名取裕子と寺島進が織り成す"ドラマ好き"たちの心をくすぐる"いぶし銀"の芝居
2025.4.24(木)

大学在学中に芸能界入りし、ドラマ「3年B組金八先生」(1979~1980年、TBS系)のマドンナ的存在の美術教師役で人気を博した後、映画「序の舞」(1984年)や映画「吉原炎上」(1987年)での体当たり演技で話題をさらい、「清張女優」と呼ばれるほど多くの松本清張作品に出演するなど、昭和から時代をつくってきた大女優・名取裕子。

(C)東映
主演から助演まで、出演作を挙げればキリがないが、近年の代表作といえばやはりドラマ「京都地検の女」シリーズ(2003~2013年、テレビ朝日系)だろう。同シリーズは、夫を東京に残し、京都地検に赴任した検事・鶴丸あや(名取)が、「主婦の勘」という普通の検事とはひと味違った感性で事件を解決する姿を描いたミステリードラマで、10年にわたって第9シリーズまで制作された人気シリーズだ。そんな長いシリーズの中で、テイストが変更されて一層ドラマの魅力が増したシリーズが第5シリーズだろう。
第5シリーズ(2009年)は、第4シリーズの最終回で島根地検に左遷されていた鶴丸が、京都地検に復帰するというところからスタートするのだが、猪突猛進で傍若無人過ぎる振る舞いと強烈な個性で周囲に波紋と騒動を巻き起こしながらも、独自のやり方で事件を解決していくという"鶴丸らしさ"が失われており、検察事務官の太田(渡辺いっけい)は鶴丸の変貌ぶりに困惑しながらも、その変化を歓迎する。だが、あることをきっかけに昔の自分を取り戻し、再び"名物検事"として八面六臂の活躍をしていくという、シリーズの中でも鶴丸が自信と自分らしさを失ってしまうという特異な展開が描かれ、鶴丸の人間らしさや弱さが垣間見える同シリーズの転換点ともいえる変化がある。
この鶴丸の変化を、名取が繊細に表現。鶴丸の持ち味である"おばちゃんらしさ"はそのままに、つい見栄を張ってしまう人間としての弱さや、その弱さからくる迷い・落ち込みなどを、長年演じてきたキャラクターながら新しい一面として違和感なく描き出している。そもそも、上品で美しい外見を持ちながら、傍若無人な"おばちゃん感"を全面に出して、外見の印象を打ち消す演技力がすごいのだが、7年目にして新しい鶴丸像を作り上げる演技力の懐の深さに驚かされる。彼女が"おばちゃん"であればあるほど、周りの登場人物は迷惑そうなリアクションができ、キャラのコントラストが濃くなるため、共演者の演技も引っ張り上げる演技で、作品をけん引している。名取の「鶴丸なのだが、"らしさ"が足りない」という絶妙な塩梅の芝居は必見だ。

(C)東映
また、共演者として寺島進が同シリーズから参加したことも大きな変化の一つだろう。第4シリーズまで出演していた船越英一郎が演じる京都府警捜査一課の北村警部に代わり、新たなキャラクターとして寺島演じる京都府警捜査一課の成増警部補が登場する。北村警部は嫌々ながら鶴丸の単独捜査に協力するが、鶴丸をリスペクトしているため、鶴丸に対して一歩引いたような関係性だったが、一匹狼な性格の成増は鶴丸とは"同じ嫌われ者同士"ということから同等の関係性で描かれ、衝突しつつも協力して事件を解決していくという、刑事との関係性による事件の向き合い方が変わっている。
そして、この変化に伴い、名取と寺島の掛け合いに"いぶし銀"の魅力があることも触れておきたい。「互いに我が強く、事あるごとにぶつかり合うも、衝突を繰り返すうちに相手を認めていく」という"戦友"のような関係が小気味良い掛け合いの中で構築されていくのだが、この様子を2人は"全てを表さずとも分かり合う芝居"を展開して描写。この粋でおしゃれで大人な表現方法が、見ている"ドラマ好き"たちの心をくすぐる。
毎話の事件の謎が解かれていくさまに加え、キャラクター同士の関係性の変化やそれを演じる名取と寺島の"いぶし銀"の芝居に注目すると、より作品の魅了を堪能できるだろう。
文=原田健
放送情報【スカパー!】
京都地検の女5(第1話無料放送)
放送日時:2025年5月4日(日)16:00~
放送チャンネル:東映チャンネル
※放送スケジュールは変更になる場合があります
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