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日本でも大人気だった1980年代の伝説フィービー・ケイツの輝きが満載の青春コメディ

2021.11.29(月)

シルヴィア・クリステル特集「もっとクリステル!」で放映される「プライベイトスクール」
シルヴィア・クリステル特集「もっとクリステル!」で放映される「プライベイトスクール」

■私立女子校を舞台に描かれる、美少女クリスの恋と初体験

ときはバブル前。まだまだ垢抜けなかった和製アイドルに満足できなかった男子たちが、海外の若手女優に熱狂するという現象が俄かに沸き起こった。こうした現象の導火線となったのが、「青い珊瑚礁」(1980年)や「エンドレス・ラブ」(1981年)でブレイクし、某やんごとなき方までもがファンだと公言したブルック・シールズと、「ラ・ブーム」(1980年)でまさにブームを引き起こし、「フランスの薬師丸ひろ子」の異名を取ったソフィー・マルソーである。しかし真の熱狂をもたらしたのは別の若手女優だった。彼女の名はフィービー・ケイツ。

エキゾチックな美貌で人気を集めたフィービー・ケイツ
エキゾチックな美貌で人気を集めたフィービー・ケイツ

⒞ 1983 Unity Pictures Corporation. All Rights Reserved. ⒞ 1983 Universal Studios. All Rights Reserved.

1963年にニューヨークで生まれたフィービーは、父親がTV業界で活躍していた関係で、早くから芸能スクールで学ぶように。映画にもなった伝説のディスコ「54」で踊っていたところをスカウトされ、「セブンティーン」誌のモデルとして活躍するようになった。そして1982年に「パラダイス」でいきなり主演デビュー。同年には学園コメディ「初体験/リッジモント・ハイ」にも出演した。同作ではショーン・ペンやフォレスト・ウィテカーといった未来の名優たちに混じって早熟な高校生役を好演した彼女は、一躍若きセクシー・アイコンに登りつめた。

明るくて自由奔放な女子高校生たちの姿がまぶしい!
明るくて自由奔放な女子高校生たちの姿がまぶしい!

⒞ 1983 Unity Pictures Corporation. All Rights Reserved. ⒞ 1983 Universal Studios. All Rights Reserved.

「プライベイトスクール」(1983年)は、同作のヒットを受けての主演作だ。「プライベート・レッスン」(1981年)のプロデューサー、ベン・エフレイムとドン・エンライトが製作を手掛け、アンソニー・パーキンス主演の「かわいい毒草」(1968年)などで知られるノエル・ブラックがメガホンをとった本作のストーリーは、カリフォルニアの私立女子校を舞台に、フィービー演じるクリスの恋と初体験を描いたもの。スタッフの多くが「プライベート・レッスン」に関わっていた関係から、同作の主演女優シルヴィア・クリステルが保健の先生役で出演しているのだが、予想を裏切って生徒たちよりオクテという設定が面白い。

「エマニエル夫人」でブレイクしたシルヴィア・クリステルが教師役で出演
「エマニエル夫人」でブレイクしたシルヴィア・クリステルが教師役で出演

⒞ 1983 Unity Pictures Corporation. All Rights Reserved ⒞ 1983 Universal Studios. All Rights Reserved.

また本作はふたりの俳優の出世作にもなった。ひとりはフィービーの相手役ジムを演じるマシュー・モディーン。本作の後に主演作「ビジョン・クエスト/青春の賭け」(1985年)が大ヒットした彼は、現在もNetflix のドラマシリーズ「ストレンジャー・シングス 未知の世界」(2016年~)で博士役を好演するなど、コンスタントに活動中だ。もうひとりはジムに横恋慕するクラスメート、ジョーダンに扮したベッツィ・ラッセル。なんと「ソウ」シリーズの殺人鬼ジグソウの妻ジルを怪演したあの人の若き日の姿を拝めるのだ。

クリスの恋人を、若き日のマシュー・モディーンが好演!
クリスの恋人を、若き日のマシュー・モディーンが好演!

