<宇垣美里のときめくシネマ>「RRR」「チャトラパティ」「あなたがいてこそ」 次々繰り出されるハイカロリーな映像に心がたぎる
2024.6.6(木)

■ここがピークか?としか思えないハイカロリーな見せ場が毎秒続く
インド映画は万病に効く。いや、それはさすがに言いすぎかもしれない。骨折やねんざといった物理的なものはすぐさま病院に行くに越したことはないからね。おそらくガンや肺炎も治らなかろう。しかし「う~ん、病院に行くほどじゃないけどなんだか調子が悪いなあ~。というかこれから体調を崩しそうな予感がする」なんて季節の変わり目、風邪の引き始めや、「何をする気も起きない。何者かにやる気を奪われ続けている」といった5月病真っ只中な時、さらには「私はもうダメダメです。道端の石ころほどの価値すらありません。世界中にごめんなさい」という失敗続きで自尊心がゴマ粒くらいになっている時こそ、最後の力を振り絞ってテレビの電源を入れ、なんらかの方法でインド映画にアクセスしてほしい。私調べではあるが、観たらだいたい元気が出るから!!!

(C) 2021 DVV ENTERTAINMENTS LLP.ALL RIGHTS RESERVED.
その筆頭にして最愛の映画は「RRR」(2022年)。インド映画史上最高の製作費7200万ドル(約97億円)を投じて作られたこの作品は、日本でも熱狂的なファンを生み出した「バーフバリ」二部作の監督であるS・S・ラージャマウリの最新作。日本でも異例のロングヒットを記録し、宝塚歌劇団で舞台化もされた。
1920年代、イギリス植民地時代のインド。横暴なイギリス人総督夫妻に連れ去られた村の娘を助け出すためにデリーにやってきた田舎の青年ビーム(N・T・ラーマ・ラオ・Jr.)は、ある目的のために警察官となりイギリス政府の手先となって働くラーマ(ラーム・チャラン)と出会い、兄弟と呼び合うほどの親友となる。しかし、ある事件をきっかけにそれぞれの立場の違いが発覚し、2人は友情か使命か、究極の選択を迫られることになる。
水と火、それぞれの概念を背負った2人の濃厚な感情のやり取りとド派手な喧嘩シーンの映像は、まるで神話かと見まがうほど。ここがピークか?としか思えないハイカロリーな見せ場が毎秒続き、もはや3時間の上映時間が短くすら感じられる。なんの無駄もない構成はどこをとってもイチオシだ。驚き、興奮し、泣いて、うっとりして、いいぞもっとやれと心がたぎったらあっという間にエンディング。あの怒涛のエンタメをしっかり3時間浴びてしまえば、脳は必然的に活性化され、ポジティブにならざるを得ない。

お互いの素性を知らないまま親友となったビームとラーマ。しかし、2人の友情を揺るがす事件が発生する(『RRR』)
劇中最も印象的なセリフといえば「『ナートゥ』はご存じか?」だろう。このセリフをきっかけに始まるインド式ダンス「ナートゥ」でのダンスバトルシーンは何度見ても思わず一緒に踊りだしたくなるほどパワフルで、何かに気持ちで負けてしまいそうな時だって、見たら「よし、ダンスバトルでぼっこぼこにしてやるか!」と立ち上がる勇気をもらえる。このシーンの劇中歌である「ナートゥ・ナートゥ」は、第95回アカデミー賞でインド映画初の歌曲賞にも選ばれた。
エンディングには、歴代のインド独立への道のりに実在した活動家たちと共にS・S・ラージャマウリ監督ご本人も登場。映画の圧倒的なクオリティと力強いメッセージを受け取った後だから、「この世界を作り上げた......創造神!」というような気持ちで思わず拝みそうになった。
■明日への希望が持てること間違いなし

ラージャマウリ監督の出世作は「バーフバリ」(2017年)だけれど、その主演であるプラバースとは、実はその初期に違う作品でタッグを組んでいる。その名も「チャトラパティ」(2005年)。
スリランカ沿岸部にあるテルグ人漁民の村で、母から平等に愛されて育つ兄弟。しかし異母兄弟のため、弟のアショク(シャフィー)は自分だけの母親であると兄のシヴァージ(プラバース)への憎しみを募らせていた。そんななか、彼らの住まう村は敵対勢力により襲撃を受け、シヴァージは母と弟と生き別れてしまう。やがてたどり着いたインドの港町で他の難民たちと共に強制労働を強いられながらたくましい青年へと育ったシヴァージは、搾取から人々を救うため、町を牛耳る悪党を倒し、民の王を意味する「チャトラパティ」と呼ばれるようになる。そこへ生き別れたはずのアショクが訪れ、消えぬ憎しみをもとにシヴァージを追い詰めていく。

