「相棒」の杉下右京役からは想像しづらい、若い水谷豊のエネルギッシュな演技が素晴らしい名作「赤い激流」

2024.11.30(土)

大映テレビが制作し、1970年代に一世を風靡したTBS系ドラマが「赤いシリーズ」だ。当時のトップアイドルだった山口百恵と俳優の宇津井健がシリーズの顔とされ、1980年に放送された最終作の「赤い死線」は百恵の引退作品ともなった。そんな赤いシリーズの中でも、平均視聴率25.5％、最高視聴率37.2%と最高の数字を記録したのが、第5作「赤い激流」である。

本作は"父と息子の愛"と"師弟愛"を軸にする、それまでのシリーズにはないテーマが特徴的で、音楽大学のピアノ科助教授である大沢武(宇津井健)と、街のスナックでピアノを弾く貧しい青年・田代敏夫(水谷豊)が主人公。2人が親子として、師弟として激しく争いながらも和解し、音楽の本質を追求していくという物語だ。なお、山口百恵は特別出演という形で武の娘・紀子役でキャスティングされているものの、ほとんど登場しない。水谷豊が事実上の主役であり、型破りな青年という設定。さらに後半ではサスペンス要素が強まるなど、赤いシリーズ中でも異色の作品とされている。

序盤のストーリーを紹介しよう。宮島音楽大学のピアノ科助教授・大沢武(宇津井健)は初恋の人である未亡人の田代弓子(松尾嘉代)と再婚することになった。弓子の息子・敏夫(水谷豊)は才能豊かなピアニストで、武も彼の才能にほれ込む。敏夫の指導を買って出た武だったが、自殺したといわれている実父の田代清司(緒形拳)と武がライバルであったと知り、敏夫は猛反発する。武はそんな敏夫の態度に悩むが、指揮者である弟の実(石立鉄男)に励まされながら、彼に正統的なピアノを教えることに成功。敏夫は宮島音大で学ぶことになる。

だが、学長の孫娘・宮島華江(竹下景子)に近づくなど、型破りな行動を見せる敏夫の存在は、大学後継者問題と絡んで周囲に波乱を巻き起こすのだった。さらに、死んだといわれていた敏夫の父・清司が生きていたことで、敏夫の人生は大きく揺れ動いていく...。

複雑な事情を抱えながらも、武と義理の親子で師弟関係となった敏夫は、毎朝音楽コンクールでの優勝を目指し、猛特訓を重ねる。ピアノ演奏シーンも本作の見どころもひとつで、コンクールでのピアノ課題曲は、ショパンの「英雄ポロネーズ」、リストの「ラ・カンパネラ」、ベートーヴェンの「ピアノソナタ第17番(テンペスト)」の3曲。当時の水谷はピアノ演奏未経験だったが、本作のために猛特訓したらしい。演奏シーンの迫力は見事で、指の動きは完璧だ。余談だが、水谷は「相棒season3」第15話「殺しのピアノ」において、杉下右京として再びショパンの「英雄ポロネーズ」を弾く場面がある。

また、音楽一家である宮島家の後継者争いも軸となっており、その座を狙って武をライバル視する東山正彦(前田吟)の悪役ぶりも見事だ。後半では殺人事件が発生し、ある主要な登場人物が殺されるのだが、敏夫にその嫌疑がかかってしまう。殺人容疑で逮捕される敏夫の、無実を唯一証明する「Ｒの女」を懸命に探すという展開が視聴者をくぎ付けにした。放送当時には真犯人を当てるクイズキャンペーンまで行われている。

ほかの共演者には、宮島音楽大学学長・宮島貞之役の小沢栄太郎、その妻・あや役の赤木春恵、武の長男・信一役の中島久之をはじめ、特別出演の岸恵子、神山繫、中山仁、名古屋章、新克利、初井言栄といった昭和の名優たちが勢ぞろいしている。また、真犯人は誰かという謎に加えて「Ｒの女」の正体も物語の大きな肝であり、秀逸な仕掛けだった。

ただ、本作で何より素晴らしいのは若き水谷の全力の演技だ。それまでの赤いシリーズは、百恵演じる少女が主人公で、不幸な境遇に耐え忍ぶ姿が定番だった。いわば「静」の演技であったのに対し、本作の水谷は典型的な「動」の芝居を見せる。文字通りに「暴れまわる」役どころで、気に入らないことに対してわめきたてるような場面も多い。その点で正義の人を演じたら天下一品の宇津井健や名家である宮島家の上品な人物たちとは一線を画して、際立った人物造形を見事に演じきっている。近年では「相棒」の杉下右京役の印象が強い水谷だが、当時は「傷だらけの天使」(日本テレビ系)で見せたように動き回って、クセのある役どころが彼の真骨頂だった。

そんな当時の水谷豊の破天荒な演技と、重層的なストーリーで最終回まで目が離せない名作「赤い激流」。名作ぞろいの赤いシリーズの中でも、最高視聴率を記録した作品だけに、今見てもその魅力は色褪せない。右京さんを演じる水谷豊は確かに素晴らしいが、当時のエネルギッシュな演技も今のファンの目には衝撃的に映るはずだ。ぜひ、確かめてほしい。

文＝渡辺敏樹

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