＜岩井勇気の推しアニメ＞京都アニメーション制作の水泳アニメ「Free!」シリーズ！競泳シーンの美しさだけじゃないドラマの深さを掘り下げる

2022.2.28(月)

様々なアニメ作品に精通しているハライチの岩井勇気さんが、「大人にこそ観てほしいアニメ作品」を紹介するこの企画。第4回は「Free!」シリーズ。京都アニメーション制作の男子競泳をテーマにしたスポーツアニメで、2013年にTVアニメ第1期が放送され、翌年には登場キャラクターたちの過去を描いた劇場版作品「映画 ハイ☆スピード！－Free! Starting Days－」(2015年)が公開。その後もTVアニメ第3期までが放送されると、最終章となる新作「劇場版 Free!-the Final Stroke-」前編&後編(2021～22年)も展開中で、後編の公開が4月22日(金)に控えている。繊細かつダイナミックな水泳シーンを盛り上げる演出に、キャラクターたちのバックグラウンドを掘り下げるドラマ作りなど、「Free!」がなぜファンの心を引きつけるのかを語ってもらった。

■キャラクターの成長を長いスパンで見守ることができる濃密なドラマ

「Free!」はTVアニメ第1期が放送された時からチェックしてきた作品です。当時の京都アニメーションと言えば、「けいおん！」など女性キャラクターが中心の作品が多いイメージだったので、本作のような男同士の友情を描いた作品を作るのは珍しいなと感じていました。

好奇心から見てみると、まずストーリーに引き込まれました。主人公の高校生、遙(声:島﨑信長)は天性の水泳センスがありながら勝負事に無関心で、自由に泳げればいい。自分はフリー(自由形＝主にクロールのことを指す)しか泳がないという天才タイプ。そのライバルとして、小学生時代からの幼なじみで友人の凛(声:宮野真守)が登場します。彼は競泳経験者だった父親の遺志を継ぎ、世界の舞台でメダルを獲りたいという「勝負の世界」を目指す熱いキャラクターです。対極的な2人ですが、小学生の頃には同じスイミングクラブに所属し、メドレーリレーを泳いだチームメイトでもあります。

中学校へ進学すると、凛はオーストラリアへ水泳留学し、遙は一度入部した水泳部を辞めてしまい、2人の道は完全に分かれています。そんな2人が高校2年生の春に、凛の帰国によって再会。競技者として上を目指し続ける凛と、ただ水の中で泳げるだけで満足の遙がどんなふうに関わっていくのか...。ストーリーがどう展開していくのかが気になって、毎週チェックしていました。

ストーリーでは、スポーツを通してお互いを理解し合う「スポ根」要素があるのもおもしろいですね。遙と凛がその代表例ですが、遙にその意志がなくても、彼にライバル心を持ったキャラクターが現れ、両者の勝負が物語の重要なキーとして置かれています。ただ、主人公が強いライバルたちにどんどん勝っていく、というような王道の少年漫画チックな展開ではなく、勝った方にも負けた方にもそれぞれのドラマがあって、「この結果になってよかったな」と思えるところに落ち着くことに好感が持てました。

「Free!」シリーズは、どこかドキュメンタリー作品を見ているような気持ちにもさせてくれます。第1期では遙と凛、それぞれが所属する水泳部同士の勝負がベースの物語が描かれますが、第2期終了後に公開された「映画 ハイ☆スピード！－Free! Starting Days－」では、遙たちの中学時代が描かれ、彼らがどんな中学時代を過ごしたのかを知ることができるんです。

地元の中学に入学し、水泳部に入った遙は、そこで新たなリレーのチームを組むことになります。メンバーそれぞれが悩みや葛藤を抱えており、それらに向き合い、乗り越えようとします。

中学時代の遙は才能の片鱗はあっても、まだ一人の水泳少年でしかない。ただ、この作品で描かれる出来事を経たからこそ、TVアニメでの成長した遙がいるのだと思うと、それってすごく感慨深いですし、おもしろいですよね。キャラクターの成長を長いスパンで追いかけ、その将来を見守る気持ちになれるのがこのシリーズの良さでもあります。

そして、大学進学後の遙たちを描くTVアニメ第3期では、高校時代の物語と中学時代の物語が交わり、人間関係もさらに複雑になっていきます。遙の中学時代のチームメイト、郁弥(声:内山昂輝)がめちゃくちゃ強くなって現れるなど、『映画 ハイ☆スピード！』のキャラクターも成長した姿で再登場するので、どんどんドラマが動いていきます。

本格的に競技者としての道を進み始めた遙の前に、まず立ちはだかるのがこの郁弥で、ライバルキャラではあるのですが、中学時代の彼のことを知っているからこそ、敵だとは思えないんですよね。主人公以外でも、それだけ魅力的な「中学時代」が描かれていることに驚かされます。

■時に勝ち、時に負け...挫折や苦悩を乗り越えていく姿に共感！

水泳の試合シーンはさすが京アニという感じです。それから演出面では、緩急のつけ方が絶妙で毎回ドキドキしてしまいます。泳いでいるシーンを長めに描いて引っ張って、ラストのゴールの瞬間は勢いよく迫力のある絵で終わる。ストーリーの展開的になんとなくどちらが勝つのか予想はできていながらも、「どっちが勝つんだろう」とハラハラさせられてしまいます。

スポーツを題材にした作品は試合や練習、勝ったり負けたりという部分がメインに描かれますが、「Free!」は日常パートや各キャラクターのバックグラウンドを見られるところも多く、水泳と関係ないシーンからもキャラクターをいろいろな角度から掘り下げてくれます。

劇中に遙の中学時代の同級生、貴澄(声:鈴木千尋)というキャラクターが登場しますが、別の高校へ進学したものの偶然の再会を経てストーリーに関わってきます。彼は全く水泳に関心がなくて、中学時代からバスケ一筋。でも、だからこそ第三者的に遙たちを見ていて、ヒントになるような言葉をくれたり、場の空気を変えてくれたりします。チャラい雰囲気だけど明るさや素直さがあって、僕はああいうキャラに惹かれてしまいます。

それから、どのキャラクターもいわゆる「スター選手」ではなく、何度も負けたり、心を折られたりするような出来事にも遭遇します。大人になると、勝ち続ける物語に「フィクションだもんな」と冷めた気持ちで見てしまうこともあるのですが、「Free!」のキャラクターにはそういうチートっぽい強さがありません。

主人公が最初から無双し続ける作品も楽しいですが、誰もが共感できる挫折や苦悩を乗り越えていくリアルさが描かれているからこそ、「Free!」を多くの人に見てもらえたらと思います。

取材・文＝藤堂真衣

岩井勇気●1986年生まれ。幼稚園からの幼なじみである澤部佑とのお笑いコンビ「ハライチ」として活躍。初のエッセイ集「僕の人生には事件が起きない」が17刷り重版中。放送されるアニメ作品はすべてチェックし、テレビ朝日で放送中の「まんが未知」など、漫画やアニメに関する番組でもMCを務める。

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