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林遣都が表現する純朴さと不器用な愛...村川絵梨も体当たりの熱演を見せた官能ドラマ「花芯」

2023.6.23(金)

「花芯」
「花芯」

昨年11月に公開された廣木隆一監督による映画「あちらにいる鬼」。実在した3人の人物をもとに濃密な人間ドラマが描かれた衝撃作で、瀬戸内寂聴をモデルとする主人公を寺島しのぶが演じたことも大きな話題を集めた。2021年に波乱の生涯を閉じた寂聴が再び注目されるきっかけになったが、同じく彼女にまつわる映画が7月3日(月)にWOWOWシネマで放送される「花芯」だ。

本作は、1957年に当時まだ新進作家だった寂聴が"瀬戸内晴美"名義で発表し、その赤裸々な性愛描写が物議を醸すことになった小説を原作にしている。批評家から批判を浴びて長く文壇的沈黙を余儀なくされたが、現在にも通ずる女性の愛欲や性愛の真実を描く普遍性を持った作品として、今なお多くの女性たちから支持されている。そんな鮮烈な恋愛文学を、「海を感じる時」(2014年)で高い評価を得た安藤尋監督が映像化した一作だ。

実力派たちが新境地とも言える姿を披露した「花芯」
実力派たちが新境地とも言える姿を披露した「花芯」

(C)2016「花芯」製作委員会

終戦の翌年、園子は親が決めた許婚・雨宮清彦と結婚する。息子をもうけるも雨宮に愛情を感じられず、空虚な気持ちを抱えながら毎日を過ごしていた。やがて転勤となった雨宮と共に移り住んだ京都で上司の越智泰範と出会い、なぜか心を惹かれてしまう。ある夕飯時、園子は「越智を好きになってしまった」と雨宮に告白。次第に自らの感情を抑えきれなくなり、越智との逢瀬を重ねていく。

禁断の肉欲に溺れていく主人公・園子を村川絵梨が演じた。2005年のNHK連続テレビ小説「風のハルカ」でヒロインという大役を務め、人気を博した村川。爽やかな清純派というイメージも強いが、本作では大胆なヌードや濡れ場もいとわず体当たりで熱演している。

夫を見る冷たい気だるげな姿も妙に艶かしく、初めて恋を知り戸惑い悩みながらも生気を帯びていく表情の変化にも目が離せない。肉体の悦びに目覚め、子宮の命ずるまま生きることを選ぶ園子。越智と結ばれた夜に闇を見つめる瞳が印象的だ。世間や肉体に縛られていた心が解放されたような可笑しさや哀しみが入り混じる。覚悟を決めた女の強さを感じさせた。

「花芯」
「花芯」

(C)2016「花芯」製作委員会

また、彼女を取り巻く男たちを演じる俳優にも実力派が並ぶ。園子の夫・雨宮に林遣都、夫の上司・越智に安藤政信がキャスティングされた。雨宮は園子を幸せにすると躊躇いもなく口にし、結婚するまで純潔を守ってきたという純朴な青年だ。園子からの告白に動揺し、愛憎入り混じる複雑な感情をぶつける。独りよがりで不器用な愛が滑稽で痛々しいが、そんな雨宮の青臭さを林が繊細に表現した。

安藤が演じるのは、園子の想い人で不倫相手となる越智。交わし合う視線で少しずつ惹かれていく様が描かれる。手慣れた余裕ある振る舞いには、独特の色香が漂う。ミステリアスな大人の男を、安藤が違和感なく体現している。静かで激しい恋愛ドラマで、実力派たちが新境地とも言える姿を披露した。

「あちらにいる鬼」
「あちらにいる鬼」

(C)2022「あちらにいる鬼」製作委員会

「あちらにいる鬼」も7月2日(日)にWOWOWシネマで放送されるが、園子の生き様を通して愛と性と生が描かれた「花芯」を見ることで、より瀬戸内寂聴の作家としての理解が深まるはずだ。

文=中川菜都美

放送情報

あちらにいる鬼
放送日時:2023年7月2日(日)22:00~
花芯
放送日時:2023年7月3日(月)0:30~
チャンネル:WOWOWシネマ
※放送スケジュールは変更になる場合があります