若葉竜也と伊勢谷友介が関係性の変化を表現!復讐の新たな形を見せる映画「ペナルティループ」
2024.10.2(水)
映画「ペナルティループ」は不思議な魅力にあふれた映画となっている。
同作品は荒木伸二監督がメガホンをとったオリジナル脚本のタイムループサスペンス。主人公の岩森淳(若葉竜也)が素性不明の男・溝口(伊勢谷友介)に恋人の唯(山下リオ)を殺されてしまうことから物語はスタートする。
岩森は綿密な計画を立てて復讐を実行するが、翌朝目覚めると周囲の様子は昨日と全く同じで、殺したはずの溝口も生きているという"ループ"に巻き込まれるというストーリーだ。
繰り返しに巻き込まれるループ作品は数多いが、そのループが恋人を助けるためではなく、加害者に制裁を与えるためのものとなっている設定はある種斬新だ。また、主人公がループから抜け出せず苦しむというのは多くの作品と重なるかもしれないが、ラストの種明かしにはあっと言わされる。
その主人公を演じるのが俳優・若葉竜也。映画を中心に活躍してきたが、今年はドラマ「アンメット ある脳外科医の日記」の出演で一気に脚光を浴びるように。愛する人への思い、そして内なる闘志を燃やす仕事への向き合い方を表情には見せない三瓶友治というキャラクターの中で見事に表現してみせた。
「ペナルティループ」でも、前半はほとんど岩森一人のシーンでセリフなどは最小限に抑えられている。最初のループが起きた際にも若葉は目線、置いてある仕事着をゆっくりと触る仕草などで、ループに巻き込まれる様を表す。多くの場合、こういったSF的な事象に直面した登場人物たちは大げさな独り言で状況を説明するが、若葉の場合はそうではない。あくまでも静かに、そして淡々と。確かに一人で家にいる時にループが起きれば、それが一番自然な反応であると納得できる。
岩森が何度も溝口を殺す中、その表情がどんどんと疲弊していく様子が映し出される。ループし続けるストーリーが転調するのが岩森が溝口をボウリングに誘う場面。スコア上には「死刑囚」と「執行人」と表記されながら、2人の間には奇妙な友情関係が生まれ始める。岩森は殺人をやめてループを抜け出そうとするが、それは許されず、自身の意思に反して体が勝手に動き、復讐は実行されてしまうのだった。
だが、ループから逃れられないことがわかると、2人の距離はさらに縮まっていく。凶器が入ったバッグを一緒に確認したり、2人で歩きながら何気ない日常会話をしたり...。極めつけはボートに2人で乗る場面。岩森が死体を沈めるのが重労働だという理由で誘うわけだが、のどかな時間を過ごしながら、殺人へと向かっていくのはどこか可笑しみがある。
もはや岩森の良き理解者となっていた溝口を演じたのが伊勢谷友介。表舞台への復帰作となったわけだが、やはり役者としての魅力は失われていない。髭を生やしてアウトローな雰囲気を漂わせながら、喋ると気さくな人間性をにじませる。笑えば人懐っこささえのぞかせ、見ている間に憎き復讐の相手であることを忘れさせてしまうほどだ。
物語としてキャラクターのバックグラウンドにはフォーカスされない。なぜ恋人は殺されたのか、そして、溝口はなぜ殺人を犯したのかといったことは謎のままだ。あくまでもループというSF要素の中で、岩森と溝口という2人の関係性がどのように変化していくかを描いている。
そんな2人のラストカットも秀逸だ。岩森が最後の復讐へと臨む中、溝口は手を握ってほしいと頼む。岩森がナイフを突き立てる前、溝口が最後に残した言葉に注目だ。どのような解釈をするかは人それぞれだが、「復讐は何ももたらさない」という一般論にアンチテーゼとして新たな答えをもたらしているようにも見える。小さな内面の変化を丁寧に表現できる若葉竜也と伊勢谷友介だからこそ、「ペナルティループ」は成立したと言えるだろう。日本映画専門チャンネルで10月5日(土)にTV初放送される同作品は一見の価値がある映画に仕上がっている。
文=まっつ
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