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■「女子高って本当にこうなのか?」男子に妄想を抱かせる夢物語

とはいえ、本作で最も輝いているのはフィービーだろう。他愛がないにもほどがある話が、「私立の女子校って本当にこうなのか?」と男子に際限のない妄想を抱かせる夢物語にまで昇華されているのは、彼女の存在あってのもの。本作および「グレムリン」(1984年)でアイドル女優の頂点に立った彼女は、1984年に「ハーパーズ バザー」誌で最も美しい10人の女性に選ばれた。

しかし日本での人気はそれ以上だったかもしれない。「スクリーン」と「ロードショー」という二大洋画雑誌では常に表紙や付録のポスターを飾り、アニメにもなったまつもと泉のラブコメ漫画「気まぐれオレンジ☆ロード」のヒロイン、鮎川まどかのモデルになった。映画コメンテーターのLiLiCoの芸名は、テレビシリーズ「フィービー・ケイツのレース」(1984年)でフィービーが演じた役名から取られているそうだ。「レース」といえば、後藤久美子が主演したジェットコースタードラマ「もう涙は見せない」(1993年)は事実上、同作の翻案作だった。

規律が乱れまくりの女子高校で、クリスたちは様々な騒動を巻き起こす
規律が乱れまくりの女子高校で、クリスたちは様々な騒動を巻き起こす

⒞ 1983 Unity Pictures Corporation. All Rights Reserved. ⒞ 1983 Universal Studios. All Rights Reserved.

そんなフィービーだったが、実力派俳優ケヴィン・クラインと1989年に電撃結婚。1991年に長男オーウェン・クライン(現在、映画監督として活動)が生まれた後は女優業から徐々にフェードアウトし、長女グレタ(現在はシンガーソングライター、フランキー・コスモスとして活躍)を出産した1994年に主演した「プリンセス・カラブー」を最後に、事実上の引退生活に入ってしまう。現在はアッパー・イーストのアパートと別荘と行き来しながら、所謂「セレブ妻」としての生活をエンジョイしている。

クリスとジムのキュートな恋模様にも注目!
クリスとジムのキュートな恋模様にも注目!

⒞ 1983 Unity Pictures Corporation. All Rights Reserved. ⒞ 1983 Universal Studios. All Rights Reserved.

そんな中、例外的に女優として出演したのが「初体験/リッジモント・ハイ」で共演して以来の大親友ジェニファー・ジェイソン・リーが監督と主演を務めた「アニバーサリーの夜に」(2001年)だった。ここでの彼女は、夫ケヴィンとともに主人公の親友夫妻という、そのままの役で登場。昔と変わらぬキュートな姿がファンの話題を呼んだものの、以降は女優活動を一切行っていない。

そんなわけで、アイドル時代が去ってからも活動を続けたブルック・シールズやソフィー・マルソーとは異なり、1980年代限定の伝説となったフィービー・ケイツ。もう少しいろんな作品に出ていたらとも思うけど、あらためて「プライベイトスクール」を観たら「これでいいんだ」という気持ちになった。なぜなら本作には、彼女が最も輝いていた瞬間が永遠に収められているのだから。

文=長谷川町蔵

長谷川町蔵●ライター&コラムニスト。「映画秘宝」「CDジャーナル」「EYESCREAM」などに連載中。著書に「インナー・シティ・ブルース」(スペースシャワーブックス)、「文化系のためのヒップホップ入門1~3」(アルテスパブリッシング/大和田俊之と共著)、「ヤング・アダルトU.S.A.」(DU BOOKS/山崎まどかと共著)など。人生で最も観た映画は「ブレックファスト・クラブ」。

放送情報【スカパー!】

プライベイトスクール
放送日時:2021年12月9日(木)21:00~、26日(日)19:15~

チャンネル:スターチャンネル2
※放送スケジュールは変更になる場合があります※放送スケジュールは変更になる場合があります