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雪組トップスター・彩風咲奈が素朴だが男気を秘めた演技をみせる宝塚歌劇「夢介千両みやげ」

2023.5.4(木)

彩風咲奈
彩風咲奈

2022年に雪組で公演された『夢介千両みやげ』は、とにかく明るく楽しい作品だ。

時は江戸時代。小田原の庄屋の息子である夢介が、親からもらった千両を使って、江戸で道楽修行をするという話である。トラブルに巻き込まれて困っている人を見れば、お金で解決して助けてしまう夢介。千両はどんどん消えていくが、「これも道楽修行、いいものを見せてもらった」と気にも留めない。

朝月希和
朝月希和

原作/山手 樹一郎「夢介千両みやげ」 ©宝塚歌劇団  ©宝塚クリエイティブアーツ

そんな夢介の振る舞いに影響を受け、周囲の人たちも次第に変わっていく。派手に悪人が成敗されるわけではないが、じわりと心温まる物語である。

作・演出は石田昌也。原作は「桃太郎侍」で知られる山手樹一郎が1947年から連載開始した小説だ。文庫版にして厚さ3.5センチある原作をうまくまとめつつ、大詰めは緊迫感のある展開となっている。

主演の彩風咲奈は2021年に雪組トップスターに就任。生粋の雪組育ちらしい実力派男役であり、緻密に作り込んだお芝居や、長い手足を活かしたスタイリッシュなダンスが魅力的だ。最近では2月の御園座「BONNIE & CLYDE」におけるクライド役での好演が話題を呼んだ。
 
その彩風が、およそタカラヅカのトップスターらしからぬ役どころに挑戦する。「牛のようだ」と称される夢介は、常にのんびりマイペースで、江戸に来てからも訛りが抜けない。本当は力持ちなのに、決して暴力は使わない。そして、不思議とモテる。彩風演じる夢介は、外見の素朴さと、内に秘める男気のバランスが絶妙だ。

もとは夢介の懐を狙っていたはずが、その優しさにほだされ押しかけ女房となるのが、トップ娘役・朝月希和が演じるお銀である。名うての女スリとしての顔から、夢介を一途に想う女の顔まで、多彩な表情を見せるお銀は、様々な役でキャリアを重ねてきた朝月にぴったりの役だ。

朝美絢
朝美絢

原作/山手 樹一郎「夢介千両みやげ」 ©宝塚歌劇団  ©宝塚クリエイティブアーツ

伊勢屋の御曹司・総太郎を演じる朝美絢も、どうしようもない放蕩息子役で新境地を見せる。「何せこの顔、この器量。モテて、モテて、しょうがない」と自分で言ってしまう男だが、これを朝美が歌うと妙に説得力がある。そんな彼も、夢介との関わりや、彼に想いを寄せるお松(野々花ひまり)の健気さによって生まれ変わっていく。

この公演より宙組から組み替えしてきた和希そらが演じるのは、スリの三太。背伸びしているが大人になり切れていない少年の、生意気の奥に潜む優しさの表現に男役の熟練を感じさせる。
 
食えない悪党として夢介らに立ちはだかる、一つ目の御前(真那春人)一味も、タカラヅカでは愛嬌たっぷり。手下の1人である悪七には原作にはないエピソードが加味されており、この公演で退団した綾凰華が人情味たっぷりに演じてみせる。そして、原作には登場しないキャラクターである金さん(縣千)の活躍ぶりも、見てのお楽しみだ。

いっぽう、娘手品師の春駒太夫(愛すみれ)、芸者の浜次(妃華ゆきの)、小唄の師匠・お滝(希良々うみ)など、夢介の周りをイイ女たちが取り巻く。芸達者な娘役がそろう雪組ならではの見せ場だ。

軍服でも黒燕尾でもない、三度笠に股旅姿の男役たちが勢ぞろいする幕開きからして、タカラヅカの広い守備範囲を思い知らされる。随所に織り込まれる踊りも、着物の着こなしや所作もこなれており、まさに「日本物の雪組」本領発揮の作品である。

文=中本千晶

放送情報

夢介千両みやげ('22年雪組・東京・千秋楽)
放送日時:2023年5月7日(日)21:00~
放送チャンネル:TAKARAZUKA SKY STAGE
※放送スケジュールは変更になる場合があります