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萩原利久が明かす俳優業への向き合い方「100点はない」。初共演の河合優実に感じた力とは?

2025.4.24(木)

『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』主演の萩原利久
『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』主演の萩原利久

コント職人として知られるジャルジャル・福徳秀介の恋愛小説『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』が映画化され、4月25日(金)に公開される。

独自の路線へ突き進む、最高純度のラブストーリーには萩原利久や河合優実、伊東蒼など、いま注目の実力派若手俳優たちが揃う。

今回は主演の萩原利久にインタビューを実施。映画内で見せた演技への思いから、自身の考え方までしっかりと話を聞いた。

『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』(左から萩原利久、河合優実)
『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』(左から萩原利久、河合優実)

(C)2025「今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は」製作委員会

――原作となった福徳さんの小説もお読みになっているかと思いますが、最初に読んだときにどのような印象を持たれましたか?

「福徳秀介さんは芸人さんでたくさんのコントをされているので、コメディというかそういうテクニカルなものになっているのかと勝手に思っていました。でも、すごい失礼な言い方ですけど、めっちゃ小説でびっくりしました。しっかりとした人間の物語の中に言葉の使い方やチョイスが芸人さんならではで面白いです。知っている文字と見てきた言葉が、ここに来て初めての出会いになるというのは面白い着眼点だし、言葉の端々に面白さを感じました」

――その作品が映像化され、萩原さんが主演ということでどのような思いを持って撮影に臨みましたか?

「厳密には台本を先に読んでいました。極端なコント作ではないので、そこは変な気負いはしてなかったかもしれないです。振り切った作品で初ジャンルのものだと何か(思いが)あったかもしれないですけど、人の温度を感じられる作品だったので。いつも通りとまではいかないけど、ワンクッションはなかったです。それよりか、小西という役が難しかったです」

――難しかったというと?

「順番に撮影していくわけではないので、現場に行くまでに一本の線を作っておきたくて。現場の中で変わりはするけど、入口と出口くらいは作っておきたい。軸とも言えるかな。でも、小西に関してはどうにも僕の中では作りきれなくて、どれも正解な気がして不正解な気がしていました。その点で普段のやり方とは違っていて難しかったです」

――なるほど。難しい役どころに関してどのように対処されたのでしょうか?

「軸がない代わりにいろんなものを考えていました。パターンというか、何が来ても大丈夫なように間口を広げておく。あとは現場でキャッチしていく。小西は自発的に動くわけではなく、桜田さんの行動に感化されて行動していくことが多いんです。すべてを想像通りにするのは無理ですけど、俳優さんの動きをキャッチして動くようにしていました」

――それはやっぱり小西という人間にあまり共感できなかったということでしょうか?

「うーん、小西が思うことやなぜそうなっているかを理解はできます。わからないではないんですけど、単純に僕が生きてきた日常では取らない選択肢を取っているなと。ただ、演じる上で共感はなくてはいけないものではないと思っていて。理解は大事ですけど、共感はマストな要素ではないのかなと。じゃないと、自分の価値観に合う役しかできません」

――役作りが難しいとありましたが、小西のなんとも言えないさえなさを演出できているのはさすがだなと思いました

「(笑)。そこはさえないということを意識しないようにしました。キャラクター的な要素を作れば作るほどもったいない気がして、そうではない部分を作っていけば自ずとそういう人間ができあがっていくと思いました。だから、さえないとかイケてないみたいな外見の要素が先行しないようにしていました」

――先ほど話にあった通り、小西を語る上で欠かせない存在なのが桜田。演じていた河合優実さんの印象はいかがでしたか?

「言葉が入ってくる人でした。声量じゃなくて、よく聞こえるんです。誰しも言葉は当たり前に使いますが、河合さんのお芝居の言葉には力がある。人を殺めてしまう力もあるし支える力もあって、あらゆる状態にできる言葉。それを使う以上大事にしないといけないと思うし、小西を通じて入ってくる感覚がありましたし、すごいことだと思います」

『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』に出演する河合優実
『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』に出演する河合優実

(C)2025「今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は」製作委員会

――桜田とのシーンはもちろん、さっちゃんとの2人きりでの場面など、2人芝居が多かったですよね

「基本的に小西ってどの相手にも受けという役割が多いので、皆さんのお芝居を受けようとしていました。皆さんすごかったです。伊東蒼さんとのシーンも、ラストの河合さんとのシーンもそれぞれ違う思い出があります」

――その小西が受けから一步進んで、一人で語る長台詞のシーンがあります。最初にこのシーンがあると知ったときはどう思いましたか?

「率直にうわって思いました。リーガルものとか専門職のドラマなら難しくて長いセリフもありますけど、こういう感情的な話で、専門用語を使うわけでもなくあの量はなかなかないです」

――その日を迎えるまで、一般の人でもわかる緊張感で言うと発表会のようなイメージでしょうか

「そうじゃないですか。撮影の日までカウントダウンしていましたから。撮っている最中もあのシーンに向かっていったので、ずっと意識はしていました」

――振り返ってみて手応えや満足はできているのでしょうか?

