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美空ひばりの「生涯最高のステージ」から見る、歌謡界の女王たる姿

2023.12.26(火)

美空ひばりコンサート「芸能生活35周年記念リサイタル 武道館ライヴ」(衛星劇場)
美空ひばりコンサート「芸能生活35周年記念リサイタル 武道館ライヴ」(衛星劇場)

永遠の歌姫、美空ひばり。敗戦後の暗い日本をその歌声で明るく照らし、人々に元気と活力を沸き立たせた稀代の大スターだ。飛び抜けた歌唱力と存在感で歴史に名を刻んだ不世出の天才歌手で、彼女の歌はいつの時代においても聴く人の心を震わせる。スターがめまぐるしく変わる流行り廃りの激しい歌謡界において、なぜ彼女が「歌謡界の女王」としてトップを走り続けてこられたのか?それはひとえに彼女が常に進化し続けていたからに他ならない。

8歳で初舞台を踏んだ後、天才少女歌手として名を馳せ、11歳でレコードデビューを果たし、2枚目のシングル「悲しき口笛」が大ヒット、当時の史上最高記録を更新する45万枚を売り上げ、国民的な人気を得る。以降、「東京キッド」「リンゴ追分」「お祭りマンボ」など数々のヒット作を世に送り出し、国民的スターの階段を一気に駆け上がった。1954年、17歳で「第5回NHK紅白歌合戦」に初出場し、1957年の第8回から1959年の第10回までと、1963年の第14回から1974年の第23回までの、出場18回の内13回トリを務めた。1970年の第21回では、紅組司会と大トリの兼任を果たした。

デビュー後すぐに国民的な人気を博し、一躍スターの仲間入りを果たすが、その後の芸能人生は決して順風満帆とは言えない。肉親との別れやスキャンダルなど多くの存亡の危機にまみえながらも、不死鳥のごとく甦るたびに携えていたのは歌だった。暗いニュースを吹き飛ばすほどの楽曲を携え、世に有無を言わせない"圧倒的にいいもの"を提供することで、その存在感を維持していたといえる。そこには、奇跡の声と歌唱力という天から与えられたものに加え、古いものにしがみついているのではなく常に新しいものを追い求める探究心と、それに見合うパフォーマンスのためのたゆまぬ努力、現状にあぐらをかかず常に研ぎ続けたチャレンジ精神があればこそだ。

圧巻のパフォーマンスを披露する美空ひばり
圧巻のパフォーマンスを披露する美空ひばり

(C)ひばりプロダクション

1970年代以降、幅広いジャンルの楽曲を自らのスタイルに落とし込んで発表するほか、当時の話題のアーティストやクリエイターとも積極的にコラボレーションすることで、常に新しい"美空ひばり"を披露し続けている。生涯最後のシングルとなった「川の流れのように」を当時30歳の秋元康と組んで制作するなど、年齢や経歴にとらわれずに他者の才能を認めらえる感覚こそ「歌謡界の女王」で在り続けた要因の一つでもあるだろう。

そして、それらの新進気鋭のクリエイターとの競演を繰り返すたびに、歌も進化している。振り返ってみると、伸びやかで耳ざわりの良い歌声はそのままに、こぶしやしゃくり、抑揚といった歌い方が活動時期によって変わっているのだ。同じ曲でも、今その瞬間の時代に合わせた新しい"美空ひばり"で聴かせるからこそ、常に色褪せずに聴衆の心を揺さぶり続けることができたのだろう。

加えて、彼女は歌手でありながら映画会社の"看板"銀幕スターという女優の一面もある。「美空ひばり」と冠すれば大ヒットといわれるほどの人気女優で一時代を築いており、客への"見せ方"にも長じている。

(C)ひばりプロダクション

この"歌唱力"と"見せ方"が掛け合わされることで、力強くありながらも繊細で、圧倒的な世界観で客を虜にする唯一無二のライブが出来上がっているといえる。数あるライブの中でも、1981年に行われた「芸能生活35周年記念リサイタル 武道館ライヴ」はファンの間でも「ひばりの生涯最高のステージ」と称賛されるほどのライブで、円熟したステージングが観られる。しかも、昼夜2回公演50曲、計100曲を歌い上げるという、にわかには信じがたいパフォーマンスを見せており、常人ではないことを痛感させられる。

気力、体力共に最も充実していた時期の貴重なライブで、進化中の「歌謡界の女王」の圧倒的な迫力を感じてみてほしい。

文=原田健

放送情報【スカパー!】

美空ひばりコンサート「芸能生活35周年記念リサイタル 武道館ライヴ」
放送日時:2024年1月4日(木)18:00~
チャンネル:衛星劇場
※放送スケジュールは変更になる場合があります