かったとか。染五郎は「銕三郎はやんちゃな若者で、ギラギラした危なっかしさが魅力。意地でも刀を抜かずに木の棒で戦うなど、僕自身も好きな人物」と、すっかり銕三郎役を気に入った様子。それが画面上からも伝わってきて、まさに役を自分のものにしているという印象だ。
撮影時に「火付盗賊改メ、長谷川平蔵」と、幸四郎が名乗りを上げるシーンを間近で見て、「鳥肌が立った」という染五郎。ちなみに、この名乗りの場面は、先代の鬼平とはあえてパターンを変えている。先代の吉右衛門は「長谷川平蔵である」と名乗りを上げていたが、幸四郎は力強く言い切る形にして違いを出している。ファンとしてはそんな細かいところに着目するのも一興だ。染五郎は現場での父の姿からパワーをもらって演じたとも語る。そんな父子共演の相乗効果が映像に表れている、劇場版「鬼平犯科帳 血闘」。「正統の時代劇に真正面でぶつかって、見ている人を驚かせたかった」という幸四郎の「本気」が伝わってくる作品だ。
文=渡辺敏樹
放送情報【スカパー!】
劇場版「鬼平犯科帳 血闘」
放送日時:2025年1月13日(月)13:00~
チャンネル:時代劇専門チャンネル
※放送スケジュールは変更になる場合があります
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