ホラー初挑戦の古川琴音が、映画「みなに幸あれ」で見せた半狂乱の演技
2024.9.4(水)
目黒蓮主演のドラマ「海のはじまり」で主人公に何も告げずにシングルマザーになることを選び、他界した元カノを演じている古川琴音。回想シーンが多く盛り込まれているので、今の彼女を演じている有村架純とダブルヒロインのようなポジションと言ってもいいだろう。
「言えない秘密」や「Cloud クラウド」など映画やドラマにオファーがたえない注目の女優だが、そんな古川が初めてホラーに挑戦したのが2024年1月に公開された「みなに幸あれ」だ。「日本ホラー映画大賞」で大賞を受賞した短編作を長編化した本作の総合プロデュースは「呪怨」、「恐怖の村」シリーズを手がけた清水崇。短編を手がけた下津優太がメガホンをとった。"ニュージャンルホラー"、"社会派ホラー"とも評される本作は、古川演じる名前のないヒロイン"孫"が、祖父母の住む村で得体の知れない戦慄体験に見舞われ、精神的にも肉体的にもどんどん追い込まれていくストーリー。「誰かの不幸の上に、誰かの幸せは成り立っている」というテーマを孕んでいて、公開後に様々な考察が生まれた。少女のようなあどけなさを残している古川の存在感がホラー感を加速させ、恐怖に歪む表情、狂気スレスレの演技に絶賛の声が集まった。
■祖父母の家に"何かがいる"という根源的な恐怖が現実に?
古川が演じているのは看護士志望の心優しい女性。少女時代から過ごしていた祖父母の家に家族より一足先に向かった彼女は2階から時折、聞こえてくる物音を不審に思い、挙動不審な祖父母の様子にも違和感を覚える。
祖母に「今は幸せ?」と問いかけられ、久しぶりに再会した幼なじみ(松大航也)も幸せという言葉を口にする中、ついに主人公は隠されていた禁断の秘密を見てしまう。幼なじみに相談を持ちかけ、二人で計画を実行に移すものの、待ち受けていたものはさらに衝撃的な展開。
ヒロインのみならず、視聴者を底知れない不安に陥れるのは、事件が起こっているにも関わらず何事もなかったように会話し、対応する自分の家族や村人たちだ。あまりの事態に半狂乱になる彼女をなだめ、現実を受け入れろという人々。流れる不穏な音楽、閉塞した村の空気。これは悪夢なのか、現実なのか。予告のグロテスクな場面が話題を呼んだが、心理的にも怖い作品だ。
■古川の迫真の演技から目が離せなくなる後半の展開
家族たちの様子に「狂ってる!」と反撃するものの、誰も共鳴してくれる者はなく、精神のバランスを崩していくヒロインは祖父母の家にあった1枚の写真を頼りに行方がわからなくなったと言われている叔母を山の中へ探しに行く。たどり着いた山小屋に住んでいる女性が語るのは幸せについての価値観と未来の世界を予言するような内容。そこで再び起きる惨劇に絶叫し、腰が抜けたような動きで山小屋に戻り、もう限界だと言わんばかりの声をあげるシーンは、監督のサプライズ的演出だったというが、ホラー初挑戦とは思えないほどの演技力だ。日本の状況に対する社会的メッセージも含まれた本作。主人公を演じるのは、体力を消耗する体験だったとも振り返った古川の演技にゾクゾクさせられる。
文=山本弘子
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