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山田裕貴が脇役で見せる存在感を、清野菜名&松坂桃李のW主演映画「耳をすませば」で再確認

2023.4.11(火)

映画「耳をすませば」に出演する山田裕貴
映画「耳をすませば」に出演する山田裕貴

放送中の大河ドラマ「どうする家康」に出演し、4月からは主演ドラマ「ペンディングトレイン―8時23分、明日 君と」がスタート。さらには人気映画「東京卍リベンジャーズ」の続編や、初となる声優主演作「BLUE GIANT」の公開も控える、俳優・山田裕貴。どんな役にもなりきる"カメレオン俳優"と呼ばれた時期は今や昔となり、比類なき演技力に加え役者としての存在感も年々大きくなっている。そんな山田の役者としての存在感と演技力が感じられる作品が、2022年に公開された映画「耳をすませば」だ。

同作品は、柊あおいの同名漫画を実写化したもの。1995年にアニメーション映画が公開され、今なお色褪せない青春映画の金字塔として歴史に刻まれた名作を、漫画・アニメーションでも描かれた中学生の甘酸っぱい青春時代に、完全オリジナルの10年後の物語を加えて、清野菜名と松坂桃李のW主演で映画化。

(c)柊あおい/集英社 (c)2022『耳をすませば』製作委員会

読書が大好きで元気いっぱいな中学生の女の子・月島雫(安原琉那)は、図書貸出カードでよく見かける天沢聖司(中川翼)のことが気になっていた。あるきっかけで"最悪の出会い"をした2人だが、聖司に大きな夢があることを知った雫は次第に引かれていく。そんなある日、聖司から夢を叶えるためイタリアに渡ると打ち明けられた雫は、それぞれの夢を追いかけ、また必ず会おうと誓い合う。10年後、雫(清野)は児童書の編集者として出版社で働きながら夢を追い続けていたが、思うようにいかずもがいていた。一方、聖司もイタリアで夢を叶えながらももどかしい日々を送っていた...。

山田は、雫の幼なじみで親友の原田夕子(内田理央)の恋人で、雫の幼なじみでもある杉村竜也を演じる。物語は、雫と聖司の恋模様を中学時代と現代を行き来しながら描いていくため、山田の出演シーンは決して多くはない。むしろ野球でいう"ワンポイントリリーフ"のように登場するだけなのだが、その短い時間だからこそ、役者の真価が問われるといっても過言ではない。

(c)柊あおい/集英社 (c)2022『耳をすませば』製作委員会

杉村は、明るくユーモアに富んで、少し鈍感な部分もあるが、いるだけで場を和ませてくれる存在。中学時代に夕子から思いを寄せられるも、当時は雫のことが好きだったという過去を経て、現在は夕子との結婚を控えている。登場シーンは少ないのだが、物語においてとても重要な役割を担っている。というのも、雫は仕事がうまくいかず、制作した作品をコンクールに出しても落選し、「掴めない夢を追い続けていて良いのか」と葛藤している一方で、 結婚を控えて明るい未来に向けて楽しげに生きている夕子と杉村が"対比の存在"として描かれているからだ。仕事や恋に落ち込む雫を慰め、背中を押し、時に無意識に能天気な態度で接するなど、夕子と杉村がより幸せそうに映ることで
雫とのコントラストが強まり、「夢を追い続けることの大変さ」のメッセージ性も強くなる。

そんな重要な役割を、山田は明るく気のいい青年として杉村を演じながら、しっかりとした存在感を出して果たしている。明るく、のん気な雰囲気と、場を和ませる声のトーンやセリフ回し、雫と夕子との会話などを通して、幼なじみらしい積年の深い関係性をも表現。とぼけた発言で夕子に頭を叩かれる場面では、丁々発止のやり取りでコミカルさを作品に注入している。さまざまな役柄を演じている山田だが、「杉村が一番本人のキャラクターに似ているのでは?」と思うほど、"カメレオン俳優"のDNAもしっかりと感じさせてくれることもここで付け加えておきたい。

そんな中で特筆すべきは、"このクオリティを、少ない出演シーンで完璧にこなしていること"だろう。舞台裏まで想像を働かせるのは野暮ではあるが、杉村が登場するシーンは雫の自宅のシーンのみで、同じセットでのシーンは同日に一気に撮影することが通例であるため、杉村の登場シーンを1日で撮影したのであれば、登場人物同士の距離感や関係性などは、役者自身の役作りに任せるしかない。
つまり、山田は、杉村の性格や3人でいる時のポジション、中学時代の雫への気持ち、描かれていない10年間の夕子との関係などを、観る者に想像させる芝居をしなければならないのだ。このバックボーンが想像できないと、説得力のないシーンになってしまうが、山田の演技はその及第点を遥かに超えて、作品における杉村の役割を全うしつつ、役者としての存在感をも感じさせてくれる。

W主演の清野と松坂の切なさともどかしさの中で互いを求め合う様子が繊細に表されるすばらしい演技と共に、脇役でありながら小さくない存在感で小さくない役割を果たしている山田の演技にも注目してみてほしい。

文=原田健

放送情報

耳をすませば(2022)
放送日時:2023年4月23日(日)12:00~
チャンネル:WOWOWシネマ
※放送スケジュールは変更になる場合がございます