運命に選ばれたヒーローの神話のような誕生譚はラージャマウリ監督の真骨頂。冒頭からサメと戦うシヴァージに目を奪われること間違いなし。サメ...?シヴァージの二の腕はほぼ顔と同じサイズで、あまりの強さに思わず笑ってしまうほど。シヴァージが多くを語らない寡黙な男である一方、気のいい周りの友人たちやなんとなく間抜けでおとぼけなヒロイン、さらには物語に脈絡なく登場する勘違い男のコメディトラックなどで存外笑える味付けとなっている。家族愛に、長い手足から繰り出されるド派手なアクション、セクシーな魅力にあふれるダンスシーンと見どころ満載で味わい深い一作だ。粗削りながらその壮大さに、鑑賞後は自分の悩みがなんだかちっぽけなものに見えて元気が湧いてくるはず。う~ん、まあ上司はアショクほど陰険じゃないし、お母さんも家におるしちゃんと話聞いてくれるしええか!みたいな。

そんなラージャマウリ監督が最もお気に入りの作品の一つとして挙げているのが、こちらも初期の作品である「あなたがいてこそ」(2010年)。これまで紹介したものとは打って変わって全力コメディな一作だ。
家族間の抗争で父を失い、故郷を離れたラーム(スニール)。しかし、幼い彼を連れて逃げた母はラームにそのことを話さずに亡くなった。愛用の古自転車で荷物配達の仕事をしているラームだったが、その効率の悪さから仕事をクビに。途方に暮れていたところ、広大な土地を相続していたことがわかり、故郷に戻る。列車の中でアパルナ(サローニ・アスワーニー)という女性と意気投合したラームは、相続した土地を売るために訪れた村の有力者であるラミニドゥ(ナジニードゥ)の家で彼女と再会。アパルナが父を殺したラミニドゥの娘であることがわかるが、ラミニドゥにもラームが仇の息子であることがばれてしまう。果たしてラームは生きて帰ることができるのか...?

ラーマやビーム、シヴァージとは異なり普通の青年であるラームのアクションは控えめ。しかし次から次へと襲いかかる命の危険を機転で切り抜けるその姿がどうしたってコミカルで笑ってしまう。絶対に死にたくないから家から出たくない男VS家を汚さずに殺したいのでさっさと家から出したい男たちという先の読めない展開と、強面なアパルナの兄たちの残忍な様子にハラハラドキドキ。自転車がしゃべる!という斬新な設定がちゃんと生かされているのもさすが。どんなに追い詰められていても、まあラームほどではないからね、と明日への希望が持てること間違いなし。自転車のこと、大事にしたくなっちゃうかも。
破壊力抜群のアクション、華やかなダンスシーンと壮大なストーリーはインド映画の魅力そのもの。そのなかでもS・S・ラージャマウリ監督の作品は、完成度はもちろんのこと、エンディングまで楽しめるところもおすすめポイント。NG集では様々なシーンを自分でやって見せる監督の姿を見ることができ、この姿勢こそが大人気の理由なんだろうなあと、監督ご本人のファンになった。そのあふれるばかりのパッションを浴びてパワーチャージすれば、日本の夏も労働も円安もきっと乗り越えられる、はず!
文=宇垣美里
宇垣美里●1991年生まれ 兵庫県出身。2019年3月にTBSを退社、4月よりオスカープロモーションに所属。現在はフリーアナウンサー・俳優として幅広く活躍中。6/7(金)~9(日)TOKYO FMホールにてAOI Pro.コント公演『混頓vol.3』に出演。
放送情報【スカパー!】
あなたがいてこそ
放送日時:2024年6月8日(土)13:15~、27日(木)10:40~
RRR
放送日時:2024年6月8日(土)21:00~、24日(月)9:40~
チャトラパティ
放送日時:2024年6月9日(日)0:15~、21日(金)0:00~
(吹)RRR
放送日時:2024年6月14日(金)21:00~
チャンネル:スターチャンネル
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