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柴田恭兵が「あぶない刑事」とは別系統の演技を見せた、TBS新春大型時代劇スペシャル「太閤記」

2023.10.5(木)

TBS大型時代劇スペシャルの第1作として、1987年1月1日に放送されたのが、大型時代劇「太閤記」だ。「太閤様」こと主人公の豊臣秀吉を柴田恭兵が演じ、秀吉を中心とした戦国絵巻を明るいサクセスストーリーとして描き、躍動感にあふれる大作ドラマに仕上がっている。新春スペシャルならではの豪華キャストも話題となったが、本作は秀吉に加えて織田信長(松方弘樹)と明智光秀(千葉真一)の3名に焦点を絞り、各人の生き様を克明に描いた点も特徴だろう。

織田信長(松方弘樹) に仕える豊臣秀吉(柴田恭兵)
織田信長(松方弘樹) に仕える豊臣秀吉(柴田恭兵)

(C)東映

ストーリーとしては、美濃と尾張の国境で激戦が展開するなか、敵の武将から奪った兜を手にした雑兵・木下藤吉郎(柴田恭兵)の姿から幕を開ける。その兜を鉄砲で打ち抜かれるが、それは明智光秀(千葉真一)の仕業だった。怒って光秀に斬りかかる藤吉郎だが、気迫に圧倒されてしまう。そんな折に謎の女・夢御前(松坂慶子)が現れ、「藤吉郎の運命は女性によって開かれる」というお告げを下す。お告げに従って評判の美女を捜し求める藤吉郎。織田信長の妹・お市(安田成美)に一目惚れするが、お供のねね(名取裕子)らに追い払われてしまう。

しかし信長に気に入られ、織田家へ仕官した藤吉郎は、浅野家預かりとなる。この浅野家の娘こそがねねだった。やがて藤吉郎はねねを妻に迎える。その後、浅井長政との戦いでお市と三人の娘を助け出した藤吉郎は、功績を認められて長浜に城を築く。名も羽柴秀吉と改めて城主となった。やがて本能寺の変が起こり、秀吉の命運が激変することとなるのだが...。

(C)東映

本作は東映が製作を手掛けているが、監督は東宝出身の岡本喜八が務めている。実は東映出身の千葉真一は岡本監督の大ファンで、彼の作品を欠かさず見ていたそうだ。本作は、千葉にとって念願だった岡本作品への出演がついに実現した記念すべき一作でもある。岡本もそれを知ってか、千葉演じる光秀の存在感が抜群だ。特に本能寺の場面では、史実と異なる大胆で派手な演出がなされており、必見の場面となっている。

ただ、やはり本作は秀吉を演じる柴田恭兵を抜きには語れない。当時の柴田は、前年に放送開始された「あぶない刑事」(日本テレビ系)の大ヒットで爆発的な人気を誇っていた。スタイリッシュかつ軽妙な演技が評判となっていたが、別方向の秀吉を見事に自分のものにしている。特に物語前半の信長に「サル」と呼ばれながら懸命に仕える場面など、一般的にイメージされる秀吉像にかなり近い印象だ。表情の豊かさも見事で、柴田の演技力の奥深さを如実に示す作品にもなっている。

(C)東映

本作は、テレビドラマでありながら当時の時代劇のスタッフが会社の枠を超えて結集したような一面もあり、東映・東宝・大映で活躍してきた俳優・監督・スタッフが一堂に会した作品になっている。松方にしても東映出身だが、初期は大映の時代劇で活躍したし、ナレーターには当方の大スターであり、岡本作品の常連でも会った仲代達矢を起用するという贅沢さ。徳川家康を本田博太郎が演じているが、彼も岡本監督のお気に入りで、岡本ファミリーの一員だった。時代劇の名バイプレーヤーのひとりだが、本作では家康という大役をいききと演じている。TBSの大型時代劇スペシャルは名作ぞろいだが、本作はその中でもずば抜けて評価が高い。時代考証よりも「物語」としての面白さを優先し、構成にも随所に工夫がされている。岡本作品をはじめ、「幸福の黄色いハンカチ」や黒澤明監督作などで名を馳せた佐藤勝の音楽も素晴らしい。佐藤が奏でる音楽に乗って、役者たちの演技も軽快でテンポが抜群だ。豪華キャストが単なる「顔見せ」にならず。脇役に至るまでそれぞれの個性をしっかり生かしているのは、やはり岡本監督の力量だろう。松坂慶子、名取裕子をはじめ、安田成美、秋吉久美子など女優陣の活かし方も見事である。

そんな痛快時代劇の大作「太閤記」は、当時の昭和時代劇の素晴らしさが堪能できる貴重な一作。NHK大河ドラマ「どうする家康」では、ムロツヨシ演じるクセのある秀吉が話題だが、本作で若き柴田恭兵が演じる秀吉像と見比べてみるのも一興ではないだろうか。

文=渡辺敏樹

放送情報

TBS新春大型時代劇スペシャル「太閤記」
放送日時:10月27日(金)18:00~
放送チャンネル:TBSチャンネル2
※放送スケジュールは変更になる場合があります