「自分で満足はしないです。あまり客観視できるタイプではないので、例外なくどのシーンでも『もっとああすればよかった』があります。満足したら、この仕事が続かない気がします。ものづくりにおいてゴールはないし、100点というのはない。自分で100点をつける日がきたら終わりじゃないですかね」

――個人的にもうひとつ印象に残っているシーンがあって、伊東蒼さん演じるさっちゃんの長台詞を受けている場面。小西の表情は何を物語っていたのでしょうか?

「頭と心と体が全部分離しているような状態です。言葉も聞こえているし、理解もしているけど、受け取る心も体も追いついていないばらばらというイメージです。瞬間的に『そうなんだ』と心の内側でリアクションもしている。だからといって、どうしていいかわかんないし、虚無とも違う。渦巻いていて、定まっていない状態なのかなと思います。現場ではあのときの小西は評判が悪くて、みんなに『最低』って言われていました」

萩原利久と河合優実
萩原利久と河合優実

(C)2025「今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は」製作委員会

――先ほど「100点はない」というお話がありましたが、お芝居は無限に突き詰めることがありそうですよね

「元々、深く深く掘っていく作業が好きなんです。興味があるもの全般がそうなりがちで、一度興味を持つと僕は長く続くんです。それを軸に生活するタイプで、バスケの試合があるから起きようとか、生活のサイクルに入ってくる。だからこそ、興味がなくなった瞬間に全くできなくなるんです。その点、お芝居は永遠に掘ることができる。これだけやっていても、初めてのシーンばかりだし、全く同じことはない。3か月毎日会っていた人と次の日から全く会わなくなって、またはじめましてとやるのが面白いなと思います」

――お芝居を辞めたいと思ったことはありませんか?

「辞めたいと思ったことはないです。辞めたいと思ったら辞めると思います。興味がなくなったら、しんどいと思うし、周りの人に対して失礼になる。こういう仕事をしていると、外での生活に制約がありますけど、それはしょうがないことです。でも興味がつきた瞬間、そういう当たり前のことも大変になってストレスになると思う。そうなったら、次の興味があるものに行く気がします」

――萩原さんご自身の考え方についても伺いたいです。映画では「セレンディピティ(価値あるものを偶然見つける能力)」もキーワードになっていました。セレンディピティについてはどうお考えですか?

「今日までこの仕事できているのが一番の偶然な気がします。志して入ってきたわけではないし、出会いや縁が繋がり続けてここに立っていると思っています。どこか欠けると今日ここにはいなかったのかなと。ただ、僕自身の考え方としては偶然ってないと思っていて。やるやらないも選択しているのは自分だし、偶然に思えることもすべて必然という考えです」

――運も実力のうちということですね

「然るべきタイミングで然るべき人に運が向く、引き寄せる。すべて運が良かったで終わっちゃうと、どうすればいいの?って頑張れないです」

『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』
『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』

(C)2025「今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は」製作委員会

――同じく映画の中で登場した「武装」についてもお聞きしたいです。小西や桜田は自己防衛のためにそれぞれ行っていることがありましたが、萩原さんが普段から生きやすくするために行っている「武装」はありますか?

「アホでいることじゃないですか。こいつに言ってもしょうがないってなれば、避けられることもあるなと、自己防衛の側面です。逆に賢いは演じられない気がしていて、情報の積み重ねでしかないので。賢いフリができる人って賢いと思います。それができない人の抵抗だと思います」

――今回の作品を通じて成長できた部分などはあるでしょうか?

「ものを作るうえでああいうエネルギーの中でやれたらいいなと思いました。大九明子(監督)さんを中心にエネルギッシュで、大変さはありつつも、清々しいくらいエネルギーが巡っていました。疲労にしても良質な疲労というか、運動したあとの筋肉痛みたいなイメージです。あれを追求したいなと思います。この現場での経験が先々に活かせてエネルギーを振りまけるようになったら、成長になるのかな。今は気づきの段階です」

――この作品は恋愛映画ですが、もっと奥深さがある気がしています。最後に改めて映画についてどう見るべきか、おすすめの方法があれば教えて下さい。

「素直に見ていただいたらいいかな。大学生の話ですけど、見る方の状況や環境で見え方は一緒じゃない。2人のやり取りや渦巻く環境が懐かしいもあるし、かわいらしく見える方もいると思います。感情を揺さぶられたり、大学生活という未来を見る若い方もいる。そういう意味では一度見ていただいて、時間が経ったときに見て全然違う作品として入ってくるかもしれないです。長く楽しむ見方もできると思う。出てくる感想はお客さんの自由で、どう感じ取ってもらってもいいかなというのが僕の素直なおすすめの仕方です」

『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』
『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』

(C)2025「今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は」製作委員会

取材・文=まっつ

映画情報

今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は
4月25日(金) 全国公開
原作:福徳秀介『今日の空が一番好き、とまだ言えない僕は』(小学館刊)
監督・脚本:大九明子
出演:萩原利久 
河合優実 伊東蒼 黒崎煌代
安齋肇 浅香航大 松本穂香 / 古田 新太
製作:吉本興業 NTTドコモ・スタジオ&ライブ 日活 ザフール プロジェクトドーン
製作幹事:吉本興業 制作プロダクション:ザフール 配給:日活