月組トップスター・月城かなとが闇の中での輝きを見せた宝塚歌劇「グレート・ギャツビー」
2023.8.30(水)
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宝塚歌劇月組公演「グレート・ギャツビー」は、アメリカの作家フィッツジェラルドの代表作をミュージカル化した舞台だ。「エリザベート」などで知られる小池修一郎が脚本・演出を手がける。1991年に雪組で初演されて好評を博し、2008年に月組でも再演された。原作の世界観にタカラヅカらしさも加味して、見応えのある一本物となっている。
主人公ギャツビーを演じるのは、月組トップスターの月城かなと。かつてフィッツジェラルド自身の生涯を描いた「THE LAST PARTY ~S.Fitzgerald's last day~」(2018年)でも主演している月城だけに、大きな期待が寄せられた配役であった。
月城演じるギャツビーは、真っ直ぐで、潔い。裏社会を生きながらも「麻薬には絶対に手を出さない」といった矜持もある。一途にデイジーに想いを寄せ続ける姿はいじらしくさえある。だが、光は闇の中でこそ強い輝きを放つもの。月城ギャツビーの放つ光は、闇の部分がしっかり構築されているからこその眩しさである。
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-F・スコット・フィッツジェラルド作"The Great Gatsby"より-©宝塚歌劇団 ©宝塚クリエイティブアーツ
ギャツビーの永遠の女性、デイジーを演じるのは、トップ娘役の海乃美月。ギャツビーとの出会いから、2人が引き裂かれていく過程までが描かれているのがタカラヅカ版の特色である。そして、原作ではギャツビーの憧れの象徴に過ぎないデイジーに強い意思が与えられているのも感じられる。
デイジーの夫、トム(鳳月杏)は、血筋と財力とを兼ね備え、日々スポーツで体も鍛えている「全てを持った男」。ギャツビーの嫉妬の対象となるに十分な存在である。ギャツビーの恋敵としてのトムの存在感の大きさも、今回の再演における特筆すべき点のひとつだろう。
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-F・スコット・フィッツジェラルド作"The Great Gatsby"より-©宝塚歌劇団 ©宝塚クリエイティブアーツ
デイジーの親類であり、トムの学友でもあるニック(風間柚乃)。原作では語り手として登場するニックは、読者の側に近い「普通の人」だ。それだけに、観客もいつしかニックに自分を重ね、ニック目線で物語を眺めてしまう。
プロゴルファーのジョーダン(彩みちる)は自立した女性で、デイジーとは好対照。理性で動くジョーダンと情の人ニックが、もう1組のカップルとして物語を彩っている。
マートル(天紫珠李)には、女としての自信がみなぎっており、トムが興味を持つのもわかる。マートルの夫であり、ギャツビーの運命を狂わせる男、ウィルソン(光月るう)は、生気のなさの奥底から狂気が垣間見えるようだ。
ギャツビーの「育ての親」マイヤー・ウルフシェイム(輝月ゆうま)は、酸いも甘いも噛み分ける裏社会の元締めとして存在感を醸し出す。だが、最後の最後にすべてを持っていくのはギャツビーの父、ヘンリー・C・ギャッツ(英真なおき)である。
フィッツジェラルドが描く風景の忠実な再現に、原作への思い入れを感じる。たとえば、ギャツビーが見つめる緑色の灯火、「灰の谷」に掲げられている「ドクター・エクルバーグの眼」の巨大な広告などだ。物語の鍵を握る、黄色と青の2台の車も舞台上にさっそうと登場する。
逆に、原作から膨らませた部分にはタカラヅカらしい見どころがある。たとえば、豪華なレビューシーン。禁酒法時代のもぐり酒場の場面はスーツ姿の男役たちの見せ場である。ギャツビーとトムのゴルフ対決をダンスで見せる趣向も楽しい。
ギャツビーの短い人生には「狂騒の20年代」と呼ばれる特異な時代が生み出す光と闇が凝縮されている。原作の救いのなさ、やるせなさの中に残されたひとかけらの夢と希望。だが、それがタカラヅカの「グレード・ギャツビー」の味わいだ。
文=中本千晶
放送情報
グレート・ギャツビー('22年月組・東京・千秋楽)
放送日時: 2023年9月3日(日)21:00~ほか
チャンネル:TAKARAZUKA SKY STAGE
※放送スケジュールは変更になる場合がございます
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