ニュース王国

若き日の大沢樹生が躍動する珠玉のサスペンス「卑弥呼殺人事件」

2025.4.24(木)

1990年にTBS系で放送されたサスペンスドラマ「卑弥呼殺人事件」は、阿井渉介の同名小説を原作にした作品。タイトルからは歴史ミステリーを想像してしまうが、舞台はテレビ業界と芸能界だ。主人公はテレビ制作会社のAD・水沢健一で、大沢樹生が演じている。

「邪馬台国発見」というドキュメンタリー番組の制作のため、宮崎の西都原古墳群でロケを行う水沢が、番組で卑弥呼役を演じた女優の殺人事件に巻き込まれる物語だ。水沢は、わがままなベテラン女優の井川紅子(生田悦子)にいつも振り回されて困惑していた。それでも人一倍仕事熱心な彼は、邪馬台国のドキュメンタリー番組を成功させるべく、懸命に奮闘する。そんな水沢の支えとなっていたのが恋人の中町ミオ(佐倉しおり)だった。彼女は無名の女優だったが、芸能界で活躍したい野心を抱くあまり、演出家の亀岡(船越栄一郎)と関係を持ってしまう。ある日、プロデューサーの赤城(中山仁)は"やらせ"疑惑の責任を取り、亀岡を後任に指名して一線を退いた。だがその直後に赤城は、宮崎県西都原古墳のロケ地で、大河ドラマ『卑弥呼』を制作する旨を大々的に発表する。主演の卑弥呼役には井川紅子が抜擢された。水沢は、自分が身を粉にして懸命に取材を進めていた邪馬台国のドキュメンタリー番組が、じつは大河ドラマの単なる予告番組にしか過ぎないことを知ってショックを受ける。その頃ミオは、紅子から酷いいじめを受けて、彼女に対して相当な恨みを抱いていた。そして西都原古墳群のロケの夜、紅子が絞殺死体となって発見される。過去に虹子と愛人関係にあった赤城が疑われるが、ミオにも十分な動機があった。そんな中で第二の殺人事件が発生し、事態は混迷を極めていく...。

主演の大沢は、当時アイドルグループ・光GENJIのメンバーとして絶大な人気を誇っていた。光GENJIの結成前からドラマにも出演して俳優としても活躍。特に「目力」の強さが特徴的で、主役から悪役まで幅広い役を演じた。本作が放送された1990年にはTBSの大型時代劇「源義経」で平敦盛役、日テレの「天と地と~7黎明編」では長尾景虎(上杉謙信)を演じるなど、大きな役を射止めて評判を呼び、俳優として脂が乗っていた頃。本作では、羨望と嫉妬、怨恨が渦巻く芸能界で発生した女優殺人事件に巻き込まれる若きADを体当たりで熱演。エネルギッシュで爽やかな青年役で、恋人に裏切られたり、熱意をもって仕事に打ち込んだ結果、踊らされたりという複雑な心情を巧みに表現している。嫌みな女優の紅子を演じる生田の演技も上手いが、やはり2時間サスペンスの帝王である船越の放つ存在感はピカイチだ。本作では、船越演じる亀岡の恋人役として登場する吉川十和子(現・君島十和子)も好演。また、重要人物のひとり・赤城を演じる中山仁も深みのある芝居を見せてくれる。
原作小説を手がけた阿井渉介は、シナリオライター出身で「ウルトラマンレオ」や「刑事くん」、「特捜最前線」などのドラマで活躍。「ウルトラマン80」ではメインライターも務めた。本作は1983年に書かれ、阿井が小説家に転身した初期の作品である。テレビ業界や芸能界の裏側をよく知る彼だけに、リアルで説得力のある描写がドラマのストーリーにも生かされているという印象だ。大作ドラマと連動したドキュメンタリー番組などは実際に目にするし、「やらせ事件」なども当時メディアを賑わせたことがあり、リアリティを感じさせる。中盤では赤城が政界の汚職を追っていた話なども描かれ、犯人捜しを巡っての重層的な展開で最後まで目が離せない。

大沢は、本作の後も俳優として長く活躍しており、刑事役からヤクザ役まで演技の幅が広い。個人事務所の社長を務めるほか、近年では格闘家としてリングに上がるなど、精力的な挑戦を続け、50代に入っても相変わらず元気がいい。かつて光GENJI時代には、アイドルとしての人気だけで、ドラマや映画で実力不相応に主役を張っていたことに葛藤があったことを後に告白している。それでも、しっかりと演技に磨きをかけて徐々に実力を発揮し、俳優としての地位を地道に築いていったことは確かだ。本作の頃は、内心では悩みを抱えていたのかもしれないが、生き生きと演じており、画面映えも申し分ない。後年の渋みを纏った大沢もいい味を出しているが、アイドル時代の彼も十分に魅力的だ。そんな大沢の若き日の躍動が見られる「卑弥呼殺人事件」を改めて楽しもう。

文=渡辺敏樹

放送情報【スカパー!】

卑弥呼殺人事件
放送日時:2025年5月16日(金)19:00~
放送チャンネル:TBSチャンネル2 名作ドラマ・スポーツ・アニメ
※放送スケジュールは変更になる場合があります