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心の奥の想いがスクリーンに滲む...河合優実の力量が十二分に味わえる映画初主演作「少女は卒業しない」

2024.6.30(日)

2021年公開の映画「由宇子の天秤」や「サマーフィルムにのって」などで数多くの賞を受賞した新鋭女優・河合優実。今年に入ってからも多くの話題作に出演し、ドラマ「不適切にもほどがある」ではスケバン女子高生を演じ話題になった。また9月公開予定の主演映画「ナミビアの砂漠」が第77回カンヌ国際映画祭・監督週間に出品され国際映画批評家連盟賞を受賞するなど、活躍の舞台も急拡大中だ。

そんな河合の映画初主演作としてチェックしておきたいのが、2023年公開の「少女は卒業しない」だ。直木賞受賞作家・朝井リョウの連作短編小説を原作とし、映画は高校卒業を翌日に控えた4人の女子高生のエピソードが時系列で絡む青春群像劇となっている。

河合優実の初主演映画「少女は卒業しない」
河合優実の初主演映画「少女は卒業しない」

(C) 朝井リョウ/集英社・2023映画「少女は卒業しない」製作委員会

河合が演じるのは料理部部長を務める山城まなみで、同級生の佐藤駿(窪塚愛流)と付き合っている。また、東京への進学するため彼氏と気まずくなっているバスケ部部長・後藤由貴を小野莉奈、中学から一緒の同級生に想いを寄せる軽音部部長・神田杏子を小宮山莉渚、人付き合いが苦手で図書室に通う作田詩織を中井友望が演じる。ここでは河合が演じるまなみについて見ていきたい。

「卒業まであと2日」と書かれた黒板の文字が「あと1日」に書き換えられ、卒業式前日のエピソードが始まる。新しい世界へ飛び出す期待もあってか、教室の生徒たちはみな浮き立っている様子だ。場面は昇降口でまなみが靴を履き替えるシーンに切り替わり、そこへ駿が現れる。

(C) 朝井リョウ/集英社・2023映画「少女は卒業しない」製作委員会

駿は昼休みにまなみと会う約束をして、嬉しそうに去ってゆく。しかし駿を見送るまなみは、なぜか怪訝そうな様子だ。一点をじっと見つめる表情の奥で、言葉にならないさまざまな想いが交錯しているように見える。

卒業式の予行演習の後、心の中にあるものを持て余すように屋上で佇んでいたり、駿との約束で調理室に行った時は、この場所と別れるのが信じられない、といった様子で部屋を見渡したり。まなみのシーンには、どことなく晴れない空気が流れている。まなみの心の深いところにある"何か"が滲み出ている、と言ってもいいだろう。

ではその"何か"とは?まなみが調理室で待っていると駿が来る。まなみの手作り弁当を2人で食べる、言うなれば秘密の会合だ。お弁当を渡したまなみが「喜んでくれるかな?」といった目線で駿を見たり、お互いにからかい合ったり、調理室での時間には初々しくて、温かな空気が流れている。

そんな時間を過ごした後に、駿が言う。「ずっとこのままがいいよな」。ケンカした彼氏とちゃんと話すと決めた由貴も、友人と一緒に自転車を走らせながら「なんでさ、卒業しなきゃいけないのかな」と言う。

友人がいて、彼氏がいて、通い慣れた校舎があった。だが卒業してしまえば、すべてとお別れしなければならない。調理室で幾度となく駿と時間を過ごしたまなみにも、そういった想いはあるだろう。だが、それだけではなかった。

卒業式の当日、ほかの3人と同じく、まなみも自分の想いを果たす。体育館に入場した時の、抑えようとしても溢れる想い。壇上に立ち、感情を抑える姿。まなみの胸にあるものが明らかになる瞬間は、涙なくしては見られない。ラストで答辞を読むまなみの姿も印象的だ。

本作の役作りについて、河合は「積み重ねて積み重ねていかないとできなかった」と語っている。確かに、冒頭からのどこか晴れない空気はまなみの経験をなぞってこそのものだし、ラストのシーンはそれを積み重ねてこその姿だった。

その想いと重みとを十二分に伝える河合の力量はさすがだし、巧みなシナリオ構成も見事というほかない。これからますます活躍するであろう女優・河合優実の演技力が堪能できる作品として、ぜひチェックしていただきたい1本だ。

文=堀慎二郎

放送情報【スカパー!】

少女は卒業しない
放送日時:2024年7月1日(月)10:30~
チャンネル:WOWOW4K
※放送スケジュールは変更になる場合がございます