<岩井勇気の推しアニメ>室町時代に現れたロックバンド!?「犬王」からあふれ出す湯浅政明監督ならではのアニメーション的表現
2023.10.2(月)

様々なアニメ作品に精通しているハライチの岩井勇気さんが、「大人にこそ観てほしいアニメ作品」を紹介するこの企画。今回紹介する「犬王」(2021年)は、「夜は短し歩けよ乙女」(2017年)やTVアニメ「映像研には手を出すな!」などで知られる湯浅政明監督の作品。日本最古の芸能ともいわれる「能楽」をテーマに、室町時代に実在した能楽師・犬王と、琵琶法師の友魚(ともな)の友情を描くストーリーだ。湯浅監督作品のファンであるという岩井さんに、その作風の魅力や本作の面白さ、印象的だったシーンについて聞いた。
■アニメーション的な表現が追求された湯浅政明監督の作家性
初めて「犬王」の予告編を観た際、湯浅政明監督の作品であることがわかった段階で「観よう」と即決しました。湯浅監督の作品は好きで、よくチェックしているんです。「マインド・ゲーム」(2004年)や「きみと、波にのれたら」(2019年)などは特に好きな作品です。
湯浅作品の魅力はなんといってもアニメーションの巧みさ。アニメーションならではの、いい意味での「ウソ」があるというか。例えば、人物が腕を振る動きを描こうとすると、その動作のなかで腕が少し伸びていたりするんですよ。それによって動きがよりダイナミックに見えて、アニメとして魅力的な仕上がりになっています。映像を止めてコマ送りにして見るとそれがよくわかって、いつも感心してしまいます。
キャラクターも、もちろんキャラクターデザインを担当するクリエイターさんによって造形は変わりますが、動きのつけ方が独特で。デッサンとして正しいとかキレイということ以上に、アニメという枠を超えた、一つのアートのような美しさを感じます。
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異形の犬王と盲目の琵琶法師・友魚の友情が描かれる
「犬王」では、能楽のもととなった猿楽の一座で、呪いによって異形の姿で生まれた犬王(声:アヴちゃん)と、壇ノ浦で滅んだ平家の呪いによって盲目となり、故郷を出て琵琶法師となった友魚(声:森山未來)の出会いから京の都で一世を風靡するまでの日々が描かれます。
2人は都のあちこちで平家物語を題材とした「平曲」を披露していきます。友魚の高い演奏技術と犬王の人間離れした美しく軽妙な舞は、室町時代の人々の目にはとても新鮮に映り、噂が噂を呼び、2人は「ポップスター」となり、スターダムを駆け上がっていきます。
犬王の声優を務めたのはロックバンド「女王蜂」のアヴちゃん。歌声はもちろん魅力的だったし、演技にも違和感がなくて。犬王の人間離れした、少し不気味さも感じさせるような雰囲気が、アヴちゃんの声が乗ることですごくよく表現されているなと思いました。
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能楽を湯浅監督ならではの表現で描いていく
■まるでロックバンド!ライブを観ているような感覚が味わえる異色の舞のシーン
「犬王」のなかで、舞のシーンは非常に重要なポイントです。友魚の語りと演奏をバックに犬王が舞い歌う姿は、もはや「琵琶法師の語り」というよりも「ロックバンドのライブ」に近くて、2人の人気が増していくにつれて、照明や舞台装置も導入され、演出もどんどん豪華になっていきます。
重要なシーンで、挿入歌や劇中歌が効果的に使われる作品は多いですが、ここまでしっかりと尺を使って描かれるライブシーンはアニメ作品では珍しいかもしれません。しかも、この舞のシーンこそが湯浅監督のアニメーション表現の魅力が色濃く発揮されているところ!ぜひ、音楽だけでなく映像にも着目してほしいです。
特に物語の後半、人気の絶頂へと上り詰めた犬王たちが将軍の御前で演奏を披露するシーンは、湯浅監督好きなら「やってくれたな」と感じるところ。僕は「カーニバル」と呼んでいるんですが(笑)、色使いがどんどんビビッドになって、人物の描き方もより一層「湯浅節」全開になっていくんですよ。すごく没入感があって、目が離せない。「犬王」で気に入っているシーンの一つです。
もう一つ印象的だったシーンは、物語のラストで、離ればなれになってしまっていた友魚と犬王が再会を果たすシーン。友魚の霊は都を600年もさまよい続け、舞台は現代になっているものの、物語の冒頭で出会った時と同じ会話がなされ、出会った頃と同じ子どもの姿で琵琶を弾く友魚と、それに合わせて踊る異形の犬王。この再会のシーンによって、友魚と犬王の友情はずっと続いていたんだと感じられて「よかった」と素直に思えました。
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路上ライブを敢行するロックバンドのような友魚
「犬王」もそうですが、湯浅監督の作品は、とにかくアニメーションに注目してもらいたいです。人物の動きや色使いの独特さに加え、「犬王」ではテクスチャーを使って貼り絵のように見せている場面もあって、すごく変化に富んでいて。アニメーションの表現にこんなに可能性があるんだ!と感じられて面白いです。
僕としては最近、実写みたいにキレイで細かい画や、みんなが共感できるストーリーで「当てにきている」作品が多すぎるように感じていて。でも、湯浅監督の作品にそういうところは全然ないんです。キラキラしたイケメンや美少女も出てこないし、重厚で考えさせられるストーリー構成というわけでもありません。
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アニメの面白さ、奥深さを再確認させてくれる湯浅作品の世界観
「犬王」は、アニメにしかできない表現にすごく貪欲に向き合っている作品だと思います。近年のアニメが「実写みたいなキレイさ」を目指すなかで、「アニメだからこそ素敵に映る」「実写にはマネできないアニメ」を作ろうとしている姿勢がいいなって。
ある意味では「上級者向け」かもしれませんが、話題作や人気作といった「見やすいアニメ」から一歩踏み出してみることで、さらに深いアニメの面白さに気づけるのでは、と思います。
取材・文=藤堂真衣
岩井勇気●1986年生まれ。幼稚園からの幼なじみである澤部佑とのお笑いコンビ「ハライチ」として活躍。初のエッセイ集「僕の人生には事件が起きない」が17刷り重版中。放送されるアニメ作品はすべてチェックし、テレビ朝日で放送中の「まんが未知」など、漫画やアニメに関する番組でもMCを務める。
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