内藤剛志の深みある演技と心に刺さる言葉の数々。現代の情報社会の危うさを考えさせられるドラマ「今野敏サスペンス　炎上　 警視庁強行犯係 樋口顕」

2025.4.28(月)

内藤剛志が主演を務める人気シリーズ「警視庁強行犯係 樋口顕」(原作は今野敏の本格ミステリー小説)。スペシャルドラマは20年以上の長きにわたり放映され、その第14弾に当たるのが「今野敏サスペンス　炎上　警視庁強行犯係 樋口顕」(2024年)だ。誠実で人情味あふれる樋口を演じる内藤が捜査するのはSNSの炎上が絡んだ強盗殺人事件。妻の恵子(川上麻衣子)と娘、照美(逢沢りな)との団欒シーンはシリーズおなじみだが、本作では期せずして恵子が事件に巻き込まれてしまう。キャストは佐野史郎、榎木孝明、矢田亜希子など、おなじみのレギュラー陣に加え、強盗殺人の容疑者として渡辺いっけい、被害者と繋がりがあった女性として宇垣美里らが出演している。SNSの拡散、炎上によって見知らぬ誰かの人生が左右されていく現代を背景に、昭和世代の刑事、樋口や少年事件課の警部、氏家(佐野)はどう動いて、事件の真相に近づいていくのか。謎解きはもちろん、喪失感と後悔を抱えた登場人物に接する内藤の演技にも注目だ。

■樋口夫妻のほのぼのデートが事件の電話で一転？

陽射しが降り注ぐ中、樋口はライトブルーのジャケットを着て、妻・恵子を伴って何十年ぶりかの美術館デート。しかし、休日は携帯にかかってきた事件の電話で美術館に行く途中でキャンセルに。私服で現場に直行し、部下の菊池 (佐野岳)に「今日はイケオジじゃないですか」とからかわれながらも、夫の留守中に強盗、絞殺された女性、芽衣の死亡推定時刻を割り出すためにエアコンの修理に来ていた業者に聞き取りを行な う。菊池は警察の発表前に不審な車が被害者宅を出ていく動画が拡散されていることを報告。事件は謎を深めていく。一方、夫に置き去りにされた恵子は友人に電話をしてファミレスで待ち合わせをするものの、運悪く追い詰められた犯人たちが逃げ込んできたため、店にいた客たちとともに人質になってしまう。妻がそんなことになっているとは知らず、盟友、氏家(佐野)から芽衣が元アイドルグループのメンバーだったという情報を得て、捜査を進めていく樋口。やがて刑事のカンで当初から気になっていた若い女性、岩崎可奈子(宇垣)のネイルサロンに芽衣が通っていたことがわかり、2人を結ぶ接点が明らかになっていく。

■家族の危機に再び、直面する樋口の刑事魂と愛あるメッセージ

妻が人質になっていることを知った樋口は管理官の天童(榎木)が止めても「私は刑事ですから」と犯人の要求に従い、丸腰で現場に向かう。ドラマのシーズン１では娘の照美が誘拐事件に巻き込まれたが、本作でも家庭を持つひとりの男性と刑事との狭間で戦うことになる。誘惑に負けた形で強盗に加担し、首謀者とファミレスに立てこもった梶山(渡辺)は心ない動画をアップされたことで事業が倒産、妻や娘と別れることになった過去を持つ男性。可奈子もSNSの炎上により、仲間を失い、後悔と自責の念に苛まれて生きてきた女性だった。娘がいる父親同士だからこその言葉を梶山に投げかけ、可奈子に「話してくれませんか？」と問いかけ、相手の心の鍵をスッと開けてしまう樋口。芽衣を殺害した犯人にたどり着くまでのミステリーと人間ドラマのバランスは本シリーズならでは。厳しさと優しさを併せ持つ刑事を、視線やうなずき方も含めて表現する内藤の深みのある芝居が光る。

文＝山本弘子

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