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市村正親と田中圭のバディの演技に引き込まれる力作「伝説の監察医・オニグマの事件簿」

2024.6.30(日)

俳優・市村正親と言えば、劇団四季の看板として活躍し、退団後もミュージカルや舞台、映画、ドラマ、声優など精力的に活動。2011年にはNHK大河ドラマ「江〜姫たちの戦国〜」での明智光秀役も評判となった。そんな市村が初めて2時間ドラマの主役となり、2012年にTBS系で放送された作品が「伝説の監察医・オニグマの事件簿」である。本作は、かつて"伝説の監察医・オニグマ"として活躍していたが、ある事件をきっかけに町医者として生きる道を選んだ破天荒な医師・熊井吾郎(市村)の活躍を描いた異色の犯罪ドラマだ。

共に捜査を進める熊井(市村正親)と春日(田中圭)
共に捜査を進める熊井(市村正親)と春日(田中圭)

捜査を担当しない監察医でありながら、市村演じる熊井が事件の謎を解く探偵役を務め、相棒の役目を果たすのが、田中圭演じる城北署刑事・春日正輝。いわば変則バディものの刑事ドラマという趣向である。物語は、城北警察署の管内で起こった火災現場から遺体が発見される場面から始まる。死んでいたのは、競売物件の空き家に居座っていた占有屋で、過去に2人の人間を殺害し服役したことのあった疋田篤志(遠藤要)だった。城北警察署刑事課の刑事・春日正輝(田中圭)は課長の寺原三郎(渡辺いっけい)に連れられ、熊井診療所の熊井吾郎(市村正親)の元を訪ねる。今でこそ医師らしくない風体に見える熊井だが、昔は"伝説の監察医・オニグマ"と呼ばれる名医だった。そんな熊井に対し、寺原課長は監察医として復帰するように要請する。渋る熊井だったが、寺原は火事で死んだ疋田を解剖する義務があるはずだと食い下がる。いぶかる春日をよそに、熊井は疋田の解剖を引き受けた。

解剖により疋田は頭を殴られた後、火事によって死亡したことが判明。春日と熊井は、死亡する直前に疋田が仲間である軽部(山崎裕太)と訪れた小料理屋で聞き込みをする。そこで、小料理屋のママ・瑤子(床嶋佳子)と板前の水川(おかやまはじめ)から、疋田が軽部と喧嘩をしていたという話を聞いた。さらに、疋田が借りていたトランクルームから、現金200万円以上と財閥の片野坂グループの後継者・片野坂直樹(内浦純一)に関する資料や隠し撮り写真が発見される。そんな中で新たな殺人事件が発生し、熊井は春日と現場に駆けつけるが...。

本作は、ひとクセあるが「探偵役」として有能な熊井の人間的な魅力が感じられ、市村がそんな熊井を見事に好演している。相棒役の春日は、かつて熱意を抱いて刑事になったものの末端の警察官の弱い立場に限界を感じ、安定志向に陥っていた。物語の序盤で、いかにもやる気のなさそうな表情で現場に現れるシーンなど、田中の自然な演技がハマっている。ややクセの強い上司・寺原を演じる渡辺も独特の味のある芝居を見せ、画面を引き締めている。ほかの共演者では、春日の先輩刑事・桜井を演じる矢柴俊博の飄々とした演技や小料理屋のママ・瑤子役の床嶋佳子の艶のある美しさも際立っている。物語の鍵を握る片野坂の妻・あゆみを演じた吉井怜も存在感があった。

脚本を担当したのは深沢正樹。「警視庁・捜査一課長」シリーズなど、刑事ドラマを数多く手がけ、各局の2時間ドラマも多数手がけているだけに、この手のサスペンスの手腕はさすがの一言。本作でも謎を提示しながら登場人物の人間性を絡めたストーリーを巧みに紡ぎ、無駄のない展開で最後まで飽きさせない。

田中圭は、2016年の「おっさんずラブ」(テレビ朝日系)に主演してブレイクした感があるが、本作が地上波で放送された2012年当時の演技も丁寧かつ素直で好感が持てる。本作を通して、当時から優れた俳優であったことが再確認できた。名優・市村の実力は今更言うまでもないが、2時間ドラマへの出演が新鮮で、相変わらず役を自分に近づけて、脚本に書かれた以上の魅力を加味しているという印象だ。本作でもそんな市村の「吸引力」を画面から存分に感じてほしい。

文=渡辺敏樹

放送情報【スカパー!】

伝説の監察医・オニグマの事件簿
放送日時:7月16日(火)12:00~
放送チャンネル:TBSチャンネル1 最新ドラマ・音楽・映画
※放送スケジュールは変更になる場合があります