『チ。―地球の運動について―』津田健次郎&速水奨が声優として大切にしてきた信念 お互いの仕事への向き合い方も語る
2024.10.1(火)
10月5日(土)からTVアニメ『チ。―地球の運動について―』が放送される。第26回手塚治虫文化賞のマンガ大賞など数々の賞を席巻した作家・魚豊による本作は、地動説を証明することに自らの信念と命を懸けた者たちの物語だ。
舞台は15世紀のヨーロッパ某国。飛び級で大学への進学を認められた神童・ラファウは、周囲の期待に応え、当時最も重要とされていた神学を専攻すると宣言する。しかし、以前から熱心に打ち込んでいる天文への情熱は捨てられずにいた。ある日、フベルトという謎めいた学者と出会いから、宇宙に関する衝撃的な「ある仮説」と出会うーー。
本作の魅力は奥深いストーリーはもちろん、魅力的で個性豊かなキャラクターにある。今回は異端審査官ノヴァク役を演じる津田健次郎と謎の学者フベルト役を演じる速水奨に話を聞いた。彼らは主義主張の異なるキャラクターをどのように演じ、向き合ったのだろうか。
――本作は地動説という真理の証明に命を懸ける人間たちを描いた物語ですが、お2人は作品を通してどんなテーマを感じましたか?
津田「明確に何かこれをというよりも、考える余白がとてもある作品だと思いました。真実に命をかけていく人間の美しさみたいなものが存分に溢れている作品で、読み進めていくたびに惹き込まれていきましたね」
速水「タイトルの『チ。』には様々な意味が込められているんですよ。まずは地球の"地"と血液の"血"、知識の"知"とか、いろんな血が出てきて、世の中ってチという言葉で成り立ってるのかもしれないと思ってしまうくらい衝撃を受けました」
――それを一言で表してしまうタイトルはすごく秀逸ですよね。
津田「素晴らしいタイトルだと思っています」
速水「昔、萩尾望都さんの作品で『ウは宇宙船のウ』という漫画があったんですよ。今回はそれがすべて『チ。』に詰まっていたので驚きましたね」
――津田さんは原作のファンだったそうですね。
津田「そうなんです。どのタイミングで知ったのかは忘れてしまったんですけど、タイトルを見て面白そうだなと思ってたまたま手に取ったんだと思います。大好きな作品のアニメに出演させていただけるとは思っていなかったので嬉しかったですね」
――お2人が演じられているノヴァクとフベルトは作中でも鍵を握るキャラクターですが、それぞれどのような印象を持たれましたか?
速水「フベルトはまず苛烈だなと感じました。こういう言い方をすると問題があるかもしれないのですが、やっぱり命よりも大事なものってあるんだなという、ひとつの答えがフベルトにはあって、その熱量には感銘を受けましたね」
津田「ノヴァクは一言では表せない複雑な役なんですけど、非常に残虐性の高い要素を持っていて、職務に忠実で、でもその反面とても家庭的で子煩悩なキャラクターです。一見狂っているようにも見えるんですけど、この世界で狂っているのはノヴァクではないんですよ。あくまでもノヴァクは非真っ当なことをただしているだけ。現代から見るとすごく激しいけれど、今の日本の警察官が罪者を逮捕しているのとなんら変わらないぐらい普通のことをしているんですよね。ラファウ側から見ると、非常に強靭に見えるけれど、実は強靭ではないという非常に複雑な立ち位置にいるキャラクターです」
――第1話の冒頭でじわじわと追い詰める津田さんの演技は恐怖もありつつ、すごく引き込まれました。
津田「ありがとうございます」
速水「冒頭のノヴァクさんが爪を剥がすシーンは強烈でしたね。津田くんはもうテストの段階からある一線を超えていて、テレビでオンエアしていいのかなって思った(笑)」
津田「さすがに音響監督と監督さんから言われましたね(笑)。ノヴァクはこの先、年齢を重ねるので、最初はあんまり圧が強くない方がいいということで、少し軽めに演じました」
――ディレクション前の演技が気になりますね。
速水「いやもう世に出せないと思いますよ。5億人ぐらい殺してる感じで......」
津田「そんなことないですよ(笑)」
――津田さんの中でノヴァクのイメージを固めて言った結果、強烈な演技が出てきたと。
津田「そうですね。拷問して自白させるのが基本的に職業なので、自白させるような圧力とか恐怖感みたいなものは必要かなと思っていたんです。でも、それがちょっといきすぎたんでしょうね。第1話で力が入っちゃった感じです」
――ちなみに、今回アフレコは一緒に撮れたんでしょうか?
速水「できました。すごく久しぶりじゃなかった?」
津田「久しぶりでしたね。コロナ禍が終わってすぐでした。速水さんとご一緒できて本当に嬉しかったです
――アフレコ現場はどのような雰囲気でしたか?
津田「粛々としてましたよね(笑)」
速水「そうですね。第1話の前半にみんなが出てきて、後半はフベルトとラファウの話だったので、そういった意味ではふわっと出てきて、ヒュっと収束していく感じがあって。ずっと静かに進んだ感じですね」
――本作では考え方の異なる役を演じられていますが、改めて共演されてお互いの役に向かう姿勢についてはどのような感覚を持っていますか?
速水「やっぱり没入感ですね。空気を変えるというか。タイプとしてバランスと没入と両方いるんですけれど、津田くんは没入する方だなっていうのはすごく感じましたね」
津田「速水さんが持ってらっしゃる深い音といいますか、誰が聞いても速水さんだと分かる個性が素晴らしいなと感じました。今回はフベルトという男の突き抜けている強さみたいなものが速水さんの声に表れていましたよね。別に声を張るわけでもなく、ただ粛々と言葉をラファウに投げかけていくだけなんですけど、その強さみたいなものが冒頭にふさわしいなと思いました」
――本作ではラファウを筆頭に絶対に曲げられない信念が描かれていますが、お2人が大切にされている信念や信条はありますか?
速水「津田くんも出てる『フォールガイ』という映画を最近観てきたんですけど、観ていて思ったことがあって。僕の若い頃って他者を拒絶することを割としてきた記憶があるんです。というのは、人の演技をよく思うって相手に負けた気がしていて。でも、ある時から誰かの演技に感動すること悪いことじゃないんだと捉えられるようになってからすごく楽になったんです。だから、津田くんの演技も素直に受け止められるようになって、今ではファンみたいに見ています(笑)」
津田「あははは。僕が出会った頃は穏やかで優しい奨さんで良かったです(笑)」
速水「怖いわけないわ! 尖ってた時期は若い頃だったので。でも年齢を重ねるごとに感覚が鈍るんですよね。ふわっと人生が終わっていくのかと思うと抗いたくなるんですよ。であればもっと感じて、もっと感動した方が楽しいんじゃないかなって今は思えるようになりました」
津田「僕の若い頃は勢いで生きていた部分がありました。視野も狭いですし、受け取る量も微々たるものですし、勢いと元気で突っ走ってたところがあるんですけど、最近は丁寧に1個1個の仕事に向き合わなければいけないなとか、人と丁寧に対峙しなきゃいけないなと思うようになりました。それは別にポジティブなものだけではなく、ネガティブなものも世の中には溢れているので、そこも避けることなく、しっかりと清濁併せ呑む。でも停止することなく、という感じですね」
取材・文=川崎龍也 撮影=MISUMI
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