福士蒼汰、松本まりかのラストシーンが忘れられない!独特な雰囲気が魅力の映画「湖の女たち」
2024.11.29(金)
映画というのは単純に見やすい起承転結がある作品が多い。だが、時に撮り方やストーリー、空気感から観客それぞれに大きなぼんやりとした問題を投げかけるような作品が存在する。「湖の女たち」は正にそのような作品だ。
2024年に公開された「湖の女たち」は吉田修一の小説を大森立嗣が監督・脚本を手掛けるということで公開前から話題を呼んだ作品だ。舞台は湖畔に隣接する介護施設である老人が殺害されたことからはじまる。取り調べにやってきた若い刑事濱中圭介(福士蒼汰)は上司からの圧力に押されつつ、被疑者に執拗な取り調べを行っていた。濱中はその介護施設に務める介護士の豊田佳代(松本まりか)に対して歪んだ支配欲を持つようになる。一方、記者が掴んだ情報によってこの殺人事件が過去の事件と関連性があることが明かされていく。
■多面的な物語と歪な関係性
あらすじだけ一読すると、サスペンスドラマのように思える本作だが事件を解決することはこの物語の根幹を成していない。それは濱中と豊田の関係性が事件だけを考えると物語に全く関与していないことからもわかるだろう。
その2人の関係性だが、性的なシーンもあり倒錯した欲望を互いに補い合っているようにみえる。しかし、福士と松本の芝居はそういった身体的欲求を埋めるためにいるのではないと雄弁に語る。では何のためにいるのかと問われると、これは観客によるとしかいえないだろう。今回は一視点として湖のシーンをあげてみたい。
■物語の屋台骨、福士蒼汰と松本まりか2人の芝居
濱中と豊田の湖のシーンは2人が一緒にいるラストシーンとなる。湖の真ん中に漕ぎだしたボートの上で濱中は豊田に手錠をし、豊田に湖に飛び込めと命令する。
命令された時の松本の表情は恍惚ではない。かといって不安そうでもない。不思議な表情をしている。まるで自身を閉じ込める硬い殻からの脱却、死別を出来ることにひどく安堵しているようにみえた。それは松本自身がコメントで述べた「自由な瞬間」であったかもしれない。
一方、福士も不思議な表情をしている。警察官にもかかわらず、人を殺してしまうかもしれないといった怯えや豊田の忠誠心を試してやろうという気持ちにはみえない。ただ淡々と命令している。濱中に家庭や上司から受ける鬱屈した感情があることは頷けるが、そこから自暴自棄になったというわけでもない。福士の芝居はただ湖に存在している、我思う故に我ありといったような空気と一体になった芝居をしていた。それは今までの福士の芝居とは一線を画す芝居だろう。
ここまで書いたのはあくまで参考だ。この作品は観てみないとわからない、他人に説明するのが非常に難儀な作品。しかし、それこそ映画体験の1つである種、醍醐味的な作品ともいえる。そんな不思議な感覚をあたえてくれる福士蒼汰、松本まりかの演技を是非、ご覧あれ。
文=田中諒
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