<岩井勇気の推しアニメ>おもしろくもあり、面倒くさくもある社会の縮図に共感! リアルな視点で捉えた吹奏楽アニメ「響け!ユーフォニアム」
2024.6.6(木)

様々なアニメ作品に精通しているハライチの岩井勇気さんが「大人にこそ観てほしいアニメ作品」を紹介するこの企画。第10回は、現在NHK EテレにてTVアニメ第3期が放送中の「響け!ユーフォニアム」から、2023年に劇場公開された中編映画「特別編 響け!ユーフォニアム~アンサンブルコンテスト~」を紹介。本作は「劇場版 響け!ユーフォニアム~誓いのフィナーレ~」(2019年)の後日談であり、TVアニメ3期の前日譚。3人以上8人以下の少人数編成による演奏を競う大会「アンサンブルコンテスト」へ向け、北宇治高校吹奏楽部の新部長となった主人公・黄前久美子(声:黒沢ともよ)が奮闘する。そんな久美子をお気に入りのキャラクターに挙げた岩井さんは、「社会の縮図を見ているよう」とシリーズの見どころを評する。久美子に惹かれた理由を軸に、本作の魅力を掘り下げてもらった。
■主人公らしくないところが魅力の黄前久美子
「響け!ユーフォ二アム」はTVアニメ第1期放送のタイミングからほぼリアルタイムで観てきました。京都アニメーションが手掛けている作品ということもあり、アニメーションの美しさはもちろん、劇中で描かれる人間関係がとにかくおもしろいんです。
個性的な北宇治高校吹奏楽部の面々が数多く登場するなか、すごく好きなのが主人公の久美子です。最初は「主人公なのに何を考えているかわからない。掴みどころがない。ミステリアスな人」と思っていたんです。だけど、北宇治高校吹奏楽部に入部していろんな人たちと関わることで、久美子の輪郭がハッキリしていくんですよ。そこまで主張がなく、すごくぼんやりと吹奏楽をしていて、大会で優勝しようが(関西大会、全国大会への)出場権を逃そうがわりとどうでもいいと思っている。
だからなのか、関わるキャラクターによって、久美子の見え方が違っているように感じて。例えば、同級生で親友の高坂麗奈(声:安済知佳)と一緒にいる時はかなり素の感情が出るけど、先輩や後輩といる時は掴みどころがないとか。すごく多角的なキャラクターなので、追っていくと「こういう主人公もいいな...」と思うわけです。
特に「特別編 響け!ユーフォニアム~アンサンブルコンテスト~」は、全編通して久美子の成長物語だと感じます。(入部以前は)部活動で何か問題が起こっても我関せずなタイプだった久美子があれよあれよと部長になり、あまり関わってこなかった同級生や後輩たちにも接し、フォローしていかなければならない状況に。自ら関わろうとしなくても、他人事じゃなくなっていくんですよ。部長としての自覚というよりは、この経験から「自分は全体を引いて見て、サポートに回るタイプなんだ」という自覚が芽生えているように思えるんですよね。

新部長に就任した久美子は「アンサンブルコンテスト」に向けて部員のフォローに回る
■久美子を軸に「アンサンブル」が調整されていく吹奏楽部の人間模様
そのため、久美子は部活メンバー全体での「アンサンブル」を見ている感じもしていて。部活動という小さな組織の人間関係を考えて、チーム分けしていくというのは、ある種の会社みたいなものだなと。大人になって企業で働くと、チーフを任されて、人間関係の面倒を見なければならないことってあるじゃないですか。そうなると、自分が苦手だと思っている人とも付き合っていかなければいけない。大人社会に出る前に部活という小さなコミュニティの中で、企業・組織と同じような人間関係を体験している。まるで社会の縮図を見ているようです。
しかも、久美子は自分が「組みたい」と思っていた麗奈とアンサンブルを組み、躓いているメンバーと自主練を重ねて頑張るけれど、結局、部内オーディションでは1位を獲ることができなかった。ただのスポコンものなら勝つために実力主義で上手い人だけを集めるけれど、「~アンサンブルコンテスト~」を含め本シリーズは人間関係を優先しているんですよね。
そういう実力と人間関係の狭間で揺れ動く複雑なところ、誰ともチームを組めずに困っていた1年生が(すでに引退した)3年生と組むことになる展開など、妙なリアルさもあっておもしろく感じます。
高校生の青春譚としても魅力的ですが、学生時代に複雑な人間関係を経験してきた人は胸がギューッと締め付けられますし、大人として社会で働きに出ている人は自身の置かれている状況と照らし合わせて見るとかなり共感できるのではないでしょうか。
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ドラムメジャーとして厳しく部員を指導する高坂麗奈
本作は「劇場版 響け!ユーフォニアム~誓いのフィナーレ~」とTVアニメ3期の間のお話ではあるものの、冒頭にこれまでの簡単な説明がされるので、「~アンサンブルコンテスト~」から観始めてもすんなり入っていけるはずです。TVアニメ3期もかなりおもしろいので、本作をきっかけに全シリーズ観てみてほしいなと思います。
取材・文=阿部裕華
岩井勇気●1986年生まれ。幼稚園からの幼なじみである澤部佑とのお笑いコンビ「ハライチ」として活躍。新潮社『僕の人生には事件が起きない』 『どうやら僕の日常生活は間違っている』が累計20万部突破。放送されるアニメ作品はすべてチェックし、毎日放送「岩井 狩野 えびちゅうの推しかるちゃー」やABEMA「SHIBUYA ANIME BASE」など、漫画やアニメに関する番組でもMCを務める。
放送情報【スカパー!】
特別編 響け!ユーフォニアム~アンサンブルコンテスト~
放送日時:2024年6月9日(日)18:00~
チャンネル:WOWOWシネマ
特別編 響け!ユーフォニアム~アンサンブルコンテスト~
放送日時:2024年6月25日(火)12:30~
チャンネル:WOWOWプライム
※放送スケジュールは変更になる場合があります
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