小林薫演じる店主の人柄に惹きつけられる「映画 深夜食堂」、劇場版では高岡早紀、多部未華子も活躍！

2024.7.25(木)

2009年に深夜枠でTVドラマ化されて以来、シリーズ化や、劇場版も2作公開された人気作が、小林薫主演の「深夜食堂」だ。原作は安倍夜郎による漫画で、新宿の路地裏にある小さな食堂「めしや」が舞台。シーズンを重ねるごとに台湾・韓国・中国などを中心に海外でも人気になり、2016年にはNetflixオリジナルシリーズ「深夜食堂 -Tokyo Stories-」が世界190カ国で同時配信。さらに、2019年には「深夜食堂 -Tokyo Stories Season 2-」も配信されるなど、10年の長きにわたって愛されてきた。また、リメイク版が制作されたり、ドイツで賞を受賞したり...と人気はとどまることを知らず、アメリカでも「孤独のグルメ」と並ぶ"飯テロ"の人気作となった。

ドラマの記念すべき第1話のタイトルは「赤いウィンナーと卵焼き」。小林が演じるマスターの店に松重豊がヤクザの竜役として登場。後の「孤独のグルメ」の井之頭五郎役とは180度違う強面の風貌だが、マスターが作ってくれたタコさんウィンナーを美味しそうに食べる姿は印象的だった。「孤独のグルメ」が、見知らぬ街で立ち寄った店での"ひとりメシの快楽を楽しむ"「グルメドキュメンタリードラマ」なら、「深夜食堂」は深夜0時から朝の7時まで営業しているノスタルジックな「めしや」(メニューは「豚汁定食」と「酒」のみだが、頼めば大抵のものはなんでも作ってくれる)を舞台に、ちょっとワケアリな客が集い "小腹も心も満たす"「夜に生きる人々のヒューマンドラマ」と言ってもいいかもしれない。余計なことは滅多に喋らない懐の深いマスターを小林薫が包み込むような存在感で演じている。2015年に公開された「映画 深夜食堂」では、松岡錠司がメガホンをとり、松重などドラマのレギュラー陣のほか、高岡早紀や多部未華子、田中裕子らがゲスト出演。さらに、ドラマとは違う役柄でオダギリジョーも登場する。

■見栄っ張りで恋多き女性・たまこ（高岡早紀）が、年下男子・はじめ（柄本時生）と恋に堕ちる

本作は「ナポリタン」、「とろろご飯」、「カレーライス」の3部から成るオムニバス構成。
物語を繋ぐのは、誰かが「めしや」に置いていった骨壺...。この不可思議な忘れ物と新宿の片隅での物語が、春夏秋冬の風景と共に描かれていく。

パトロンを亡くした川島たまこ(高岡)は、「めしや」に来て酒を飲みながら愚痴をこぼしてばかりいるが、マスター(小林)が出してくれた鉄板焼きナポリタンを食べた途端に思わず笑みがこぼれる。やがて、最近よく「めしや」を訪れるようになった西田はじめ(柄本)とナポリタンがきっかけで急接近することに...。

身勝手な振る舞いから、「めしや」の常連客に引かれるが、そんなたまこの人生を見守るようなマスターの心情が、小林の目線やセリフ回しから滲み出てくるように伝わってくる。

■無銭飲食をしたみちる(多部)とマスターの心温まる触れ合い

公園で顔を洗うような生活をしていたみちるは、ふらりと入った「めしや」でお金を払わずに店を出てきてしまったが、後日マスターに謝りに行く。そのことがきっかけで店を手伝うことに。マスターは、みちるの状況を察して「風呂に行ってきなよ」と小銭を渡したり、「店を自由に使っていい」と住み込み扱いにするなど、押しつけがましくない優しさでみちるを受け入れる。やがてみちるは、自身の生い立ちをマスターに語る。

化粧っ気がなく、苦労してきたことを思わせるみちるを、多部はナチュラルな色気を漂わせながら好演。

そんなみちるを時に庇うのが、オダギリジョーが演じる近所の交番の警察官。ドラマ版では風変わりな青年を演じていたが、映画版でもマスターに「変わってるんだよ」と言われる役どころ。

マスターは人を詮索せず、大事な局面でのみ自分の意見を述べる人柄。だからこそ誰もが心の奥にしまっている悩みを打ち明けたくなる存在。そんな懐の広いマスターになりきった小林の味のある演技も見どころだ。

文＝山本弘子

• 鈴木京香と大沢たかおが冒険的な設定に挑んだ「オンリー・ユー　愛されて」は無償の愛を貫いた純愛物語
• 山田裕貴が赤楚衛二、上白石萌歌らと繰り広げる芝居のケミストリーが深い人間ドラマに昇華していくサバイバルストーリー「ペンディングトレイン―８時２３分、明日　君と」
• 大スター・松田優作と薬師丸ひろ子が共演し、対照的な演技を見せた映画「探偵物語」